第百八話◆:救済、かくして彼は『転校』という選択肢を選ばなかった。
第百八話
世間がクリスマスだと騒ぎ立てているその日、雨乃零一は降りしきる雨の中を一人歩いていた。
「ちぇっ、クリスマスなのに満の代わりにあるバイトなんてついてねぇ……」
隣町までやってきており、面倒ごとにならないうちに逃げてきたというわけである。もっとも、逃げてきたというよりも彼の友人である吉田満がようやくバイト先にやってきたのでバトンタッチしたといったほうがいいだろう。
昨日の夜から降り始めていた雨は土砂降り状態が続いており、川がいつもより増水している。それは橋の近くに近づくだけで零一の耳でしっかりと聞き取れるほどの音だった。
人通りがかなり少ない場所なのでもしも、ここで川に落ちたとしたら大変なことになるんだろうなと零一は思うのだった。
そんな時、彼の耳にどこかで聞いたことがあるような声が聞こえてきた。
「はぁ……はぁ、もう充分だろ?君らいったい何がしたいんだよ?」
「あの人は……」
以前、不良三人組から自分を守ってくれた人だということに気がついた。どうやら、不良に絡まれているようで三人のうち、一人はすでに倒れていた。もう一人も尻餅をついて動いていない。
「うっせぇんだよっ!!」
「やめろっ」
零一は傘を放り出して鼻血を出しながらも他校の男子高校生に突進していく相手をとめる。不意をついての一撃は相手を橋の向こう側へと押し出すことに成功する。
「君は……」
「お久しぶりっす」
相手もどうやら零一のことに気がついたようでびしょ濡れになりながらもぶつかったときにこけた零一を助け起こしてくれた。
「今のうちに逃げましょう、こんな奴らに構っていると面倒ごとに巻き込まれますよ」
「え、あ、ああ……そうだね、逃げようか」
温和そうな少年と一緒に橋を渡りきり、手を振る。
「じゃあ、俺はこっちのほうなので」
「僕はこっちだ……まぁ、また、どこかで会おうよ」
「ええ、その時はよろしくおねがいっす」
零一はずぶぬれになるのも構わず、そのまま走り去るのであった。ちなみに、彼がであった温和そうな少年と出会うことはそれ以降なかったりする。
土砂降りのクリスマス。雨乃零一が手を差し伸べることによって転校するはずだった一人の少年はそのまま転校せずに高校三年生に進級したということをどれだけの人が知っていたのだろうか……。
はい、まさかの煩悩番号であの人の救済を行いました。これは当初から予定していたもので第十話ぐらいには書き終わっていたといっても過言ではありません。無論、助けた代わりに雨乃零一は記憶喪失に陥るという案もあったのですがコメディーとしてやっていく自信がなかったのと、話がむちゃくちゃになってしまうのでやめました。さて、転校しなくなったということはどうなっていたのでしょう。実に気になるものです。一日二回目の更新は、感想を頂いたからです。ええ、このまま寝ちまうところでした。いやぁ、危ない危ない。では、皆さんおやすみなさい。三月三十日火曜、二十二時十三分雨月。