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第弐拾捌話 反面教師


率直な意見に咲耶はクスリと笑った後、脇道から見知った男性の声が聞こえてきた。

彼女は何かに気づき、隼を連れて其方へと向かう。


「高い!高い!3人分は必要なんじゃぞ!?予備も合わせてこれっぽっちで数万もするとは、どうなっとる!」


どうやら、朝風は羽織を作る為の布を探しをしていたようである。

店主は算盤を何度も弾くが、数字は間違ってないと一進一退の攻防を繰り広げていた。


「そう言われましてもね。職人への給与と思えば安い物ですよ。藍染なら尚更、原料の藍が高騰して今じゃ数も少なくなってる。蝦夷や陸奥では取れると聞きますがね」


その様子を見かねた咲耶が、2人の元に近づき。こう話しを切り出した。


「殿、仕方ありません。向こうには向こうの事情があるのです。私の方から、経費として協会に申請しておきますから」


「おぉ、富士宮!丁度良い所に!流石は会長秘書、しっかりしてるのぉ。それで?後ろにいる、不機嫌そうな青年は?言わんでも分かる」


そう言うと花紋鏡を取り出し、隼の顔を照らし出す。

しかし、朝風が中身を確認するよりも先に彼に取り上げられてしまった。


「別にこんな物を使わなくとも、会話すればお互いの事なんて分かりますよ。俺と話しをしてくれませんか、殿」


朝風は顔を引き攣らせ、3人で側にある川を歩きながら話をした。


「偶におるんじゃ、ワシの事を全て見透かすような瞳で見つめてくる奴が。隼と言ったか?その羽織は間違いなく、ワシの作品の一つ。絶対に捉えて逃がさん最速の鳥、ハヤブサ。まさか残っておったとはな、正直言って戦火に巻き込まれて消失したと思っていた」


「その戦火って言うのは何か戦いがあったっていう解釈であってる?貴方は何処まで、この場所の事を知ってるんだ?」


そのあと、朝風は自分の懐から葉巻とライターを取り出すが火が出ずに困っていると咲耶がマッチ箱を手渡した。

彼が一服すると曙同様、周囲に紙灯籠が浮かぶ。

白と黄金色の風が吹く様が描かれていた。


「長話になるからのぉ、許してくれ。ワシはこの帝国と比良坂町の間に生まれた人間じゃ。現実世界のな。晩年は比良坂町に移住し、そこで初代会長として活動をしていた。それ以前も、その前身となる組織で同じく頭領をしていた」


「お待ち下さい、なぜ移住する必要があるのです?その戦いのせいで、貴方は帝国から追われるように比良坂町に避難したと言う事になりますが?」


「その通り。だが、不思議な事も起こる物じゃ。元々ワシらに逃げ場などないと思っていたが、その窮地を救ってくれた存在がおってな。それが鳥、神鳥なんじゃよ。それと運び屋が協力して帝国の住民を避難させて出来たのが比良坂町じゃ。だが、全ての人という訳にも行かなくてな。政府の指示で、帝国の文化や歴史を守る為、営みを迅速に行う為に偏った業界に集める事を禁じられた。政治家は勿論、銀行や百貨店。或いは歌舞伎などの芸能を守るために各業界から少しずつ抽出されて出来たのがあの町じゃ。しかし、まぁ。こんなにも運び屋の割合が多いとは思わなかったがな。あれは副産物よ」


「では、実際に避難指示を受けていた運び屋関係者は少なかったと言う事ですね。憶測だが、富士宮家と乙黒家と殿本人と御三家辺りか」


「まぁ、他にもおるが大体はそんなものじゃろう」


そんな2人の会話を聞き、隼は自分でも会話の蚊帳の外にいると自覚したようだ。その気持ちを素直に2人に伝える。


「俺が知ってる事と言えば、運び屋の中には御三家と呼ばれる存在がいて、その子孫が今の会長さんや節子嬢である事ぐらいだな。それ以外は何も、運び屋になったのだってほんの数年前だし」


隼の言葉を聞いた朝風は上機嫌にゲラゲラと笑い出した。

その表情を見て、隼はさらに不機嫌になる。


「何が可笑しい?俺は事実を言っているだけだ。俺は母さんから何も教えられて来なかったし、咲耶さんの事も何も知らなかった。今のメンバーが俺を支えてくれた。それは紛れもない事実だ」


「いやぁ、すまんすまん。ならば、お前さんはきっと運命に導かれたんじゃな。文字通りの天才じゃ。ワシを意味嫌うのは反面教師か?」


そう言われ、隼は戸惑ってしまう。

確かに昔から母親の事を反面教師として見てきた。

それは近しい存在であるが故に起こった出来事だと隼自身も自覚している。


「正直、女遊びをする人は信用出来ない。なんだかんだ言って、父さんと母さんは仲が良いし。夫婦って、この人と決めたら最後まで添い遂げる物でしょう?咲耶さん、俺何か間違った事言ってますか?」


富士宮にそう問いかけると困った表情をしながらも微笑んでいるようだ。

彼女は若い故に真っ直ぐな考えを持っているなと思ったようだ。


「いいや、君の言う通りだよ。ただ、君は純粋過ぎる。闇夜に溶け込む私達には眩し過ぎるな。隼、私から一つ言わせてくれ。君はその能力を母親から受けついた。反面教師であってもな。気にならないか?どうやってタスクがその能力を開花させたのか?」


「興味ない...と言いたい所だけど。自分のルーツは知って損はないしな。自己理解もそうだし、運び屋としての成長に繋がる。...もしかして、貴方なのか?俺のご先祖さまって」


自分を知っているような口ぶりを見て、隼は朝風の事を訝しんだようだ。その反面、彼は嬉しそうな表情をする。


「ご名答!その目、あの女にそっくりじゃ。ワシの浮気も直ぐに見抜いた。これこれ、そんな顔するなって」


「咲耶さん、現実世界に戻ったら子孫を集めてこの人を袋叩きしても良いですか?節子嬢も、案外乗ってくれそうだけどな」


「やめなさい。ほら、今日の昼食は隼の好きな物を作らせるから。何が良い?」


「じゃあ、ザンギ...は北部の料理か。唐揚げリクエストしても良いですか?」


その言葉に咲耶は目を輝せ、隼の手を取る。

どうやら、唐揚げは彼女の好物でもあったようだ。


「唐揚げ!そうか、隼も唐揚げが好きなのか。同士だな!タスクは馬刺しを好んでいたが親子で好きな物は異なるか。そうだ、かしわ天はいける口か?それも作らせるか」


完全に2人の世界に入り、置いて行かれた朝風は邪魔をしては悪いと首に下げていた勾玉を取り出しその場から姿を消した。

《解説》

今回は趣向が違うのですが、隼の裏設定についてご紹介したいと思います。彼の苗字とか好物についてですね。


元ネタの先代「はやぶさ」が九州で運行されていた夜行列車と言う事で少しでも隼に九州要素が欲しいなと色々考えてました。

その中で、苗字ですね。「松浪」は以前キャラクター紹介の時に書いた通り、宮城県の松島とハヤブサの学名である放浪者から名付けたと書きましたが勿論、それも含まれますが他に2つほど、意味があったりもします。


一つ目は新幹線「はやぶさ」がデビューしたその数日後に東日本大震災が起こったと言う事に関連します。

苗字の中に「つなみ」が隠れてるんですよね。

なので最初、不謹慎だと思って別の名前に変えようと思ったんですが逆に隼以上の適任もいないだろうと言う事でそのままにしています。


もう一つは実在する苗字と言う事で、咲耶も言っていましたが碩田=大分県に多い苗字と言う事ですね。

他にも福岡や大阪にも多い苗字です。

なので「あれっ?」と思った方がいらっしゃったらその違和感は間違いないと思います。九州の苗字なので色んな意味で合理的だったと言う事ですね。

今更ですけど、この作品キャラクターの苗字リアルで考えたら珍しいですよね。

一応、調べたら朱鷺田、富士宮、大鳳、敷島、七星など本当に僅かですが存在している苗字もあります。


そして、彼の好物でもあるザンギなんですが北海道は他にも鮭やホタテ、いくらなど有名な物がある中でこれを選んだんですが、これも九州との共通点を作る為ですね。

作者にとって九州の料理と言われたらお肉料理。

とりわけ、唐揚げが一番美味しかったという思い出があったので選ばせて頂きました。

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