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第参拾弐話 逢魔時

「ははっ、参ったな。そう言われると昔の自分が恋しくなるよ。お養父様、亘。申し訳ないけど、少し席を外します。節子お嬢さんが夕凪の天使をみたいと言うからそれに答えようかと」


その数分後、節子達の目の前には照れくさそうにしながらもピンクのドレスに身を包み、波のように艶やかな緑色の長い髪を持つ女性が現れた。

その正体は瑞稀であり、逢磨は懐かしさに浸っていた。


今から15年程前の事だ。

風間家の分家筋として名を連ねていた瑞稀達一家に魔の手が忍びよる。


「お前達!一体何者だ!」


「御堂!早く瑞稀を連れて奥の部屋に!早く本家に連絡を!」


強盗か?いや、違う。それに扮し、当主夫婦を亡き者にしようと目論む同じ分家筋から依頼を受けたならず者の集団だった。依頼料は屋敷にある、価値ある名画や宝石品達。

それ故に屋敷内を荒らしながら、敵は徘徊していた。


「みどう?おとうさまとおかあさまは?」


あどけない少女の瑞稀は御堂に守られるように毛布に包まれながら奥の小さな物置に隠れていた。

しかし、2つの銃声が聞こえると御堂は怯えさらに彼女を守るように抱き抱えた。


「大丈夫!本家の逢磨様が来るまでの辛抱です。お嬢様はウチがお守りしますから」


逢磨が要請を受け、屋敷へと向かうとぐったりとした様子で倒れ伏す、夫婦の姿があった。

高級なカーペットには赤い血が広がっており、その出血量からもう助からない事が見てとれた。


「...遅かったか。生存者は」


そう言いかけた時、背後からの奇襲を受ける。

仕込み杖の中にはサーベル形の剣が内臓されおり、逢磨は受け身を取ると反撃を開始した。


「随分と良いもん持ってるじゃねぇか、おっさん。その杖、幾らするんだ?教えてくれよ」


そのあと、周囲からも悪趣味な笑い声が聞こえてくる。

逢磨は完全に包囲されてしまった。


「こうなってしまったのは、当主である私の責任だ。丁度良い、言っておきたい事がある。私はそんなに老耄てはおらんぞ。黄昏の中に佇む故に時間の流れがおかしくなってるだけだ」


「あははっ、面白いおっさんだね。でもその口、いつまで続くかな!」


女性の一声により、一斉に30人が逢磨に襲いかかる。

しかし、彼は冷静にそれを見ていた。

昔の貴族のように雅に絵巻物まで取り出している。


【コード:081 承認完了 百鬼夜行を起動します】


「30人では足りん。最低でも100人は連れて来なさい。御三家当主にして、会長職を賜る、この風間逢磨を敵に回す事。どう言う意味か分かっているな?」


次の瞬間、その絵巻物から100の妖怪が現れ、敵を撃退していく。

逢磨自身も、この技を奇妙で不気味だと思いながらも強力故に使用していた。

しかし、それに目を輝かせる存在がいた。


「みどう、きれいね」


「お嬢様!ここにいては危険です!ほんまに危険ですから。ささっ、近くの部屋にいきましょう」


両親を心配した瑞稀は、大人たちが集う玄関ホールに来てしまったようだ。

その様子は勿論、逢磨の視界にも入るのだが、その感想は特殊な物であった。


「...天使だ。この混沌とした中に天使がいる。どう言う事なんだ。一度で良い話を」


まるで、童話の姫を追いかける王子のように逢磨は夢中になり、彼女達の元へと向かった。

言ってしまえば、この出会いからして2人の関係は特殊なのである。


バスルームに向かうと、7歳ほどの少女とそれに付き添う乳母がいた。


「御当主様、助けていただきありがとうございます。ですが、旦那様や奥様はもう...」


「済まない、警察や救急隊は呼んだがあの出血量では幾ら治療を施したとて、難しいだろう。君はここのお嬢さんかな?」


逢磨は彼女の目線に合わせ跪く。

幼い故に状況が理解出来ていないのか?

瑞稀は家庭教師から習ったのと同じようにスカートをつまみ、優雅に挨拶した。


「ごきげんよう。みずきともうします」


「ご機嫌よう。良く出来たお嬢さんだ。だが、悠長な事も言っていられない。それ以上に今後、こう言った出来事に巻き込まれる可能性もある。全ては後継者を決めなかった私の責任だ。どうだろう?2人とも私の家に来ないか?」


「ウチはお嬢様の側に居られれば、それで良いんですが。瑞稀お嬢様がこの状況を飲み込めるかどうか?お嬢様、この方が今後はお世話をしてくださる新しいお父様です」


「おとうさま?どうして?...なにかあったの?」


その時、瑞稀の目から涙がポロポロと溢れ出す。

幼い彼女にとって、両親の死は大きく胸に突き刺さった。

どうしても、玄関ホールを通らなければならず。

どれだけ御堂や逢磨が視線を逸らさせたり、目隠しをしたとしても2人の死体を運ぶ救助隊や、現行犯を拘束する警察を姿を見れば、幼い瑞稀でも異常事態なのが理解出来てしまった。


「...あ...あぁ。おとうさま、おかあさま」


それを最後に瑞稀の声は出なくなってしまった。


その日から瑞稀は風間逢磨の養子となるが、親子関係はどちらかと言うと希薄であった。

昼は会長職、夜は運び屋としての業務をこなすなど多忙を極めており、瑞稀に対して出来る事と言えば不自由のない生活の保証と年頃の女の子が好みそうなプレゼントを贈る事であった。


「瑞稀お嬢様、良かったですね。旦那様からのプレゼントですよ」


笑顔の御堂の手元にあるのは小さなテディベアであった。

それを渡された瑞稀は嬉しそうに微笑む。


「後で、お礼の手紙を書きましょうね。ウチもお手伝いしますから」


そう言うと瑞稀は頷き、そのぬいぐるみを抱きしめていた。


「黄昏ちゃん!はい、可愛い彼女からのラブレター」


「速飛!逢磨会長の御前だぞ!申し訳ありません。相方である私が代わりに謝罪させて頂きます」


当時、彼の秘書をしていた富士宮からの言葉に頷くものの素直に手紙を受け取っているようだ。


「構わん。私は、若い頃より運び屋をやっていた訳ではない。戦歴なら、2人に及ばん。箱入り息子で、職に就かず社交界ばかりに顔を出して当時の私に喝を入れてやりたいわ」


「そう言えば、お若い頃の逢磨会長は黄昏の貴公子と呼ばれ数多の女性達を泣かせてきたとか?かなりの遊び人だったと聞いております。ですが、見染められた女性はいないとか」


「へぇ、そうなの。じゃあ、新しい彼女って事ね。随分とまぁ、拙い字ね。全部、平仮名じゃない」


逢磨の手元にあるのは、瑞稀からのお礼の手紙だった。

それを優しい笑顔で見つめているので2人は驚いていた。


「私の娘からだ。血は繋がってないがな。家の後継者争いに両親が巻き込まれてな。そのまま息を引き取ってしまった。まだ、7歳なのもあるが。その日を境に声が出なくなってしまってな。かなりのショックを受けたのだろう」


「それはまた、お労しい。きっと、娘さんは貴方に心を開いているのだと思います。って、速飛!何処に行くつもりだ!」


「今日の仕事も終わったし、家に帰るのよ。いいな、私もラブレター書いてもらいたいわ」


周囲から見た速飛というのは気まぐれな天才という評価だが、家族構成や経歴を知る逢磨からすれば。

今の会話を聞いて息子に会いたくなったのだろうと推測した。


「なっ!?速飛にも恋人がいるのか!?」


「そんな訳ないじゃない。恋人はいないわよ。じゃあ、黄昏ちゃん。アデュー。また、夜に会いましょうね」


軽快に手を降る彼女に上品に手を振る逢磨を見て、富士宮は胃がキリキリしているようだ。


「逢磨会長、速飛は我が協会きっての問題児です。彼女には社会性という物が欠如しています。現に、上司に対する口ぶり。一言、二言仰ってもよろしいのですよ?」


「私は一向に不満を持っていない。少なくとも、私の治世においては速飛に対して何も言う事はない。ああいう存在も組織において必要なのだ。彼女の依頼人に対する友好的な考えや姿勢と仕事に対する情熱。それは私も尊敬する所だ」


そう言われると、確かに彼女の相方として側にいる富士宮が1番。その事を良く知っているだろう。


「本当に、人の懐にズケズケと入り込んで来て。何かと思ったら泣き喚いて助けて欲しいと言ってくるのです。そんな彼女が私は憎めない。正直に申し上げると...好きなんだと思います。そんな彼女の事が」


ポッと頬を赤らめる彼女を見守りながら、今日の業務を追えると休息の為、家に戻った。

しかし、その直後。御堂から謝罪の言葉を口にされた。


「申し訳ありません、旦那様。瑞稀お嬢様が貴方の帰りを待つとベットを占領してしまいまして。ぬいぐるみや本が置き去りに」


確認の為に2階の寝室に行くと、瑞稀が彼のベットの上で寝息を立てていた。

御堂の言う通り、周辺にはテディベアや本が置かれたままになっている。


「そのままにしておいてあげなさい。先に朝食を済ませる、後で客室を整えてもらえるか?」


「勿論です。瑞稀お嬢様、旦那様が帰られましたよ」


一応、御堂が小さく声をかけるものの瑞稀は目覚める様子はなかった。

昼になると、彼女も目が覚めたのか?リビングへと降りてきた。

すると、逢磨の横に座り。目が合うと微笑んでいる。


「良く眠れたか?」


その問いに対し、瑞稀は頷き。彼にテディベアを見せた。

お礼の手紙についての感想が知りたいと思ったようだ。


「あぁ、ちゃんと私の元に届いたよ。今日も夕方から担当医の先生がいらっしゃる。早く、声が戻るといいが」


その言葉に瑞稀は暗い表情を浮かべた。

無理もない。病を患ったきっかけも、医者の治療も子供である彼女には滅入ることばかりだった。


それ以上に彼女には思う事があったようである。

もし、この病が完治すればこの家での生活も逢磨からの献身的な支えも無くなってしまうのではないか?と。

そう思うと、彼女の声はさらに出なくなってしまった。

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