第百七話◆日常編:罠の希望書
第百七話
ニアに呼び出されて家に遊びに行ったわけなのだが、そこで『罠の希望書』と書かれている紙を手渡された。ニアからではなく、爺さんからである。
「え~と、こりゃ一体全体……」
「そのままの意味じゃ。今日は地下室に侵入してきた者を捉えるために罠の話をしようと思ってな」
「……」
さらっと何をえげつないことを言っているのだろうか。
「まず、罠についてどんな印象を持っておるか言ってみろ」
「……そうだなぁ、自分より相手のほうが実力が上であり、且つ、正攻法で勝つことの出来ないときにつかったり、侵入者をあっといわせる方法で捕まえるものだなぁ」
「そんなもんじゃろう。罠はそれこそマンモスを追いかけていた時代から使われておる。落とし穴が一般的なものじゃろう。その場合は穴に追い立ててそのまま落とし、設置されていた棘のようなもので殺傷するというのが定法じゃな。じゃが、地下室に設置するものは相手を傷つけるというものではなくて、相手を脅かし、早く此処から逃げ出さなくてはと思わせるものじゃ。じゃから、トラバサミとか落とし穴はいかんぞ」
「……いや、俺に言われてもな……第一、俺は今日、ニアに呼ばれたんだぞ。ニアはどうしたんだよ」
「ふっ、まだまだ若造は若造じゃな……零一、今日ニアの家で遊ぶぞ(ニアの声そっくり)」
「……声真似かよ……」
本当にこの人は忍者じゃないのだろうかと思うときがある。いや、よくよく考えてみたら俺も声真似ぐらいできるぞ。
「それはともかく、出て行こうとするというのなら……やっぱり、相手を拘束したりするのは駄目だよなぁ……ん、落とし穴に落ちたらそのまま滑って外に出るっていうのはどうだろう。もう一度侵入しようとすると今度は間違いなく警報が鳴り響いたりする……これならもう、侵入しようとは思わないはずだぜ」
「惜しい」
惜しいといわれて『ニアが提出済み』という紙を手渡された。
「まぁ、落とし穴に落として外に出すという発想がいいようじゃが地下に落とし穴を設置して其処からどうやって地上に出すんじゃ」
「落とした先に地上に繋がるはしごをつけときゃいいんだよ」
「他にも地下道につなげるというのもいいかもしれんなぁ。他にも考えてくれ」
「……そうだなぁ、後は……」
さて、後は何があるのだろうか……
「おっと、忍者屋敷などを参考にしたのは駄目じゃぞ。先人が考え付いていたものはすばらしいものが多いが対策と傾向を考える輩が多いからな」
「……いや、罠の対策と傾向ってテストじゃないんだからよ……そんなのするやついるのかな」
「地下室に忍び込んでくるような奴じゃから考えておいたほうがいいじゃろ」
「……ああ、それなら変な匂いを充満させるって言うのはどうだろう。侵入者が侵入してから十分後とか決めておいて、変な匂いをかがせる。此処が危ないっていうことを認識させるんだよ」
「……まぁ、一つの案として考えておこう」
「あとはそうだなぁ、鏡か。天井、壁、床、扉の全てを全面鏡にして……」
―――――――――
数日後、ニアの家の前を通ると工事現場のようになっていた。
ちょうど、道場から爺さんが出てきたために呼びかける。
「……おーい、爺さんっ。何してるんだよ」
「見てのとおり、工事じゃよ。あの後、家族会議で様々な案がその後に出てなぁ……出来上がったら若造を最初の実験台として研究室に送り込んでやるからな。楽しみにするといいぞい」
「……」
正直に言っておくが、わざわざ罠てんこもりの地下室に誰が行くのだろうか。流石の爺さんでも俺の心の声は聞くことが出来まい。
「安心せい、三十分程度経ったら命の危険にさらされる前にちゃんと助けに行ってやるからな」
「……絶対嫌だ……ところで、そういえば最近ニアに出会わないんだけどどうかしたのかよ」
そういうとにやっと爺さんが笑った。
「な、何で笑うんだよ」
「そんなにニアに会いたいのか……言ってくれればニアを毎晩毎晩、お前の部屋に忍び込ませてやるものを……」
「いや、毎晩は遠慮しておくわ。ニアが毎晩来たら色々と面倒そうだし……で、ニアはどうしたんだよ」
「ニアはなぁ、今、ちょっとした任務の最中じゃ。年明けぐらいには帰ってくるんじゃないのか」
「……」
今はまだ十一月中旬だぞ……一体全体、何処までニアは出かけちまったんだろうか。
「まぁ、あれじゃな。実力があるものは他の連中から疎まれることもあるじゃろうて。そういった連中をニアは先手を取って襲っておるといっていいな」
「……何の話をしているのか俺にはさっぱりだわ」
ともかく、年が明けないとニアに会えないというのはちょっと寂しいな。
このネタは無感の夢者さんからのものです。本当はもっと忍者屋敷チックな話にしようと努力したんですよ。ええ、努力が足りなかっただけです。残念でした。参考資料も色々とあたったりして吊り天井なども……ねぇ、歩いていたら下から棘とか……まぁ、完成してからのお楽しみということで。では、また次回お会いしましょう。今日もまた、一時間の片道をかけて旅に出ます。帰ってきたら再び執筆作業に移行し、さっさと三学期の話に移れるようにしたいと思います。三月三十日火曜、七時五十四分雨月。




