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第肆拾捌話 最後の夜会

夜になり、皆が集まった所で旭は例の存在と対峙する事になる。


「初めてまして、殿。本間旭でございます。この度は手厚い保護を賜りまして、恐悦至極にございます」


やはり、生い立ちという事もあり立派な教育を受けた旭は朝風の前は勿論他のメンバーの前で堂々と綺麗な挨拶とお辞儀を交わした。

その姿を見た隼は、確かに堂々とした立ち振る舞いが富士宮と重なると思ったようだ。


『私は何もしておらん。助けたのは其方の相棒だ。感謝は其方にしなさい。良く、生きて来られた。つかぬ事を聞くが其方は異国、しかもあの帳の向こうで運び屋をしていたそうだな』


「あぁ、皆にも伝えておく。望海も光莉も無事だ。向こうで同じく運び屋業をしている。俺はどんな因果が知らないが、向こうでも此方でも運び屋の能力を賜った」


ある程度、挨拶前に作戦会議という名の口裏合わせをしているが改めて今回の状況を彼は説明しているようだった。


「担当としては朱鷺田さんと俺に近いっすかね。旭さんはかなり特殊な例なのかも。だって、可笑しいでしょ。話が本当なら二つの帝国に同じ旭さんがいるんだから。いや、比良坂町も含めれば3人目か」


旭の存在は周囲にとってはイレギュラーな存在だ。

仲間達と合流出来た事は喜ばしい事なのだが、それが相手の想定内なのか?それとも想定外なのか?で今後の作戦に支障をきたすことになるだろう。


そんな中で朱鷺田は毎度同じ夢を見ていた事から、これもまた黒幕の想定内であり。指定の日時に旭を此方に移動させたのだと目論んだようだ。

そもそも、彼を引きずりこんだ人魚が突然消えたというのも可笑しな話だ。

カーテンと同じく、幻覚のような物ではないか?と考察したようだ。


此処は朝風がいる以上。確信を突くような発言はよした方が良さそうだ。

無知な振りを装い、話しの流れを作る。


「そうなんだよ。言ってしまえば、比良坂町にいる俺達は2人目の自分なんだと思う。この世界は壁に囲まれてた時の比良坂町に良く似ているんだ。此処の俺達が言わばオリジナル。そんな事を思ってしまう程に今の俺達は鮮明に此処で生きている」


周囲が驚く中、山岸は冷静に考え事をした後こう呟いた。


「ずっと、颯の話も聞いていて俺は血統によって運び屋になるか否かが決まると思ってたんだ。現に颯は1/4引き継いでいると本人も言っていた。だけど、その彼がいない。もしかして違う条件も合わさっているのか?」


「少々、宜しいでしょうか?確かに私や燕様は所謂、世襲制として運び屋業を営んでいます。ですが、それは極めて稀な事なのです。だからこそ、代々続く乙黒家は名門と言われる。同じく隼様もお母様が運び屋をされていたそうですが、夜間勤務ですし担当場所も今の隼様に良く似ていらっしゃいます。これは何か“適性”があっての事では?」


海鴎の言葉を受け、児玉は思い出したかのように口を開いた。


「あり得ない話じゃないな。以前、望海から聞いた事があるんだ。母親は能力に恵まれず、劣等感を持っていた。だが、子供である望海は覚醒したようにその力を使い今尚活躍している。突然変異という可能性もあるが。それ以上に」


その児玉の会話に入るように、隼も提言した。


「海鴎の言う通り、適性があったんだろうね。過去の運び屋を受け入れる適性が。俺達はこの世界の住民の“生まれ変わりだ”姿形を変えても尚、運び屋として存在している。そうなると現実世界にいる颯先輩は言ってしまえば初代という事になる。逆に旭さんは3代目、だとすればだ。時系列が生まれてくる」


「向こうにいた旭が初代で今此処にいる旭が二代目。なら、旭は過去から未来に来た事になる。時間の壁すらも超えてしまったと言う事か。だとすればだ、向こうにいる望海や夢野さんはどうなる?こっちに来れるのか?」


朱鷺田の質問に対し、旭は素直に首を横に振った。


「それはまだ分からない。ただ、俺は三つの世界をこれまで生きてきた事になる。それは例外中の例外だ。2人にそれが当てはまるとは限らない。そう考えてると向こうが心配だな。時の流れがどうなっているのかわからないが、俺が居なくなってパニックになってないと良いが」


なんとか、朝風の前でボロを出す事なく自然な会話の流れが出来たようだ。


『とにかく、旭は今は身体を大事に労りなさい。それでは、解散とする。夜勤の者は業務に入るように』


「はっ、かしこまりました。殿、赤間と豊前の間の海流が穏やかになっていると家の者から聞いております。近辺に人魚が出現する可能性がありますのでくれぐれもご注意を」


『情報が早くて助かるよ、富士宮。まぁ、安心しなさい。人魚達も私の事を良く理解しているのだろう。恐れ(おのの)いて逃げて行く者ばかりだ。偶には遊び相手になってくれても良いのだがね』


それを聞いたメンバーはその言葉の中に彼の本心が透けて聞こえたようだ。

人魚相手に苦戦を強いられ、命を落とした仲間がいる中で“遊び相手”と呼称した彼を旭は冷徹な視線で見ていた。


「...人間じゃないな。彼奴」


その言葉を間近で聞いた朱鷺田は震えながらも顔を下に向けていた。

朝風が立ち去ると、皆。終始、気を張っていたのか?

全員揃って、肩の力を抜いているようだった。

そんな中で児玉が口を開いた。


「なんとか乗り切ったな。口裏合わせをしておいて良かった。にしても、まさかこんな事態になるとは思わなかった。富士宮、確認の為に廊下に人影がないか見てくれないか?」


その言葉に彼女は素直に頷き、ちらりと障子を開け廊下を見渡すが誰もいないようだ。


「大丈夫そうだ。まぁ、勾玉のように気配遮断をされたら何も抵抗出来ないがな。こう言う時こそ、本物の殿に協力を仰ぎたいのだが薬の研究で多忙だと阿闍梨から聞いているし。それ以前に此処に連れて来るのも難しそうだな」


その話を聞いた隼は改めて、彼女と阿闍梨についての関係性を問いただした。


「咲耶さん、随分と彼と仲が良いんですね。どう言う関係なんですか?」


それは隼が一方的に彼に嫉妬しているようにも見え。

側にいた山岸と青葉は堪えるように笑っているようだった。


「えっ!?そうだな、間接的な繋がりと言った方が良いのか?彼、妹がいるだろう?実梨っていう。そこ子と私が仲が良いと言うか私が一方的に彼女を可愛がってたんだ」


谷川はそれに感心を示したようで、富士宮に続きの話が聞きたいと促しているようだった。

その為、周囲の雰囲気が一気に変わり和やかな空気に包まれる。


「へぇ、良いな!お宅訪問したら谷川さんも沢山お菓子とかもらえるかな?あれ?でも、富士宮のご令嬢って肆区の人だよね?何処で知り合ったの?」


「実は富士宮家と言うのは元々は壱区に邸宅があったんだ。しかし、行動範囲も広いし事務的作業も合間を作って作業しなければならなくなってな。結果的に全区に一つづつ屋敷を設ける事になったんだ。その方が効率が良いと判断したんだろう。だが、人手不足で管理出来る者が家の中にいなくてな。それを請け負って下さったのが成田家のご婦人なんだ。立地的にあの家が統括している寺が隣にあって、檀家さんへのご挨拶のついでにうちの邸宅を見てくださると言う事でな」


「あぁ、じゃあ。その時に会ったのが実梨なのか。阿闍梨はその時何をしてたんだ?あの兄妹って結構年が離れてた気がするんだよな。彼奴が24だから8歳差か。妹は16歳だしな」


旭の問いかけに対し、咲耶は当時の事を思い出しながら続きを話しているようだ。


「やはり、阿闍梨は寺の跡取りだからな。幼い頃から父親や門下生の姿を見て、寺を継ぐと決めていたそうだ。実梨と初めて会ったのは彼女が赤ん坊の時で、ご婦人に背負われてうちの邸宅に来たんだ。親戚も年上ばかりだから子供を見るのは新鮮でこんなに可愛らしい存在がいるのだと感動したものだ。お陰で彼女に付きっきりになってたら門限を忘れて、初めて反省文を書かされたよ。人生で初めて怒られたような気がする」


「富士宮が怒られるってなんだか新鮮だな。まるで光莉みたいじゃないか。学校では問題児だったんじゃないか?」


児玉の揶揄いに富士宮は嬉しそうに懐かしそうにしながらある事を語った。


「私が人生で怒られたのは2回だけだよ。それ以外はそれはもう模範生だったさ。まぁ、彼女が物心付く前。4、5歳ぐらいかな?で私も会いに行けなくなってしまったし。向こうも覚えてないと思う。ただ、兄がいる事は私も聞いてたし。家柄や苗字を知れば、自ずと彼女の兄なのが分かるだろう?私が幼い頃に使っていた服やおもちゃも彼女にあげてたし。使用人が望んでもないのに私を飾り立てようとするからな。着てない着物や洋服を婦人伝で贈った事もある。本当に妹のような存在だな」


その話を聞いた隼は安心したのか?逆に彼女の面倒見の良さと慈悲深さに感心していたようだ。


「咲耶さんって本当に面倒見の良い人なんですね。多分、彼女も感謝してると思いますよ」


「家柄的に日頃から質素な生活をしていて、華美な物は控えなさいと言われているそうだが、年頃のお嬢さんだしな。鮮やかな着物や服に興味もわくだろう。私からのお下がりなら、物を大切にする家の方針と一致しているし彼方としても富士宮家のご恩を無下にする事は不可能だしな。それを利用させてもらったという訳だ。まさか、兄妹揃って運び屋をしているとは思わなかったけどな」


「俺達としても、貴女と実梨は勿論。大切な人と再会させてあげたいんだが、まだ準備が整ってなさ過ぎる。多分、もうすぐリミットを迎えるんじゃないかと俺達は思ってるし。早急に準備を進めないとな」


朱鷺田の言葉に富士宮は躊躇いながらも頷いているようだった。

《解説》

富士宮と実梨が仲の良い理由なんですが、元ネタの成田エクスプレスの開業時。東京区間の駅員の人員不足の為に引き抜きがあったようで、「富士」だけではないと思いますが九州方面へと向かう寝台列車の車掌を全て九州の方で補い。

東京方面は成田エクスプレスの為に人員を確保したそうですね。


関係者が共通しているという事で上手く関係性として反映出来ないかなと思い描写しました。

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