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第伍話 犬猿の仲

「おい!妃翠、なんなんだよこの化け物達は!」


「知らないわよ!アンタが勝手に一緒に付いてきたのが悪いんでしょう!?」


何処かも分からぬ夜空の下、2人の運び屋が何かに追われるように逃げているようだ。

しかし、不思議と夜間であっても彼らの服装は何処か目につく。


妃翠と呼ばれた女性は頭からつま先にかけて、煌めく流星の如く銀色に埋め尽くされている。

銀色の髪にそれに類似したドレス、白い手袋の上には色鮮やかな宝石が散りばめられた指輪が指の数だけ存在する。

しかし、その美貌と合わさり傲慢な性格のようで年上とも言えそうな隣りにいる男性に対し(なじ)るような発言を繰り返しているようだ。


「なんで逃げなかったのよ。別に私の事なんて放っておけば良かったじゃない。なんで協会に助けを求めなかったのよ!」


「しょうがないだろ、俺だって頭の片隅では考えてたよ!でも逢磨会長何考えてるのか分からないし、それ以上に怖いだろあの人」


「...それもそうね。突然、女性に何をプレゼントしたらいいとか言い出すし。「ドレスなんて如何かしら?」ってつい言っちゃったけど本当になんだったのかしら?」


逢磨との思い出を語るこの2人は比良坂町では行方不明となっている冬楡武曲と五曜妃翠だ。

武曲は青い制服の上に同系色の繊細な模様が施された羽織、額には鉢巻を結んでいる。


両者とも会長候補として決戦投票までもつれ込んだ2人だが、皆の前から忽然と姿を消した。

その行方は当の本人達でも把握出来ていないようである。


そして彼らにピンチが訪れる。

自分を攫った魔物達に囲まれようとしている為だ。

完全に比良坂町に生息しているとは思えない生物。

その顔を感知する事は難しいが耳を傾ければ羽の音がする。

下を向けば長い尻尾が蠢いており、その形状は顔のない悪魔その物だ。


「武曲、勿論準備出来ているわよね。こんな所で捕まってたまるものですか!」


「完全に脱獄犯の発言だな。本当になんなんだこいつらは、あの鳥居から出て来たのか?そもそもなんであんな物が比良坂町にあるんだ」


どうやら、門の存在を以前から2人は認識していたようである。

経緯を辿ると同じ担当場所を持っていた事も相まって道連れのように妃翠を救おうとした武曲も巻き込まれてしまったという事だろう。

2人はそれぞれ、拳と鞭を構える。

しかしそれを仲裁するように手拍子がなった。


「はいはい、皆んな仲良くね。仲良くしないよやぁよ。オラ凄い悲しんじゃう。えーん、えーん」


何故か自分の目の前で中年男性が嘘泣きをするのをみて武曲は思わず吹き出してしまった。

その男性は2人と知り合いで剽軽(ひょうきん)な事で有名なのだ。


その上、目立ちたがりで悪戯好きでもある。

膨大な行動範囲を利用し、色んな運び屋達にちょっかいをかけていたと専らの噂だ。

そんな彼がいなくなった比良坂町は夜のように暗いままである。


「ん?オラの話、聞こえなかった?そんじゃあ手品を見せるしかねぇな!忍法、雲隠れの術なんちゃってな!」


格式高い青い羽織、その内側には光さす朝日と共にたなびく雲がある。東雲(しののめ)だ。

その柄は次第に動き、現実に投影される。

目の前に雲が立ち込め、皆を混乱させる。

やがて2人は彼の手に引かれその場から避難した。


(あけぼの)おじさま、貴方もこんな所にいらしてたのね」


「なんか可愛い女の子がいるなと思ったら五曜ちゃんだったって事だ。これは良い所見せねぇとなと思ってさ」


「まぁ嬉しい。やっぱり美人って得ね。美しさは正義だわ!」


「おっちゃん、俺は?」


「武曲はおまけ」


男女の扱いが不平等なのもご愛嬌だ。

しかし、曙は周りを良くみているようで才能ある若者を受け入れる寛容さも持ち合わせている。

その証拠に先程まで険悪だった2人が曙の前では明るい表情を見せている。


「まぁ、オラも明け方変な奴らに襲われてさ。こんな真っ暗な場所に連れて来られた訳よ。でも安心だな、ちょっと待っててくれ今灯りを準備すっからよ」


すると曙は自身の懐からライターと葉巻を取り出し、何故かこの状況にも関わらず一服しようとしているようだ。

しかし、彼がふっと煙を吐くと周囲には色鮮やかな紙灯篭が現れ3人の道案内をしてくれる。

この灯篭の色や柄は夜間勤務に携わる運び屋事に異なっているようで、曙が生成すると青と黄色の横縞模様になるようだ。


「おじさまのもいいけど此処は私が1番美しいと思うの。だってそうでしょう?星を浮かべて空に舞い上がらせる。これ以上に美しい事があるかしら?」


「それなら俺でも出来るよ。だけどそう思うと逢磨会長は別格だな。あの人は天使を舞い上がらせる事が出来るって有名だからな。…あんな怖い顔してるけど、心はメルヘンなのかも」


そんな武曲の話を聞き、五曜も曙も苦笑いを浮かべた。

気を取り直し、曙はこれからの事について話を始めた。


「とりあえず、人の多い所に移動すんのがいいだろ。だがな何個も問題があって移動は出来るみたいなんだが、お2人さん目を閉じて意識を集中させてみろ。熊に襲われたと同じくらい寒気がするぞ」


「熊に襲われた事無いから分からんぞ。実家に剥製(はくせい)が飾ってあるけども。それに姉貴に「鮭ばかり食べて!熊かお前は!」と良く言われる」


「例え話よ、例え話。アンタがグリズリー系男性って話をしてる訳じゃないの。はぁ、北部って本当に変な男達を惹きつけるブラックホールでもあるんじゃないかってぐらい問題児が集まって来るわよね。ほら、山岸さん家の男の子2人とか?貴方凄い声かけられてたじゃない「尊敬してます」って」


武曲は以前から颯や隼と面識があるようで仕事の傍ら、出会うと良く声をかけられていたという。

しかし、それにはある目的があると彼は思っているようだ。


「2人は元々、北部を自分の担当下に置きたいと考えていたんだ。北部といえば冬楡一族が代々運び屋業をしている場所。親しくして損はないだろう?その証拠に親父だって2人を可愛がってるんだ。俺も山岸と歳が近いし、兄貴みたいに思ってんだろ。実際、俺は嬉しいよ。元々末っ子だし、弟が出来たみたいでな」


そのあと、2人は目を閉じ精神を集中させる。

普段はあまり意識する事はないだろうが、運び屋達は自分の行動範囲を守る為定期的に見廻りや監視を行っている。

自分達の行動場所に違和感があれば駆けつけられるようになっているのだ。


比良坂町での彼らはというと、壱区のみの担当で節子と担当場所が類似している事も多い。

それもそのはず、武曲や五曜は彼女の家庭教師をしていた事があるのだ。

運び屋としての技術は勿論、社交ダンスやテーブルマナーなどの教養など敷島家の令嬢に相応しい教育を施した。


しかし、その教育方針を巡っては2人は毎度揉めているようだった。

2人が対立関係にあるのはそれも理由の内なのだろう。


意識を集中させ、自分達の印の場所を探る。

しかし、次第に冷や汗を掻き苦しげな表情をみるに探知出来ないのだろう。

印がそもそもないのか?それとも...


「なんだこれは、範囲が膨大過ぎて手に負えないぞ。本当に移動出来るのか?」


「それが不思議な事に出来るんだよ。しかも、比良坂町と同じ地名があると来たもんだ。忍岡付近はそれはもう賑やかでな。立派な塔まである始末よ」


「それって中に入れるのかしら?もし周りを見渡せる展望台になっているなら此処が何処なのかも分かるかもしれないわ。おじさま、私達を連れて行って」


その言葉に曙は頷き、共に奇妙な異世界の探索へと乗り出した。


《解説》

今回は北斗星とカシオペアをモデルとした2人の容姿や性格についてご紹介したいと思います。


章のタイトルにもある大熊と王妃はそれぞれ、北斗七星が組み込まれている星座のおおくま座、カシオペア座を意識しています。

性格も星座のエピソードに由来しており、武曲が鮭が好きでグリズリー系男性と呼ばれていたのはその為ですね。

彼の背格好はアイヌの民族衣装をイメージして頂けるとわかりやすいと思います。

北斗星は日本で初めての豪華寝台特急という事で、逢磨や亘のようにフォーマルなスーツ姿にしようと思ったのですが、作者は北斗星を某世紀末漫画から武闘派な男性というイメージを昔から持っていたのでなんか違うなと思い、他の案として民族衣装も立派な正装の一つだろう。

色合いもブルートレインのイメージに合うと色々と合理的だったのでそのようにしています。


逆にカシオペアはお嬢様、女王様のイメージがありましたね。

それと同じく、服装にも反映していますが当時使用されていました。カシオペアの代名詞とも言えるE26系ステンレス製の車体をドレスに、側面の色鮮やかな模様は指輪として反映しました。


彼女はよく「美しさ」について語っていますが、これはカシオペア座のエピソードからですね。

王妃カシオペアは傲慢な性格をしており、海の神ポセイドンの娘達より私の方が美しいと発言をした事によって娘のアンドロメダが生贄として海の魔物に喰われそうになるという話があります。


上記の2人は星座にまつわるエピソードを参考にしキャラ付けをしている感じになりますね。

曙については長くなりそうなので次の話でご紹介したいと思います。

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