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前編

「おい、東。またシスターと電話か?そんなに可愛いのか?」


「ティムにはあげないよ。でも、向こうにも寄ってくる虫達がいるからな。少し、心配だよ。あぁ、ごめん。電話使う予定だった?もう良いよ、要件は済んだし」


圭太はアングル王国での日々をギルトが創設した(ドミトリー)の中で生活していた。

異国ではある程度の年齢になると親元を離れ同世代とシェアハウスをするのが習わしだ。


彼は学生は勿論、運び屋や歌舞伎役者と言った多数の草鞋(わらじ)を履きながら充実した毎日を過ごしている。

しかし、当初は問題もあったようでそもそも寮を必要とする運び屋もおらず、ギルト内も高齢者が多い事も相まって圭太1人のみで寮内の清掃や雑用をしていたようだ。


それを見かねたティムが他ギルド所属でありながら共に寮内で生活をするようになったという経緯がある。


「良いや、それよりも大事な案件だ。お前がシスターとの電話に夢中になってる間に外では大変な事が起きてる。なんでも、此処から南西部にある州で多数の負傷者が出たらしい。あそこは他国との境界線だしな、運び屋達が何かのいざこざに巻き込まれたんじゃないかって皆騒いでる。調査の為に今仲間をかき集めてるそうだ。東、俺たちが行かないでどうするよ」


「南西部の州...あぁ、あそこか。バトミントンの発祥の地とか、有名な作家さんの出身地って言われてる所。そこって何かあるの?僕、担当じゃないから疎いんだよねそこら辺」


そう圭太が言うと、ティムは必死の表情を浮かべながら彼の両方を自身の両手で掴み何度も前後に揺らしている。


「知らないのかよ!幽霊屋敷が高値で売れる俺達の王国において、その州にある丘や森、それに囲まれた村はまさに神秘的な存在なんだ!出るらしいぞ!それはもうウジャウジャと!ヴァルプルギスの夜は勿論の事、定期的に魔女集会(サバト)が行われている場所でもあるんだ!東、運が良いぞやっぱりお前は何か持ってるな!」


嬉しそうにティムに抱き寄せられ、あまりの興奮と力の入れように圭太は窒息死寸前だった。


「ティム、凄い怖いよ。成る程ね、魔女信仰のある地域って事か。それなら、一般市民は巻き込めないし運び屋の出番ではあるよね。だとしても、警戒はすべきだと思う。未知の場所なら尚更」


「大丈夫だって、ステラも非番で調査隊に加わってくれるって言うしよ。現場は大盛りあがりらしいぞ、とりあえず現地に行ってみようぜ」


他の運び屋に協力してもらい、皆が集まる村へとたどり着いた。

村と言っても正式には廃村で朽ち果てた木々や手入れのされてない花壇が目立つ。

その証拠に入り口付近には寂れた門があり、この場所を示す看板に頭文字でGとWが見える以外掠れてしまっている。


そんな背景に不釣り合いな華やかな街並みが似合う運び屋が1人、圭太達を待っていた。そう、ステラの事だ。


「来たわね、バカコンビ。もう皆んな森の中に入ってるわよ。なんでも仔山羊が現れたんですって。黒い仔山羊がね」


「おぉ!やっぱり出たか!悪魔崇拝って言われたら山羊は外せないよな。他には何かないのか?あの森は正に魔女の住処に違いない」


「なんで嬉しそうなのよ!他の奴らもそうよ、皆んな鼻歌を歌いながらピクニックでもするような勢いで中に入って行くんだもの。どうかしてるわ」


ステラの言葉に同意するように圭太もうなづいていた。

此処にきて初めて、まともな人に出会えたと彼は心のそこから思っていた。


「とりあえず、偵察を入れようよ。森の中もどうなっているのか知りたいしさ」


【コード:800 承認完了 塔の守り神を起動します】


カラスが飛び立ち、圭太が目を閉じ神経を集中させると脳内に映像が流れ込んでくる。カラスの視点だ。

不気味だが湖畔が広がる森の様子が目に飛び込んでくる。

そんな中でこじんまりと佇む教会に圭太はある異変を覚えた。


「...不味いな。ステンドガラスが真っ赤に染まってる。森の中にある協会の中だ。嫌な予感がする。正直近づきたくない」


その言葉にステラは勿論、ティムも青ざめ震えていた。

無理もない。自分の命に関わる危機的状況なのだから。

しかし、此処で諦める訳には行かないのも事実だった。

この状況で調査に乗り出したのはステラだった。


「少しでもギルドに報告出来そうな手掛かりを見つけないと。私だけでも行くわ。2人は此処で待ってなさい」


「何言ってるんだ、ステラ1人で何が出来る!?なら、俺も一緒に行く!東はどうする?」


「比良坂町の人達ってさ、同調圧力に弱いんだよね。皆んなと一緒だと安心するんだよ。という事で僕もいく。だけど気をつけた方がいい。偵察はこまめに出すけど、自分の身は自分で守ってね」


目的地に着くまでの道中、森の茂みに隠れ何かの視線を3人は感じていた。

それは人なのか?動物なのか?或いはそれ以外か?

それ以上の事は知らないし、知りたくもないのだろう。

無知は時より、誰かを救ってくれる。

そんな事を3人は考えていた。


そして、目的地である教会にたどり着く。

しかし、ステラは呆然とし中々木製の扉を開こうとはしない。何かに怯え、恐怖しているようだ。


「...今、誰かいなかった?...いいえ、違うわ。何かが私達を見てた。監視してた。怖い!怖い!怖い!ねぇ、私。何されるの!痛いのは嫌!助けてよ!神様」


突然、ステラは饒舌となり自分の気持ちを顔面蒼白になりながら呟いていく。

いつも強気な彼女に対し、まるでか弱い少女のように蹲る姿は異常事態に見て取れた。


「東、ステラはもうこれ以上は限界だ。とりあえず、此処で待機してもらおう。俺達だけで向かうか」


「そうだね、けど用心した方がいい。本当にどうなってるんだこの森は」

《解説》

今回の舞台ですが、イングランドとウェールズの境界線にありますグロスターシャー州ですね。

やっぱり圭太って某魔法学校と縁がありますよね。

作家のJ.K.ローリング氏の出身地で元々作品が生まれたきっかけも、恋人に会いに行く為にロンドンまで数時間かけて列車で移動している最中にアイデアが浮かんでそれをまとめた物がこの作品という経緯があります。


作者も旅行中、手持ち無沙汰になると小説書いてるので共感出来る部分はありますね。

それ以前に作者の頭の中どうなってんだよって感じなんですけど。

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