第百二話◆ニア編:追いかけ
第百二話
「ゼロツーの内臓器官は肥大、収縮を行える設計になっておる。全体の一割の内臓しか身体の中に普段は無いのじゃよ」
「へぇ、すげぇな」
「飲食時に胃が肥大化し、その後は腸が肥大化……機械というよりも第二の人間を作るうえで人造人間的な扱いになっておるけどな。まぁ、元は天使を作るためのプロジェクトじゃ。翼も勿論、生える予定なのじゃ」
ニア家に招待された俺は地下の研究室ではなくニアの部屋で爺さんと話していた。ニアは今頃お茶でも運んできていることなのだろう。
「一応天使なんだよなぁ」
「そうじゃ、人工の天使になる。翼のほうは人の手と機械が融合したような感じのもので……原初的なイメージを見たものに与えるじゃろう」
「最初は介護用とかって言ってなかったか」
「最近、忘れることが多くなっておってのう。忘れてしまったわい」
全く、相変わらず調子のいい爺さんだ。
「他にも試作的な装置が色々と組み込まれておる。空間把握能力の増大に空間を捻じ曲げる力、転送装置の増設ぐらいかのう」
「……いや、それってもう天使でもなんでもないような気がしてきたんだが……」
「おっと、言い忘れるところじゃったが……勿論、戦闘用としても充分こなせるほどの耐久性を持たせておる。高エネルギーを自機周辺に展開させて相手からの物理的な干渉を妨げるという装置じゃ。無論、その高エネルギーシールドを展開している内側からの攻撃、すなわちゼロ距離などの攻撃からは身を防げんがな。近距離戦闘兵器には負けてしまうじゃろう」
「……」
爺さんは何処と戦うというのだろうか。
「左腕内部には高エネルギー収縮砲も収納されておるからな。全方向にシールドを展開し、そのまま圧縮した高エネルギーを対象にぶつけるという試作兵器じゃよ。立ちふさがる障害をすべて排除する天使じゃ」
「いや、凄すぎだろ」
「零一~お茶を持ってきたぞ」
ニアが熱いお茶を俺と爺さんのところに置く。その後は俺の近くへと腰を下ろす。
「そういえばじーじ、さっき電話で『ゼロツーボディが盗まれたと伝えて欲しい』って言われたぞ」
「なぬっ」
爺さんが驚くところをはじめて見た気がした。
「むぅ、まさか本当に盗むとは……すでに実装されている装備を何につかう気じゃ」
いや、普通に大暴れするために使う気では無いのだろうかと俺は思うわけだ。だって、これを介護用に使いますとか犬の散歩用に使いますっていう馬鹿はいないだろうよ。まぁ、ともかく俺には関係のある話ではないために無視してお茶をすする。
「お茶がうめぇな」
「若造、ニア、これからお前達二人に任務を与える。東研究事務所へと向かい、その後はゼロツーボディの奪還をしてくるのじゃ。ゼロツーユニット、つまり若造は携帯をここにおいていけ」
「え」
携帯電話を取り上げられた後にニアが近づいてくる。
「行くぞ、零一」
クノイチニアに抱えられてそのまま窓からするりと抜け出す。
「……俺は普通の世界の人間、俺は普通の世界の人間……」
「零一、黙っていないと舌を噛むぞ」
――――――――
「東グループってこんなのも作っていたんだな……」
いつか地下室で見た、というか、追いかけられたマネキンが宙にぶら下げられている。だが、動くことは無く、静かなものであった。
壁が何かによって壊されて淵の部分が黒くなっている。
「……なぁ、ニア……ゼロツーボディってそんなに危険なものなのか」
「……危険だ。零一が持っている『ゼロツーユニット』以外のものをセットすると暴走するようにされているって聞いたぞ」
「……」
左手の何だったかな……高エネルギー収縮砲とやらをぶっ放す化け物が脳内で暴れている。自衛隊が総力を結集して攻撃に当たっているが、円形で半透明のシールドに阻まれて本体には一切の傷がない。
「……なるほど、そりゃ厄介だな」
「幸い、研究員に怪我はないようだし、じーじのお友達も此処にはいなかったみたいだからよかった……零一、追いかけるぞ」
再び小脇に抱えられた俺だったが、一つだけ思ったことがある。いや、これは十人中十人が首を傾げるしかないだろう。
「何で、俺を連れて行ったんだろうか」
はい、ニア編の割にはゼロツー編っぽいなぁと思った作者雨月です。言いたいことがあったのですが忘れてしまいました。また、次回お会いしましょう。三月二十六日金曜、七時二十分雨月。