第弐拾肆話 推理
「ふぅ、食った!食った!やっぱり夜食のラーメンは最高ですな。でも、〆は名探偵望海による華麗な推理ショーで決まりかな」
自宅に戻り、2人で寝る準備を整えながら光莉は望海の考えを聞くようだ。
「まぁ、そもそもこの世界事態が不可解な事ばかりで。私でも全ては把握する事は出来ないんですが、まずメンバーが分けられている事。この海の向こうにもう一つの帝国があって、そこに他の皆さんがいる事。これは知っている情報ですよね」
「うん。野師屋様が教えてくれたよね。流行り病が原因だって...あれ?それっておかしくない?なんでそんな事彼は“知っているの”?」
「そうなんですよ、光莉。そもそも、前提が可笑しいんです。現実世界に彼はいない。そのはずなのに、まるで見通しているかのように現実世界の事を知っている。そうなると綻びが生まれてくる。それともう一つ、私達って同じ夢を同じメンバーで見続けているんですよね?なのに何故、この世界には時間の概念と言う物があるんですか?」
その言葉に合わせ、光莉はカレンダーと共に夜中の12時過ぎを指す時計を見ていた。
「今は日付が変わって8月17日、これが結果的に進んだら自分達はどうなるのって事だよね?私達が同じ夢を見られて、尚且つ時が進む方法って...」
「ループですよ、光莉。ある一定の期間だけを切り抜いてそれを私は永遠と過ごし続けている。ある程度、パターン化されていれば、細部が違えど全て同じ内容に見える。それを相手は狙ったんです。そして、それに誰も気づく事が出来なかった。私達は以前からこの世界の住人として生きてきた。だから運び屋の印があるし、関係性もある程度構築されている。どうでしょう、光莉?私の考えは?」
光莉はそう言われるとぶつぶつと独り言を呟き、考え事をしているようだった。
「正直言って何処までそのループした状態が反映されているのか分からないけれど、望海の考えがもし当たっているとしてこう言うのって絶対にループから抜け出す鍵みたいなのがあるはずなんだよ。それと同時にそれが現実世界に戻れる方法になっている可能性が高い。まって!まさかそれって!」
光莉は何かに気づいたようで目を見開き、驚愕の表情を浮かべた。
それに対して、望海は落ち着いた様子で話を進めた。
「今の所、1番怪しい人物は野師屋様です。そして今日、彼と同じ耳飾りを持つ青年と出会いました。私達がループを脱出する事が出来なかったのは、今まで彼を見つける事が出来なかったから。実際にあんな場所、誰も行かないですし通らないでしょう?私だって怖気付く程なんですから」
「成る程ね、本物をあの地下牢に捉えて身動きを取れなくし、その隙に偽物は野師屋様に扮した。私達はずっと彼に気づかず偽物を本物だと思って生活をしていた。だからずっとループし続けている。...いや、待って。確か、牢屋の鍵って一箇所だけ空いてたって前に言ってたよね?嘘でしょう?もしかして、犯人は私達が助ける事も念頭においてたって事?」
「あるいは、本物が脱走する事を念頭に置いていた可能性があります。光莉、今回の相手は思っている以上に狡猾ですよ。私達に情報を与えて、泳がせて、その上で何かを仕掛けようとしている。私達は相手の目標が未だになんなのかを知りません。それを調査しなければいけませんが、厄介なのはループという名のタイムリミットがあると言う事です。長期間此処にいる事は不可能である事を念頭においといてください」
光莉は先程まで過ごしていた青年の事を思い出し、確かに背丈は野師屋に似ている事だけは理解出来た。
そして、特徴的な太陽の耳飾り。
何も関わりがないと言った方が不可解だろう。
「短期決戦か。どうりで無口な筈だよ「自分が本物だ」って言ったって信じてくれる訳がないし。バレたらバレたで命に関わるしね。分かった、此処は慎重に行動しよう。とりあえず、明日は彼を理髪店に連れて行かないとね。後は旭や斑鳩様にも伝えておきたい所だけど昼間は偽物がいる。出来るとしても夜だね。くそっ、やっぱり相手の思惑通りだ。昼間は身動きを取れなくして日にちを稼ぐつもりだ」
「だからこそ、夜中に活動出来る私が最後の希望だった。そうだと願うばかりです。多分なんですけど、向こうの帝国って偽物が言ってましたよね?それを把握してると言う事は...」
「監視役が向こうにもいるって事だ。私の憶測だけど、昼間偽物がこっちにいるんだとしたら、向こうは夜中に動いている可能性が高い。そうやって半日づつ巡回してるんじゃないかな?」
「あり得そうですね。そうすると、此方では夜間、彼方では昼間の運び屋が優位になる。しかも、状況を考えると此方は昼間の運び屋が。向こうは夜間の運び屋が多いのではありませんか?敵は少ないに越した事はないでしょうし」
「2つの帝国を用意して、偽物はそこを行き来しながら私達運び屋を騙してるって事か。だとしたら、相手は絶対に通り抜けないように私達を誘導するだろうね。逆に言えば、通り抜けられれば私達の勝ちだ。でもそんな物理的な脱出はほぼ不可能だろうね」
「...全ては相手の手のひらの上にあります。ですから、まずは自分達の命は勿論。この夢から醒める事を優先しましょう」
「そうだね。最悪、無知な振りをしておくっていうのも視野に入れるべきだと思う。大事なのはそのループをする切れ目が何処なのか?それまでに何が出来るのか?試してみよう」




