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第弐拾伍話 隠れた力

元々、7、8章は一つの章でまとめる予定だったのですが文字数の都合で分割したり加筆してたら9話分になってしまったので分けました。

話数や章が予定よりも増える可能性が今後もありますのでご了承ください。

「おはようございます。杖だけでは不便だと思いまして、車椅子を用意しました」


17日の朝になり、望海は旭と待ち合わせをしそれを押しながら青年のいる部屋へと向かった。

中に入ると既に彼はベットの上におり耳を澄ませ状況を把握しようとしているようだ。

盲目の為か、目元を黒い包帯で包んでいる。


彼は2人の手も借りながら、手すりや椅子の背の位置を確認し、座ると肩の位置が下がっているように見える。どうやら安堵しているようだ。


「悪いな、側にいてやりたいんだが俺も業務があるし。望海、昼間は頼む。夜になったらまた来るよ」


旭はそれだけ言い残し、部屋から立ち去った。

青年も彼を見送るように口角を上げ、手を振っている。

旭が居なくなった直後に笑顔が消えたので、やはり自分に対する心の壁は厚いなと望海自身は思っているようだ。


「では、予定通り理髪店に行きましょうか?男性の美容師さんに頼んでおきましたのでご安心ください」


「…そうか。早く済ませよう、余は近づきたくない。周囲にもお前にも」


突然言われた言葉は望海の胸にグサリと突き刺さる。

言葉も一方的で顔も向けてくれないのも相まって、彼の冷徹さが垣間見えた。


「お、お話し出来たんですね。てっきり、ショックで失声症になっているものかと」


車椅子を押しながら団地に取り付けてある旧式のエレベーターまで向かう間、ぎこちないが2人で話を続けているようだ。


「そうだ、此処にあの男は来ていないか?余の友人も今回の件に巻き込まれてる可能性がある。望海、知らないか?この男を」


そう言われ、古いセピア色の写真を渡される。

しかし、何か特殊なようで2人の周囲にはそれぞれ赤と青の炎のような物が立ち込める。その光景に望海は首を傾げた。


「いいえ、この老紳士の方ですよね?すみません、この真ん中に写ってる女の子は一体?」


確かに望海が円を描くその先には、2人の男性に挟まれるように1人の少女がいた。

しかも、自分達と同じく異国の民族衣装に身を包んでいる。


「余の姪だ、比良坂町に住んでる。目の見えない余をいつも気にかけ、側で支えてくれた愛しい存在だ。他の女とは違ってな。彼奴は良く、そんな物を好きになれるなと毎回疑問に思っていた。色男とはこう言う奴の事を言うんだな」


青年の言葉に望海は目を見開き、複数の質問を投げかける。

元々、視力障害があるのだとすれば斑鳩の言葉に矛盾が生まれてしまうからだ。


「あのっ、その目って栄養失調が原因ではないんですか?」


「斑鳩はそう申していたが、余の場合は生まれつきだ。姪も幼い頃から弱視であった。望海、お前にも二つの炎が見えるぞ。いや、正しくは三つか。炎だけは美しいんだな」


「貴方、私の顔見た事ないでしょう?絶世の美女だったらどうするつもりなんですか?」


どうやら彼は特殊な目を要しているようだ。

望海がそう言うと彼は腹を抱えて笑い出した。

だが、その態度を見て思ったより元気そうだなと嫌悪感より安心感を望海は覚えた。


「だとしても余には関係ない。全く関係のない事だ。それに、お前の話を聞いていても美しいとは思えない。美しい容姿を持つ物は美しい言葉を使う物だ。安心しろ、これでも汚物まみれの環境で過ごして来た。耐性は幾分かある」


「うわっ、あの部屋の主に相応しく強烈な方ですね。分かってはいましたけど。それともう一つ聞いていいですか?比良坂町の事、ご存知なんですね。意外です」


エレベーターから降りた後も2人の会話は続く。

思っている以上に彼は望海に対し、嫌がりながらも会話を繋げてくれるようだ。


「少しの期間だが暮らしていた事もある。友人に保護されてな、先に移住していた姪と一緒に世話になっていた。ただ、穏やかな日々はそう続かない。元々、亡命し仲間を置いて移住して来た身だ。天罰が下ったんだろうな。夢に導かれるようにこの世界の門を潜っていた」


「それは自分からですか?誰かに連れて行かれたとかではなく?」


「そう、自分から。多分、余が居なくなって姪や友人も心配しているだろう。ただ、それ以上に自分の我儘が優ってしまったのかもしれないな」


そのあと理髪店に行き髪を整えている間、望海は彼を後ろから見守るように椅子に腰掛け思考を巡せていた。

手帳と鉛筆を持ち、これまでの事を整理する。


「まさか、野師屋様が比良坂町にいたなんて。だとしてもあの写真をみるにかなり前だな。口ぶりから言ってご友人や姪は此処にはいない。でも彼を保護出来るって事はかなりの警備体制や資金をもっている人なのは理解出来る。...節子さんのような人。だとすれば御三家か、その関係者の線が高い。運び屋前提の話にはなるけど、あり得ない話じゃないか」


「望海、何をしている。散髪は終わったぞ」


「あっ、すみません。考え事をしてて。折角なら弁髪にして貰えば良かったのに。どうせ本人は見えないんだから」


望海は頷きながら、鏡に映る彼や後ろ髪を確認しているようだ。

そのあと、理髪店を出た後は彼の承諾も得て、近くの公園に向かうようだ。

紅葉の季節になっているのか?色鮮やかな並木道が2人を出迎える。


「夜勤をしているものですから日中は日光を浴びないと気が滅入ってしまって。少しお付き合いください」


望海は自分の手を太陽に翳し、眩しそうにしながらも会話を続ける。


「良い、どうせ余の話しを聞いて色々と考えていたのだろう?申してみよ、お前の考えに珍しく興味がある」


「有り難きお言葉と言っておきましょうかね。貴方の言ってる事は私達にとってはかなりの過去だと思うんです。ご友人や姪の話も。多分、貴方の居た頃って比良坂町に壁ってないですよね?」


壁という単語を聞いた瞬間、野師屋は首を傾げる。

そのあと、首を横に降った。


「壁?何の話しだ?そんな話、周りから聞いた事もない」


「だと思いましたよ。いいえ、逆に壁があって助かりました。この際だからいいます。野師屋様、貴方150年前の人間ですね?これは軽く見積もってです。貴方は亡命したと言っていた。多分、同じ行為をした人が沢山いたはずです。その人達をかき集めて比良坂町が出来たのだとしたら、黎明期に貴方は移住して来た事になる」


その言葉に野師屋は何も言えずにいた。

と言うより、絶句していたという方が正解だろう。

彼は年を取らず、そのまま夢の世界で放置されてしまった。

そのあとも望海の考察は続く。


「貴方がそうなるのも無理はありません。私はこの空間がループしていると思ってます。だからこそ、貴方も気づく事が出来なかった。体感は何処までなのか分かりませんが、一年単位なら、貴方は此処で餓死していても可笑しくない。そもそも、生死があるのかも不明ですが。もって、数週間と言う事でよろしいですか?」


数週間という単語を聞き、彼は自分の持っている人に関する雑学を提示した。


「...人間という生き物は水があれば2、3週間は生きられるとされている。望海、お前は賢いな。そんな近代的な女だったか?」


まるで、過去の自分はそうではなかったかのような態度で彼に言われた望海は苦笑いしながらも話を進める。


「これでも、お嬢様学校に通う優等生ですよ?ならリミットは2、3週間。妥当な範囲かな。この世界に入ったのが8月15日。その2週間後なら29日。3週間後なら9月5日か」


「リミットを過ぎると繰り返す、だがお前達はどうなる?現実世界に戻るのか?それとも此処に居続けるのか?」


その野師屋の問いに対して、望海は確かにそうだと考え混んでいた。

だが、今までの自分から要素を少しずつ取り出し彼と共に謎を解く。


「私は今までこの世界の事を知りませんでした。ですが、寝ている時だけ。夢をみる時だけこの世界を知る事が出来たんです。そこで光莉や旭さんがいる事に気づいて...」


そのあとも話を続けようとしたが何故か彼に首を傾げられてしまう。

確か、会話の最初の方である事だけは分かるのだがどの箇所を示しているのかが分からなかった。


「あの、私何か変な事言いましたか?」


「...いや、余は昔の人間だ。だから望海の時代がどうなのかは知らないが少なくとも運び屋に休息は必要でも睡眠は必要ない。確か、青い血の者は身体を休めたり病の癒すのに必要だと聞いた事がある。そう言った異文化の影響を受ける事もあるだろうな。この帝国のように」


「...えっ?」


そう言われてしまうと全ての前提が覆ってしまう。

望海は新事実を告げられ、呆然としながらも質問を返した。

では、自分達の日々の生活はなんだったのかと思わされる衝撃の言葉を彼から言われてしまったのだ。これは動転せざるを得ない。

彼女はさらに真実を確かめる為、彼との会話を続けた。


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