第参拾漆話 正体
朱鷺田達3人は不気味なカーテンを背景に今回の件について改めて話し合いをするようだ。
「とりあえず、今夜の会議の前に朱鷺田さんとも合流出来たし。情報共有と話し合いをしておきたいかな」
「正直言って、分からない事だらけだしな。手がかりを見つけてもそれに繋がる何かを得る事は難しい。折角、頭のキレる2人と合流出来たんだ。これ以上に頼もしい事はないしな」
朱鷺田の言葉に2人は嬉しそうに笑みを溢し、その一方で白鷹はメモ書きをしながら今回の時系列について改めてメモをとっているようだ。
「...えっと。元々、比良坂町では流行病があって。症状としては眠りに就いて動けなくなる。原因は不明。両親もこの件に関しては首を傾げてたし、既存の物ではないと思う」
「そういえば、白鷹のお母さんは製薬会社の研究員だもんね。ワクチンとかウイルス関係は情報が入ってくるはずだ。運び屋の中にも高熱を出して倒れた人っていうのがいたよね?」
その2人の会話に朱鷺田は何故か首を傾げている。
「どうかしました?朱鷺田さん?」
「...いや、俺たちの仲間内で最初に倒れたのは望海だったよな?ちょっと引っかかる事があってな。ほら、子供ってそう言った感染症とかに敏感だろう?水疱瘡とかおたふく風邪とかに罹りやすいって言うしな。だから、孤児院でも支援としてワクチンとかを配布してるんだ。だけど、俺はそう言ったのに罹った記憶がなくてな。母親からも丈夫な子だって、嬉しそうに言われた」
彼の言葉に対し、2人も共通してある違和感を覚えたようだ。
「僕の家は医療関係者ばかりだし、普段からマスクとかしてて気をつけなさいって言われてるから知らないけど少なくとも病気になった事は今までないな。風邪も引いた事ない。希輝は?」
「いや、泥団子作った手でそのまま和菓子食べた事あるけど大丈夫だったよ。お祖父ちゃんとお婆ちゃんには怒られたけど」
「希輝はわんぱくだな。俺達も良く、1番綺麗な泥団子を誰が作れるか?で競争したもんだ。...そうか、なら運び屋達は病。少なくとも、感染症や風邪に罹る可能性は低いって事になるな。黄泉先生達の仕事を奪う事になるだろうが」
そのあと希輝はでは今回の病は一体何が引き金となって起こったのかについて話を始めた。
「普通に考えても可笑しいよね?倒れて、夢の世界に入れられる病なんてさ。多分だけど、この病を引き起こしたのは運び屋を知っているようで良く知らない人だ。矛盾するように聞こえるけど、少なくとも同業者じゃない」
「ほら、僕達って。親が運び屋じゃないでしょう?朱鷺田さんの家も元々は政治家だし。純粋な運び屋の家系って殆ど存在しない。それを利用したっていう事は考えられないかな?」
「俺たちの無知を利用したって事だな。確かに、俺は空白期間があるし。皆、手探りで運び屋をしていた事は否めない。そこで今回の事件が起きた。だけど、共通の夢を見させて何がしたいんだ?その理由が分からないだよな」
希輝は目の前のカーテンを見ながら様々な可能性と単語を口にし始めた。
「仲間の分裂、情報の遮断。私達の監禁。ありえるのはそのぐらいかな?さっきも言ったけどそれが犯人にとってのメリットって事だよね」
「逆に言い換えれば、仲間の合流。情報の共有。外に出ていかれるのが困るって事だ。例えばなんだけど、手がかりがそれぞれに置いてあって。向こう側と此方側で足し合わせるとヒントなり答えが出てくるって事だよね?」
「なんだか、脱出ゲームみたいだな。案外、谷川が好きそうな話題だな。それと俺の考えでは現実世界にも何かしらの手がかりがあるんじゃないか?だから、3分割にしてるんだろう?情報を共有されないように」
朱鷺田の意見に希輝は笑顔で指を鳴らした。
「それ、ありえる!だから、私達に出来る事って言われたら自分達の情報が3分割になっている事を前提に調査をするって事。例えば、このカーテンだって此処と向こう側、現実世界で役割が違う訳でしょう?」
「そう言われると難しいな。だが、もし。此処でカーテンに関する手がかりが掴めないなら他の場所にある可能性はあるか。こうなると出来るだけ昼間のメンバーでも良いから情報を集めておきたいな。忍岡か協会の近くを使って合流しておきたい」
「剣城とも合流しておきたいんだけどな。夜勤なら無理か。そういえば、隼も夜勤なんだっけ?」
白鷹は夜勤メンバーについてもメモをとっているようだ。
「俺は知らなかったんだが、山岸から聞いた話だと母親が同じく夜勤をしていたそうだ。後は以前お会いした事があるんだが朝風会長とかも同じく夜勤だな。人柄の良さそうな人だった。ただ、ちょっと引っかかる事があってな」
「引っかかる?何がですか?」
希輝の質問に朱鷺田は戸惑いを見せるが、彼は政治家の息子という背景からある事を教えてくれた。
「うちは政治一家だからな。同業者だけじゃなくて、他の所からの情報も入ってくるんだ。その中で朝風会長の話というか記念品を親戚が見せてくれた事があってな。数代前、俺の高祖父か。その人が朝風会長が主催するパーティというか秘密倶楽部に招待されて接待を受けた事があるそうなんだ。とても、爽やかで気品溢れる。身のこなしも、おもてなしも素晴らしい物だったと記念のグラスやカトラリーと一緒にそんなメモというか思い出が入ってたんだ」
「凄いな。僕達には縁のなさそうな世界だ。でも、何故引っかかるのか?何か理由が?」
「まあな、先日みた朝風会長の姿から言ってもあり得ない話じゃない。彼には黒い噂があってな。女癖が悪くて、現地妻を複数抱えていたとか。済まない、子供の前で言う話じゃないんだけどな。俺にはわかるんだ、そう言う人種というのかな?ただ、黒い噂を含めたとしても彼からそう言った雰囲気は感じなかった。そこが違和感というか引っかかる所かな?」
希輝は素直に朱鷺田の言葉を受け入れ考えてる間、何故か早口で詰め寄るように白鷹は彼と会話をしていた。
「あり得ない。仮にそれが真実だとしたら、俺は幻滅してると思う。身近にいる人を大切に出来ない奴に仲間を守れるとは思えない。朱鷺田さんだって、そう言う話を耳にするのも嫌でしょう?」
「そうなんだよ!俺は旭を大切にしたいのにそれを邪魔してくる奴がいるんだ。無事でいてくれればこれ以上に嬉しい事はない。でも...俺が側にいないからって浮気したら許さないからな!」
「いやっ、ちょっと2人ともどうした!?何か地雷踏んじゃった?」
そのあと、白鷹は希輝に詰め寄る。
あまりの威厳に彼女は恐怖し後退ろうとするが後ろは海岸であり、行き止まりを意味していた。
「希輝も将来は一途な自分の事を大切にしてくれる人を見つけなよ?楽しいだけじゃ、やっていけないからね。一緒にいて安心出来る人を選びな?ね?」
「は、はひっ...。いやっ、良い事言ってくれたのはわかるんだけどさ。湿度っていうのかな?が、重いです。そういえば、鳥って一途なんだっけ?一生パートナーを変えないとか?」
「良く知ってるな。因みに、オシドリ夫婦は当てはまらないからな。毎年パートナーを変えるし、寄り添ってくれるのは卵が孵るまでだ。ある意味、リアリティがあるよな。そうだ、折角だし名前に鳥が入る人達で集まってみるか。案外気が合うかもしれないな。理事は俺が務める。今夜メンバーが集まるのが楽しみだ」




