第伍拾壱話 名も無き運び屋
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「ここも、人魚が多いネ。でも、これが有れば安心ヨ」
比良坂町では見慣れない、白と橙の民族衣装を身につけた彼女は福爾摩沙の運び屋だ。
この島の海岸線を沿うように運び屋業をしており、人魚とも面識が多い。
そんな中で肩身離さず身につけているのが、黄泉が制作した武器達だった。
「やっぱり、ここにいた。高先生が怒ってるよ。早く、平埔に行ってこいって」
仲間である女子生徒とその弟だろうか?姉に捕まり隠れるようにチラチラと其方を見る少年がいた。
彼らは同じ学校の出身であり、運び屋としての能力を持っている。
少人数教育で3人に1人の教師が付く、高は彼女達の担任であった。
彼女達のいる場所は、まるで異世界のような幻想的な空間が目の前に広がっているが確かな現実だ。
様々な飲食店や屋台が立ち並び、赤い提灯や色鮮やかな看板が訪れた人々を出迎える。
石階段が多いが、足の疲れを感じさせない程に魅力的な光景が目に映る。
今は夕暮れ時だが、夜になればまた更に美しく提灯が光り輝くだろう。
「そんなのバリケンに頼めば良いんだヨ。彼だって立派な運び屋、我は我の仕事で忙しいの」
「また後輩に変なあだ名付けて。今回はそう言う訳にも行かないの。比良坂町からのお客様なんだから。音無さんって方がいらっしゃってるの。特別なお仕事なんですって」
“比良坂町”という単語に彼女は自分の持っていた武器と目の前に仲間を交互に見やる。
「本当!?会いたい!会いたい!沢山、お話聞きたいヨ!我、比良坂町大好き!」
福爾摩沙という地域は歴史的に様々な国の支配を受けており、今尚影響されながら人々は日々の暮らしを営んでいる。
運び屋達も例外なく、育成校では沢山の国籍を持つ先生のもと指導を受けており、彼女達も比良坂町は勿論の事。圭太やティムとも縁のあるメトロポリテーヌやその隣国などからの教師の指導を受けながら実戦的に運び屋業を営んでいる。
そんな背景もあってか、比較的此方に友好的に接してくれる地域でもあるだろう。
平埔に3人で向かうと握手をする音無と高がいた。
「こらっ!来客が来る前にお出迎えしろとあれ程言ったのに」
「お気遣いなく。君達がここの運び屋かな?やっぱり異国の運び屋を見るのは新鮮と言うか、不思議な感じがするな」
「そうでしょ!そうでしょ!ほら、高先生もそんなに怖い顔しない。スマイル、スマイル!ところで、お兄さんは何しに来たの?お仕事?」
その言葉に音無はメモを確認しながら彼女達をチラッと見ているようだ。
「ねぇ、君達。月下美人を使ったスープの作り方って知ってる?今、比良坂町の運び屋が急に倒れてピンチなんだ。俺達も彼方さんも。だけど、目を覚ました人達が揃って夢の中でそれを食べたって言うんだ」
「確かに此方で良く食べます。薬用としても使われるので、風邪を引いた時に良く妈妈が作ってくれました」
「運び屋さん、皆んな風邪引いてるの?」
その少年の言葉に音無は迷いながらも頷く。
その言葉に少年少女は目を泳がせた。
「ねぇ、我達に手伝わせて!高先生!良いよね!いつも、お世話になってるのにこう言う時だけ都合良く見放すなんて我達には出来ないヨ。助けてもらったんだから助けに行かないと!」
「お前達ならそう言ってくれると思ってたよ。音無さん、我達を比良坂町に連れてってもらえますか?必ずやお力になって見せます」
「此方としてもありがたい限りです。では直ぐにご案内します」
それと同時刻、協会前に送られた大量の月下美人に望海達は驚愕の表情を浮かべていた。
「凄いですね。どなたですか?こんなに沢山」
「全斎さんがね、わざわざメクヒトリまで行って採って来てくださったんですって。突然、お花を贈りたい気分になったそうよ」
「そうか、贈りたいならしょうがないね。うん。だとしても、やり過ぎだと思うけど。ほぼ、地球の裏側じゃん」
光莉が唖然とする側で、更に異変が起こった。
此方に元気良く手を振る異国の運び屋達がいる。
しかし、初対面とは言え望海も光莉も何処か懐かしさを覚えていた。
「你好!会えて嬉しいヨ!我達の仲間!お友達!」
「光莉、見つける事が出来ましたね。“名の無い運び屋”を」
「うん。野師屋様の言ってた事、本当だったんだ。凄い懐かしい感じがする。なんでだろう、初めて会うのにね」
そう言いながら、望海と光莉は其方に手を振っていた。
《解説》
名も無き運び屋の元ネタは台北市から高雄市の間で運行されている台湾新幹線ですね。
彼女達3人がいる街並みは有名な映画のモデルともなった九份ですね。
次回、52〜最終話までを投稿して本編は終了とさせて頂きます。皆様の温かい応援ありがとうございました。
是非、最後までお楽しみください。