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第捌話 逸れもの

後日、地下の秘密基地で阿闍梨と旭が待機しているとコンコンとノック音が響く。

そのあと、そろりと青葉が顔を出し室内を見て苦笑いしながら慎重に中へと入ってきた。


以前から彼女は緑色のワンピースにピンクのスカーフを首元に巻いているようだ。


「寿彦さんから聞いてはいたけど凄い事になってるわね。目が痛いわ」


「マダム、お待ちしておりました。ささっ、此方へどうぞ」


「あら、其方は下座じゃない。まぁ、いいわ。それで、私に何か聞きたい事でも?旭さんからは此処に来たら教えると言われているんだけど」


と青葉がそう言い終わる前に旭は渋い顔をしながらこう質問した。


「お前達の中に夜中に出歩いている奴はいないか?勿論、仕事以外でだ。阿闍梨は同業者の中に勝手な動きをしている奴がいると目論んでいる。ただ、何年も運び屋をやってる奴らは集団ぐるみで隠蔽してる可能性も高い。そこで青葉、お前の出番だ。何かそう言った情報は持ってないか?」


突然そのような事を言われ、青葉は目を泳がせる。

しかし一生懸命考えているようで何かブツブツと呟きながら思い出そうとしているようだった。


「...そうね。ごめんなさい、私からは何も。一瞬、寿彦さんの事がよぎったのだけど基本的に病院の見舞いとか、この前末っ子君が倒れた事があったでしょう?その見舞いで協会に出入りしてたぐらいだし。真夜中の外出なんてそんな物じゃないかしら?」


「そうですね。基本的に緊急事態の場合が多いです。ですが私の探している事例は“本人すらも自覚しておらず勝手に身体が動き出す”いわば夢遊病のような状態の人間なのです」


そのあと青葉は目を見開き、口元を震わせているようだ。


「...ねぇ、少し私の話を聞いてもらえるかしら?以前からね、ずっと疑問に思っていた事があるの。ほら、寿彦さんって朝一の仕事を受けてるでしょう?いつもニコニコしてて、疲れなんて知らないぐらいに。でも、やっぱり妻としては心配になるのよね。ちゃんと休めてるのかなって。そんな時にね、夢を見るの。寿彦さんが何処かもわからない桜の木の下で眠っている夢。面白いでしょう?夢の中で寝てるのよ。ちゃんと会話も出来るし不思議だなっていつも思ってた。...もしかして」


それと同時に旭も朱鷺田が見た怖い夢について思い出した。


「案外、それが俺達の現実なのかもな。トッキーもさ、俺がどっか行っちゃう夢を見るらしいんだ。そのあと、楽しそうに女性の話を俺がするんだと。俺にはそんな自覚がないから半信半疑だったし、正直何かの冗談だと思ってはいたんだけど無意識に俺はあいつを傷つけてる可能性があるってことだよな?それって凄く怖くないか?」


不安がる2人を見た阿闍梨はこの場を好転させようとパンッと目の前で手を叩く。


「失礼、私の目の前に蚊がいたような気がしたのですが気のせいだったようですね。ただ、お2人の話を聞くに特定の人物だけでなく集団で不可思議な現象に以前から巻き込まれているという事になりますね。誰が被害者で加害者なのかという事に焦点を置くのは得策ではないと私は思います」


「そうね、貴方のいう通りよ。元々、比良坂町という場所は単調に見えて複雑なのよ。壁が全て打ち砕かれて、平和になったように見えるけどまだまだ問題は山積み。最近では流行病が流行ってるっていうじゃない?あの出処って何処なのかしら?」


青葉がそう言うと旭と阿闍梨はお互いに顔を見合っている。

そのあと、旭が指示を出すように手を目の前でヒラヒラと動かしているようだ。


「あれはですね。角筈の子供達からのようです。ただ、あの場所は異質でして。目が虚ろで倒れ込んでいる人達が口を揃えて言っているデマカセに近い物なので余り信用されない方がいいかと。ただ、黄泉先生は興味を持たれているようで今回の事例と合わさって調査をされると先日言っておられました」


「だとしたら、近々。それに関わる報告なり、集会がありそうね」


その日の夜、敷島邸の自室で節子は何か物思いにふけながらもその手にある古い書物を読んでいるようだった。


「節子お嬢様、就寝前のココアをお持ち致しました」


「まぁ、爺やいつもありがとう。でも今は読書に集中させて。それに大事な書物を汚してはいけないわ」


「大層熱心に読まれていると思いましたが、それはかの有名な朝風会長の日誌ではございませんか。協会に大切に保管されていたと聞いておりますが」


確かに節子は手袋をし、出来るだけ損傷させないよう摘むようにページを捲っているようだった。


「えぇ、そうなの。だけど、ページが破れていたり燃えていたりしてまともに読める箇所が少ないの。修繕班も頑張ってはくれているのだけどこれが限界みたいで。模写をされては?と意見を貰うぐらいでね。今日は持ち帰って内容の確認をしようと思って」


「成る程、御三家の御息女である節子お嬢様であれば正しくその内容を後世まで語り継がれると周囲はお考えなのでしょう。私にも興味がございます。差し支えなければ教えて頂いても?」


爺やがそういうと節子は嬉しそうな顔をする。

普段は爺やから沢山の事を教えてもらう彼女だが逆の立場でいられる事に喜びを感じているのだろう。

そのあと、とあるページを捲りその内容を読み上げているようだ。


「私達のご先祖さま、朝風会長はね。文武両道は勿論、多趣味で多才な方だったんですって!その中には絵画もあって、鑑賞は勿論、ご自身で筆を取られる事もあったんだとか!後はね、幼い頃忍者のように闇夜を駆け抜ける存在になりたいって願ったと書かれているわね。これを将来の夢ととらえるのであれば、願いが叶ったという事かしら?」


「ほうほう、確かに朝風会長様は夜を駆け抜ける運び屋でございますな。節子お嬢様にもそのような夢や希望があるのでは?」


しかし、節子は突如暗い顔をし窓を開け天上の星空を仰ぎ見た。


「そうね。私にも北極星のように道標があったら良かったのだけど今は何処かへと消えてしまったわ。私がね、瑞稀さんや亘さんと文通を始めたのも先生方が居なくなって怖かったからなの。誰も居なくなって、その果てには自分も消えて居なくなってしまうんじゃないかと不安で怯えてた。お父様は大丈夫、必ず見つかると町の外に出て探してくれてはいるけど何の手がかりも無し。瑞稀さんのお養父様もそう。一時期町から離れられていたし、皆お2人の事を探してる。でも、私は何も出来ていない。寧ろ、以前より縮こまっているだけ」


「いいえ、節子お嬢様。決してそのような事はございません。実際にお嬢様は亘様の手紙を受け取り、ご自身の目で確かめようと他の区へと足を伸ばされたのです。結果、失敗に終わりましたが望海様方にその波紋は広がり、半年前の事態を終息させた。ご立派な事かと思われます」


節子は薄らとだが、目に涙を浮かべているようだ。

しかしその表情は穏やかな物で、その瞳も真っ直ぐ前を見つめていた。


「武曲先生、妃翠先生。どうか私の事を見守っていて。必ずお2人を満天の星空の元に帰すから」

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