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第参拾参話 烏合の衆

全国から散りじりになった運び屋達が集まる夜会。

その前に朱鷺田の好奇心から、鳥の名前を持つ者達が集まった。対象は朱鷺田、白鷹、隼、燕、海鴎の5名だ。


「皆んな来てくれてありがとう。担当地域もばらけてて良いな。現実世界でもこう言った個人的な集まりとかあっても面白そうだな」


「いいな!燕も協会に行ける機会が中々ないし、違う手段でも他の人と話せたら楽しそうだよね。それで、何か議題とかあるの?」


そんな中で手をあげたのが隼だった。

他の者達が疑問符を浮かべる中、淡々と話を始めた。


「率直に言うと俺は殿を信用してない。元々、一番の老舗と言われてるのは咲耶さんの富士宮家だしな。彼女が言うには歴史があるからこそ、何かあった時のリスク分散をしたいというのが富士宮家の方針らしい」


「では隼様はお殿様ではなく、富士宮様が会長に相応しいと?ですが確かに、どうしてお殿様が会長として抜擢されたのかが未だに不明なんですよね。この世界での当たり前が私達の当たり前ではありませんし」


「...確かにそうかも。だとして、どうやってその力を見極める?そんな急にピンチが訪れるとは思えないけど」


そんな意見が飛び交う中で隼はある提案をした。


「俺だって、殿の全てを批判したい訳じゃない。ただ、上に立つ者として相応しい器と力量を見せてもらいたいだけだ。提案がある、俺に協力してくれないか?」


隼は4人を中央にかき集め、これからの行動について話を始めた。


『そう言えば、今夜は集会の予定だったな。富士宮、皆は集まっておるか?』


「はい、これでやっと集会が開け...」


富士宮がパッと中庭を覗くと、何者かを拘束する朱鷺田と白鷹の姿があった。

顔は頭巾で覆われており、その正体は分からない。

それを側で見ていた燕と海鴎は恐怖しながら怯えているようだ。


隼が提案をしたのは自分が裏切り者役を演じ、それを見た周囲や朝風本人がどう言う反応をするかであった。

指示通り、燕と海鴎は朝風の元にむかい慌てた様子でこう続けた。


「なんでもお2人が城内で不審者を見つけたようなんです!今、拘束しているのですが何も返答もなく」


「とりあえず、拘束はしてるんだけど何をしてくるか分からなくて。近づくのも怖いし、どうにかならない?」


富士宮はパッと拘束された人物を見ると朝風にこう口添えをした。


「殿、もしかしたら先日奇襲をして来た者かもしれません。或いはその仲間である可能性があります。話しを聞くだけ聞いてみるのが一番かと」


『...集会の前に慌ただしい事が起こる。富士宮にこの者の処遇は任せる。皆待たせているのだ、私は其方に向かう』


あまりにも興味がないと言った冷徹な表情で彼は見向きもせず、素通りしようとしたその時だった。

廊下の向こう側から児玉や瑞穂など数名の運び屋がやってきたのだ。


「済まない、数名が来てないみたいで探しに来たんだが...おい!なんだこれは!?こんなの時代劇でしか見た事ないぞ!?」


「えっ、ちょっと待って!あれって、隼君じゃない!?あのお母さんからもらった羽織!どうしてこんな事になってるの!」


周囲が騒ぎ立てる中、追い討ちをかけるように燕が嘘泣きをし更に騒動を起こす。


「瑞穂!!聞いて!!隼が殿を暗殺しようとしたの!陰でその組織に入ってたんだって!懐から手裏剣とか苦無とか沢山出て来て、燕もう頭が真っ白で!」


そうなるともう収集がつかないだろう。

周囲には人だかりが出来ており、この騒動を納めるには朝風の力が必要なようだ。


「殿、このままでは集会どころではありません。今こそ、貴方のお言葉が必要なのです」


朝風はつまらなそうに何度も自身の扇子で自身の肩を軽く叩いている。

重い足取りの中、中庭で拘束されている隼の元に辿り着いた。

側にいる朱鷺田達がその頭巾と取ると、青葉が悲鳴をあげた。


『...それで?私を暗殺しようとしたというのはまことの事か?』


「俺は貴方を信用してない。それは事実だ。夜間の業務中に過激派と言ったら良いのか?貴方を引きづり下ろしたいと願う組織に出会ったんだ。殿は民衆の願いを叶えては下さらない。城に籠り、何をしているのかも分からない。俺だけじゃない。皆、貴方を疑っているんだ」


『勝手に申させておけ。高齢で業務以外で城から出る事が不可能なだけだ』


「どうだか?俺は知ってるぞ、貴方が夜の街で女遊びをしているのを。日中だって何処にいるのかも分からない。随分と熱心に通っているんだな。自分の本分も忘れて」


「...隼、殿の御前だ。口を慎め」


真実と虚構を混ぜ合わせ、彼に対し堕落した殿様というイメージを隼は塗り付けていく。

彼らの中では話し合い通りオチは決まっている為、あとはどれだけ会話を繋げられるか?話を引き出せるかが勝負となる。


そのあとの事だった、朝風は急に笑い出し上機嫌で口を開いた。


『そうか!そうか!知られてしまったか、殿など虚構の存在よ。私は裏で組織の金を女に流していた!良く、知っておったな隼!どこでその話を聞いた?』


「洛陽で仕事を受けている時に偶然、舞妓から貴方が此方に通ってる所を聞いたんだ。かなりの太客らしいな、でも暫く顔を出してないから寂しがってたぞ」


『ほう、なら久々に会いにいかなくてはな。良い、隼の拘束を解け。隼の言った事は全て真実だ、見てしまった物は仕方ない。お咎めはなしとする』


その後、拘束は解かれるが隼の手首には跡一つ残されていない。縄の跡がつかないよう工夫されているのだろう。

そのあと、隼は朝風を軽く睨むように見つめていた。


「殿、貴方は優しすぎます。練習はこれで良いとしても本番がこれでは示しがつきませんよ。朱鷺田さん、白鷹。2人共ありがとう。燕も海鴎も野次馬ご苦労様」


「燕、結構上手く出来たでしょう?茶番って言われちゃったらそうなのかもしれないけどね。お祖父ちゃんと一緒に見た時代劇を参考にしたんだけど、上手く出来てたかな」


どうやら、この一連の流れを侵入者や暗殺者が出て来た事を想定して行われた訓練として話しをまとめるようだった。

これには周囲もホッと胸を撫で下ろし、元の場所へと戻って行く。


「やっぱり抜き打ちでやらないと臨場感もないしな。折角全員が集まってるから、見せしめというか。緊張感は持ってもらわないと」


朱鷺田が縄や頭巾を片付けながらそう言うと、朝風は楽しそうに笑っていた。


『だと思って、最初は気が乗らなかった。しかし、話していくうちに段々と雰囲気に巻き込まれてな。本当の殿様気分になった。いや、どちらかと言うとお奉行か!あっ、はっはっ』


その言葉を遮るように隼はある言葉を口にすると辺りは一面、凍りついたように固まった。


「そうなんですよね、私も隼さんの真似をしていると変化している事を忘れてしまって。でも、咲耶おばさまに会えたのは私にとって運が良かった。私達、親戚ですもんね?」


「えっ、あっ。望海!?どう言う事だ!?今まで隼の姿をしていたという事か?」


勿論、こんなのは鎌掛けに過ぎない。

簡易的に隼が望海の口調を真似しているだけだ。

混乱する咲耶をよそに隼はさらに言葉を続けた。


「本物の隼さんは何処ですか?私、業務中に彼に変化しててそのまま解除出来ずに夢の中に来てしまったんです」


『有り得んよ、そんな事。下手な芝居はよせ、お前はお前だ。望海は向こう、それに床に伏している筈だ。動けやせんよ』


その言葉を聞きたかったと言いたげな表情で隼は広角を少しあげていた。


「えぇ、そうです。貴方の言う通りだ。でも、今の発言。茶番じゃ済まされませんよね?皆さんも聞きましたよね?じゃあ、会議に行きましょうか?こんな事をやってたら随分と時間が押してしまった」


「...あぁ、なるほど。希輝の言った通りだった。三つの視点を持ってる人。此処にいたか。これはもう、尻尾を掴んだと言っても良いのかもしれないね」

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