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第百一話◆日常編:モテなくても泣かないさ

第百一話

 気がついてみたらあっという間に十一月。入学式前に『下駄箱の中にラブレターとかが入っていたらいいなぁ』と思っていた甘酸っぱいガキの考えはあっさりと消え去ってしまっている。友達なんて出来なくていいから彼女が欲しいぜ、転校して少しでも目立ちたいぜという気持ちも少なからずあったわけなのだがなかなかうまくいかないのは何でだろう。ま、誰かに聞いて答えが返ってくるわけでもあるまいよ。

「満、彼女を作るにはどうしたらいいんだろうな」

「そんなことは簡単だよ」

 朝のHRが始まるまでは基本的に教室でがやがやとやっている。勿論、傍から見たら俺たち二人もその中に分類されているに違いないだろうが。

「……知っている女子の携帯電話に付き合ってくれとかけまくったり、女子の家まで行って土下座して付き合ってくださいとか後は……」

「お前のことを俺は凄いと思うよ。俺にはそんな勇気ない」

「そうかい、零一が僕のことを褒めてくれるなんて嬉しいね」

 ああ、皮肉も通用しないなんてこいつもかわいそうな奴になっちまったもんだな。

「雨乃、満君、おはよう」

「おはよ、笹川」

「栞たん、おはようっ」

 朝の喧騒と共に笹川がやってきていつものように俺の隣に腰掛けた。涼しい瞳に、クールな雰囲気。これで雪国出身だったら完璧だったんだけどな。いや、何が完璧だって聞かれたところで俺は答えることができないぞ。雪女ってところかな。

 俺が脳内で問答をしているうちに笹川がかばんから本を引っ張り出して読書を開始する。

「へぇ、栞たんも恋愛小説なんて読むんだね」

 満がそういって珍しそうに笹川を見ている。

「まぁ、ちょっとは」

「うんうん、青春なんだねぇ……そうだ、今度一緒に夜景の綺麗なところでディナーでもどうだい」

「……」

 笹川は無視をしている……のか、それとも本当に本を読んでいるのかは定かではない。まぁ、一言言えるのは満がかわいそうだということだった。そういうわけで、助け舟を出してやることにした。

「え、俺に言っているのか」

「違うよっ、栞たんにきまっているじゃないかっ」

「まぁ、笹川を連れて行くだけ無駄だろ」

 そういって茶化すと笹川に睨みつけられる。君の瞳に完敗っ。



――――――――



 廊下を歩いていると不意に誰かの視線を感じた。後ろを振り返ってみると湯野花さんがこちらのほうへ歩いてきていた。

「あれ、湯野花さん」

「朱莉って呼んで下さいといいましたよね」

 なんだか変に凄みのある表情をしている。

「あ、ああ……悪い……で、何か用なのかよ」

「用が無かったら話しかけちゃいけないんですか」

 これまた怖い表情をしている。

「い、いや、そういうわけじゃないんだが……というか、何でそんなに怒っているんだよ」

「この前、廊下で笹川栞と抱きしめあっているところを見たんです。ずっと……お二人は彼氏と彼女の関係なんですかっ」

 吐き捨てるようにそういわれるが、何で怒っているのかは答えてくれていない。質問に質問で返すなんてちょっと卑怯じゃないのだろうか。

 おかしいことはおかしいとちゃんといえなければ駄目だ。俺は腹をくくって……

「朱莉っ、俺は何で怒っているかって……」

「答えてくださいっ」

「……彼氏と彼女じゃあ~りませんよ」

 人生は耐え忍んでこそ、面白みが出てくるというものなのだろう。うん、下手に争うよりは流されるままに行くのが常道なのかもしれないな。

「じゃあ、何であんなことをしていたんですか」

「あ~、あれは……」

 何であんなことをされたのだろうか。今だってわからない。

「多分、プロレス技に派生する前のモーションじゃないかな」

「本当ですか」

「どうかはわからんが、あの状態のときにとっさに思いついたのがそれだったもんなぁ」

「……そうですよね、粗野で乱暴な笹川栞が……でも……ぶつぶつ……いや、意外と……」

 なにやら朱莉は一人で考え悩んでいるらしい。邪魔をしてはいけないだろうと気がつかれないように慎重に慎重を重ねてその場を後にすることにした。

「でも、何であんなことを聞いてきたんだろうなぁ」

 朱莉が俺のことを調べているのは別に構わないのだが(慣れとは恐ろしいものである)怒ることもないだろう。

「……わからねぇなぁ」

 これも誰かに聞いてみたらわかるのかもしれないな。まぁ、今度会ったときにでも聞いてみるとしよう。


前作の失敗をふまえた上でのサブタイトル。前作では予想以上に◆が多くなりすぎて面倒になったのでこれからも変わりません。まぁ、変わった所といえばサブタイトルに編をつけたところですかねぇ。誰が楽するかって雨月ですけど……。ああ、そういえばクーデレって何なのかようやく謎が解けました。教えてもらったのです。ええ、これでまた一つ賢くなれました。よかったよかった。それでは、また次回……さすがに、今日中に二百話まで更新なんて出来ませんよ。三月二十五日木曜、七時四十一分雨月。

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