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第肆話 証言

「お初にお目にかかります。私の名は成田阿闍梨、此方は妹の実梨です」


「初めまして、噂は予々聞いております。本日は協会にお越しくださりありがとうございます」


銀の鈴の前で待っていた彼女の目の前に2人の兄妹が現れる。

しかし、その後直ぐに皆に内緒で話がしたいとタスクは地下に案内され、まるで秘密基地のような一室に入った。


「なんか、変な写真集とか団扇とかありますけど気にしないで下さい。お兄ちゃんの趣味なので」


確かに一部祭壇のようになっている箇所もあるようだが、タスクは興味がないのだろう。何故そんな事をしているのかと首を傾げていた。


「人前に見せて大丈夫な物しか置いていませんよ。それではマダムは此方のソファに。私が上座ですが」


「随分とハイカラな和尚さんね。この部屋の物も貴方の趣味?お寺とは縁が無さそうな物ばかり」


確かに室内を見れば、正に遊技場と言っても差し支えないだろう。

ダーツやビリヤード台は勿論、スロット台、ボードゲームなど誰かを招いてパーティでもするのか?と言った勢いで遊具が沢山ある。

実際に旭達3人は暇があれば出入りし、彼と楽しんでいるようだ。


「これでも角筈に出入りしているものですから。彼処は何でもあるでしょう?寺では無欲でも、彼方に向かえば欲深くなるものなのですよ」


そんな会話を実梨は呆れたような顔で聞いていた。

しかし、彼から本棚の方を指刺され素直に分厚いアルバムのような物を2人の元に持って来たのだ。

阿闍梨が該当のページを捲り指を刺すと、タスクは目を見開いた。


「この方、勿論ご存知ですよね?」


「...いつか聞かれるんじゃないかって思ってたわ。富士宮咲耶、私の相方よ。彼女はね、特別なの。乙黒家も名門一族と呼ばれてるけど、富士宮家も代々運び屋を排出してきた存在。咲耶はその中心人物だった。彼女の先祖は初めて運び屋になったと色々な話が伝えられていて、運び屋の始祖なんて呼ばれてるの。あの子はそのプレッシャーに耐えながら日々を過ごしていて、皆の尊敬の的だったわ。いつも堂々としてて、凛々しくて、優しい人だった」


そう言われ、阿闍梨は次に話す内容について躊躇うような仕草をした。

こんなにも彼女もそうだが、皆に慕われた存在を安易に“夢の中で見た“などと言えばどんな反応が帰って来るのかと考えれば怖くなってしまったのだろう。

しかし、実梨が彼の肩を優しく叩いたのと同時に決心がついたのか口を開いた。


「突然こんな事を言われても戸惑われるかと思いますが、私は以前咲耶さんにお会いした事があるのです。この比良坂町ではなく、夢の中で。何処か城のような場所の近くで私は彷徨い歩いておりました。橋の上で月を眺めている時に話しかけられたのです。彼女は戸惑う私に道案内をしてくれました。時には魔物から私を守ってくれる事もありました。その青い羽織には特別な力があるようですね。業火が現れた時は驚きましたよ」


「咲耶が炎を作り、私が更に突風を吹かせて炎の渦を作る。それが私達が最強と言われた所以。確かに貴方の話は矛盾しているようには思えない。でも、どうして貴方なの?どうして私の目の前には現れてくれないの?あの時もそうだった。依頼が片付いて筑紫に戻ったのに彼女は現れてくれなかった。私が道に迷うから、心配で側にいるって言ってくれたのにいつになっても来てはくれなかった。今までも沢山迷惑をかけて来たし、呆れられたんじゃないかと思って急に怖くなって、自信を失くして、引退しちゃった。本当は私が咲耶を探さないといけないのに、結局1人じゃ何も出来ないのよ。私は」


タスクの言葉は最早、2人に状況を説明する為の言葉ではなく今まで抱え込んできた彼女の思いを独白するような物だった。

自分が誇りと言っていた羽織をまるで引きちぎってしまうのではないかと思うほどに強く握り締めている。

それほどまでに悔しい思いに苛まれ続けていたのだろう。


「ごめんなさいね。息子と同じ年頃の子達の前で情けない姿を見せちゃって。でも本当の話よ。これまでも沢山の運び屋が居なくなってる。でも何故か不思議と私は狙われなかった。次は私だと恐怖しながらもここまで生き抜いて来た。どうしてなんでしょうね?」


そのタスクの問いかけに兄妹は頭を悩ませる。

しかし、実梨が彼女は勿論、先代会長である逢磨にもある存在がいる事に気付いたのだ。


「…ねぇ、お兄ちゃん。もしかしてなんだけど、隼さんがいるからじゃないの?もし、母親である彼女を狙うなら絶対に隼さんが阻止するはず。しかも彼は現役最強の運び屋。そんな彼が側にいる事を警戒してるんじゃないかな?」


「“後継者”の有無が重要という事ですか。確か、隼さんは母親である貴女と入れ替わるように運び屋をされてますよね?」


そう言われるとタスクは苦笑いを浮かべた。


「隼は私じゃなくて、主人に似てるし。自分は反面教師にされてるから。結論から言うと嫌われてるのよね、彼に。息子が幼い頃に私が休憩の為に仕事から家に帰る事があって「ぼくのこときらいなの?」って言われちゃって。それで初めて息子の事が怖くなっちゃって、何も言えないし、目も合わせられなくて。結局仕事に逃げてた。仕事で評価されても、母親として彼に出来た事はちょっと夜食を分けてあげる事だけ。…本当にそれだけ」


彼女には色々な課題と試練があるようだ。

しかし阿闍梨はそんな彼女を前向きな姿勢で見ていた。


「貴女は立派な方だ。最悪、仕事からも息子さんから逃げる事は出来たでしょう。でも貴女は逃げなかった。そして今、ご自身の気持ちを私達に教えてくれた。それだけで一歩前進したとは思えませんか?それに私達も夢で会った人物が咲耶さん本人である事が確認出来た。問題なのは彼女は勿論、他の運び屋達をどうやって夢の中から連れ出すのか?それに尽きると思いますが」


救出の為、阿闍梨は何か手を打ち出したいようだが考えを巡らせながらも戸惑っているようだった。その様子にタスクは首を傾げているようだった。


「夢の中の存在を現実に連れて来る事が出来るの?」


「いいえっ!厳密にはお兄ちゃんしか出来ない芸当のようで、以前私達は夢の入り口のような物を見つけたんです。でも、私も知り合いの子も揃ってその扉を開ける事が出来なくて。でも、お兄ちゃんだけすんなりと開けられたみたいなんです。だから、単身で向かうのは危ないですし同じようにあの扉を開けられる人を探してる。そうだよね?お兄ちゃん?」


「えぇ、仲間はいればそれだけ心強いですからね。宜しければマダムもお試しになられますか?貴女のような方がいらっしゃれば私としても心強いのですが」


「えっ、私?」


下総まで移動した3人は以前竹林の中に佇んでいた鳥居の側まで移動し、中に入る。

しかし、タスクは寒がっているような怯えるような仕草をし扉にすら近づけないでいるようだ。

このままではいけないと実梨は彼女を連れ、外へと出た。


「ごめんなさい、私には無理だわ。あの扉を見ただけで吐き気がするの。本能的に分かるわ、近づいちゃいけないって。彼は凄いのね、あんなにスタスタと当たり前のように近づいて。…隼?」


突然、息子の名前を呼んだので実梨は驚いているようだ。

勿論、彼の担当場所ではないので左右を見渡しても彼が居るはずがない。


「息子さんがどうされました?」


「…あの子ね、夜中になると家を勝手に出ていくの。私、以前から昼夜逆転生活をしてて引退した後は特に寝付きが悪くてずっと起きてる事があるから良く覚えてる。声をかけても返事をしてくれないし。でも朝になると当たり前のように自分の部屋にいて、昔の私みたいに気絶するように寝てる時があるし。夜間の運び屋達は膨大な念力が使えるけどその反動で日中動けなくなる時があるの。能力が使えない一般人化する。昔の私みたいな事を息子がしてるのよ。でもそしたら可笑しいのよ、なんで隼は昼も夜も動けてるの?」


それに実梨は目を見開き、大声で慌てて叫んだ。


「お兄ちゃん!!」

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