第百四話◆保留編:タイトル無し
第百四話
「……おはよう」
「ああ、満か。おはよう……」
最近、吉田満がぼろぼろである。いや、朝からぼろぼろなのが珍しいのだ。俺も冬服のために見た目がぼろぼろなのだが(これは笹川、ニアが悪い)あっちがぼろぼろなのは身体のほうだ。
「今日も傷だらけだな。何でだよ」
「気がたっているんだよ、妹の」
「ああ、妹さんの……そういえば、お前の妹さんは何か特徴ある奴なのか。二メートルを超える巨人で、クマみたいな腕、象と鯨を足して二で割ったような顔とか……」
そういうと微妙な顔をした。そして、俺の方をジト目で見てくる。
「おいおい、君は僕の妹にちょっかいを出すつもりなのかい」
「いや、参考までに聞こうと思ってよ」
「参考って……あのさ、僕の妹がウソが大嫌いだって知っているよね」
「……ああ、誰かから聞いた気がするな。それがどうかしたのかよ」
「……僕ね、君の事を『大嘘つきで女たらし、生活能力ゼロの屑の様な人間』だって教えたんだ」
「……」
うわ、そりゃひでぇ。俺ってそんなにひどい人間だったか……
「待て、女たらしはないだろ。もてない男を捕まえてお前は何が女たらしだ」
「いや、だから冗談だってば。妹に会わないだろうからいったんだよ……正直、会わないほうがいいよ。会ったら確実に零一はやられるね」
「……イチコロか」
「ああ、きっとイチコロだよ。正直、栞たんでも勝てないって思う」
「……」
そういえば真先輩も似たような事を言っていたような気がするなぁ。
「じゃあ、やっぱり特徴を教えておいてくれ。見たときは急いで逃げるようにしておくからさ……あ、それか鈴の音を聞いて逃げたりするか」
「いや、クマじゃないんだから……ちょっとまってよ」
満はしばしの間考え事をしているようだったが頷いた。
「……まぁ、君がちょっかいをだしてもあいつにぼろぼろにされて素っ裸で学校に吊るされるだろうから僕も安心だよ」
「それが冗談に聞こえないのは何でだろうな」
「ま、好きなようにとっておいてくれて構わないよ……妹の特徴はね……鼻にバンソーコーしてて、小さくて、八重歯で、髪を後ろで束ねててねぇ……」
まぁ、たまにいたりするけどそれじゃちょっと怖いな。もしも、そういった人がいたとしたらすぐに逃げなければいけなくなってしまう。
「一番の特徴は何だよ」
「あ~、後は……木刀を持ち歩いているね」
「変態だな」
「へ、変態じゃないぞっ。僕の妹は変態じゃないっ」
「きっとお前の変態が移ったんだな」
「何おうっ、殴るぞ、零一っ」
「おう、やるならやりやがれっ」
その後、朝のHRが始まるまで青春を謳歌した……とかだったら面白かったのかもしれないが実際は笹川がやってきて『邪魔よ』と足蹴にされた。何故か、俺だけである。満は笹川の後ろに隠れて舌を出していた。
「……てめぇはジャ○アンに隠れるスネ○かっ」
「ふっ、何とでも言うんだね。栞たんに君は手をあげることが出来るのかい」
上から目線である。ちっ、なめた野郎だぜ。
「出来る。出来るけど……その後の報復はパンチ一発に対して二倍、三倍……どんどん上がっていっちまうぜ。お前はまだ『笹川インフェルノ』を喰らっていないからわからな……いったぁっ」
笹川の拳はきっと、鉄で出来ているのだろう。『鉄のブックマーク』という仇名を俺は進呈したい。
「雨乃、馬鹿を言っていないで座りなさいよ」
「ごめんちゃい、栞ちゃ……今のは口が滑っただけだ。安心しろ、普段は滑らないようにスタッドレスタイヤをきちんと装備して……くぱぁっ」
「変な声を出さないでよ」
「もうっ、栞ちゃんが出させたんでしょ(はぁと)」
その後、朝のHRが始まるまで笹川の新作コンボお披露目会は続いたのである。全く、俺のことを何だと思っているのだろうか。
「笹川、俺のことをどう思っている」
そういうわけで、授業中に聞いてみた。
「……」
すると、どうだろうか……笹川は一生懸命白い紙に書き始めたのである。時折、俺のことを見て、そして、最後は消しゴムでこれまで書いた文字を全て消したのである。
返ってきた言葉は以下の文であった。
『言葉では言い表せない何か』
「………」
喜んでいいのか、悲しんでいいのか……笹川栞という人物、まだまだ謎の多い人間である。
ふはははは…今日もバイトですよ、奥様方。あ、それと昨日ディスプレイが届きました。いやぁ、よかったよかった。まだ全く起動させていませんが仕方ないですね。HDMI?ケーブルがないので買わないと駄目らしいのです。明日は電気屋に行くしかありませんね。三月二十八日日曜、七時十七分雨月。