表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/58

後編

「開けるよ」


慎重に圭太が開けた先には一目の赤が敷き詰めてあった。

その赤バラ達は運び屋達にまとわりつき、棘は皮膚に刺さり血液を吸収していく。

それは不自然にも大きく、脈を打っているようにも見える。

天井からも何かを隠すように赤バラが降り注ぎ、圭太の顔に降り注ぐ。


「...うっ」


しかし、それを美しいと言う間に現実を突きつけられる。

血を吸い、鮮やかに成長した花は当然悪臭に苛まれる。

上品な香りなど最早存在しない。


「これは...匂いを嗅ぐなよ東。頭がおかしくなりそうだ。なんなんだよ、このでかいバラは!俺たちが何をしたって言うんだ!早くこれを解いてやらないと」


この異常事態にティムが自分の正義感からか、それに囚われた運び屋の1人を救おうとする。

しかし、それを制したのが圭太だった。


「待って、ティム!これは血で染まったバラ達だ。もしかしたら血管と同化してる可能性がある無闇に引き抜くのは危険だ」


そんな時であった、上の階が漆黒に包まれる。

何か黒い蔦?いいや、それ以上に太い幹が柱や手摺を絡め取り粉砕していく。

2人にはそれが植物ではなく、何かの生物の触手に見えた。


次第にステンドグラスからの光も遮られ、絶望に追い込まれる程の暗闇が2人を襲った。

漆黒の樹木、いや“生きた”樹木達は次第に1階の礼拝所へと足を伸ばし圭太とティムに詰め寄る。


もう、神への救いの祈りは届かない。

それほどまでに、周囲の十字架や像、オルガン達は瞬く間に粉砕されてしまった。


「...逃げて」 「...此処から出るんだ」 「早く!」


囚われた運び屋たちの最後の忠告が聞こえる。

そんな中で2人は背中合わせになり、最後の手段に出た。


「東、ちゃんと王国の歴史は勉強したよな?この状況、赤バラに抵抗出来る物はなんだ?」


「それは勿論、純潔の白バラに決まってる!」


【コード:800 承認完了 塔の王子達を起動します】

【コード:395 承認完了 塔の王子達を起動します】


『はははっ!』 『にいさんまってよ!』


何処からともなく、純粋無垢な王子様の声が聞こえる。

その幻影は弓を携え、勇敢にも敵を翻弄する。

しかし子供達はその後、消え失せてしまった。


「そうだね、ずっと長い間。君達は亡霊の王子達だった。でも違ったんだ」


突如として、白バラが中を舞う。

ステンドグラスが光さす方向には、反旗を翻そうとする仮面の騎士とデュラハンの姿があった。

いない者とされてきた王子達は立派に成長し、目の前に現れた。


内から時間差で外から攻撃を浴びた謎の生物はそれに抵抗出来ず、ジリジリと後退し、触手達は何処かへと戻るように退いていく。

運び屋達を拘束していた赤バラは次第に萎み、枯れ果てて言った。

そのあと、ステラは2人を心配したのか?

協会内に入ると魅力されたように宙に舞う白バラを見ていた。


「とても綺麗ね。これが真実だったという事なのかしら?」


その言葉に圭太とティムは頷くが、協会を出ようとした時に足を止めた。

何か天井が黒く塗りつぶされていることに圭太が気づいたからだ。


「ティム、これ。...もしかして、あれを信仰してる場所なんじゃないか?」


ティムが同じく上を見上げるとその天上には何かの絵が描かれている。

それは神秘的な神々や天使でもなく、此方を覗く瞳だった。

全てを食いちぎらんとするその口と歯以外、全て闇、黒雲が立ち込めている。

しかし、2人には直感的に分かった事がある。


これは母親だ。女神だ。黒雲の女神。そう圭太は心の中で命名した。

そのあと、ギルドに報告しなんとか協会内に囚われていた運び屋達は無事である事をリチャードとフランシスから伝えられた。


「黒い仔山羊と黒雲の女神か。何か嫌な予感がする。それがあの森にいたという事だね」


報告書を見たリチャードは溜息を吐きながら、島と王国が詳細に描かれた地図を見つめていた。


「あの森には魔女信仰があったっていうし、可笑しな話しではないと思う。だとしても、黒魔術とかの範囲を超えている。あの森にはもう行きたくないかな。少なくとも、自分からは」


圭太の話を聞き、剣幕な表情で祖父の写真を見るフランシスは口を開いた。


「当たり前だ。とりあえず、生存者がいただけ良しとしないと。そう言えば、圭太は何故この島が3つの国に別れているかを知っているかい?」


「あぁ、それは僕も勉強した事がある。それぞれの地域に王族がいて、対立したり協力関係にあったとか?今も拮抗状態で統一する事も不可能だとか色々」


「そうだね。実は今、世界中で同じような事が起きている。東の住む比良坂町って周りが海に囲まれてるし、地理的には攻めにくいだろう?正直言って君が羨ましいよ。だけどね、東。もし...もしだよ?この世界での戦いに裏で糸を引いている者がいたとしたら君はどう考える?」


「...えっ?」

《解説》

今回登場した【塔の王子達】の元ネタについてご紹介したいと思います。

正式には2人の兄弟、王子達が描かれた絵画「ロンドン塔の王子達」をモデルとしています。

ロンドン塔という名からもイギリスと関係がある事が分かっていただけると思います。


当時、王の座を巡り対立関係にあった2つの家がありました赤バラのランカスター家、白バラのヨーク家ですね。

この一連の流れは約30年程続き薔薇(バラ)戦争と言われました。


その中でヨーク家の王子であったのがこの2人。

兄がエドワード5世、弟がリチャード王子ですね。

経歴は省いてしまいますが、王位継承を巡り争いに巻き込まれ2人はロンドン塔に幽閉されます。

しかしそのあとですが、彼らがそれぞれ12歳、9歳の時に庭で弓を射る姿を発見されて以降行方不明となってしまいます。


創作物では彼らはその後、亡くなったとされており。

20世紀後半に採掘調査をした際に子供の遺骨が見つかった事からもその節が有力視されていました。

ですが2023年の発表で、その王子達はその後ロンドン塔から脱出し成長するまで各地を転々としランカスター家に対し、反旗を翻したという説が出て来たんですよね。

王子達の母親やヨーク家、近隣の王族達が彼らを支援したという記録から生存説が裏付けられました。


今回、成長した姿を仮面の騎士とデュラハンとして描写しましたが歴史のその後の結末は変わらず最終的にランカスター家が勝利します。兄弟達は存命していたものの敗北してしまった訳ですね。

兄である、エドワード5世は戦いの影響か?顎を酷く損傷してしまい話す事もままならない状態でした。

最後は田舎の地主として余生を過ごしたと言われています。


弟であるリチャード王子は逃亡をはかるものの捕えられ、再びロンドン塔に幽閉されます。

最初はそれに扮した詐欺師と言われていたようですが、あまりにも詳細に話しをする事や父親に容姿が似ている事から本物ではないか?と疑惑を持たれていました。

しかし、その後に処刑され。彼の首は大衆に晒される事になりました。


そんな彼らの結末を反映させる為に上記のような演出をさせて頂きました。

デュラハンは隣国のアイルランドの妖精と言われているので親和性は高いと思います。


最後に後書きを投稿して完結とさせていただきたいと思います。最後まで読んで下さりありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ