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第弐拾弐話 奴隷

「...あ、あの」


人間を見つけた望海は声をかける。

しかし、何も返答はなく時間だけが過ぎ去って行った。

だが、周囲を見渡せば牢屋の鍵が一つ空いている事に気づく。


これで相手を助け出す事が出来るのではないか?と良心に従いその扉に手をかけた直後、奇声が聞こえた。


「アァァァァァァ!!ク...ナ...」


そのあと、扉に向い食器類が飛んで来る。

しかし、その投げ方は弱々しく何の危害すらも与えられていない。

今の奇声でさえ、まともに食べられていないのか?

擦り口調で、最後まで息が続かないようだ。


そんな痛々しい姿を見た望海は同情せざるを得なかった。

相手が拒む事は承知の上で中へと入り、こう伝えた。


「私の名前は東望海。運び屋をしている者です。業務中に此処を見つけ、貴方を出来れば助けたいと思っているのです。どうか、この手を取ってはくれませんか?私が貴方の希望になる事は出来ますか?」


出来るだけ優しい声色で相手に寄り添うものの、更に怯えてしまい今度は近くにあったベットの上でお世辞にも綺麗とは言えない布団に包まり、嗚咽(おえつ)を漏らしているようだ。


精神的に苦しい状況にいるのだろう。

母親が精神病院にいる彼女にとって、母以上に病の状況が重く、食事も行えない。

正に後は死ぬだけの状態にまで追い込まれてしまっている事が理解出来た。


「此処にDr.黄泉がいて下されば早急に治療という事も出来るんですけどね。少し待っていてください。何か食料をお持ちします」


地上に戻り、出来るだけ水は勿論。

粥や麺類など食べやすい物を露店で買い、渡すと皮肉にも手掴みで溢しながら平らげられてしまった。


確かに文化的に手づかみで食事をする料理も存在するがこんな熱い物をわざわざ手掴みするのは可笑しな話だろう。

目の前の相手には倫理や常識すらも考える余裕がない程に飢えている。そう言わざるを得なかった。


ただ、その手を止める事や汚した手を拭くという軽い接触行為でさえ相手は許してくれない。

しかし、向こうも苦しいのだろう。先程のように嗚咽を漏らすばかりだった。


その原因が分かれば何か対策を講じる事が出来るのだが、その原因でさえ追求するのが困難なように見えた。


「このまま立ち去った方が...いいえ、そんな事絶対に無理です。少しでも手がかりを得ないと。そうだ、貴方の名前は?教えて頂けますか?そしたら、ご家族を探せるかもしれませんし」


「...」


しかし、返答が来ない。それ以上に服もボロボロで髪も乱れており顔ですら望海は認識する事が不可能だ。

ただ、自分に対して極度に怯えている事だけはわかるのだ。

次は其方から質問を投げかける事にした。


「あの...私と貴方は初対面だと思いますが貴方は女性が苦手ですか?ごめんなさい、今更聞く事ではないと思いますが」


そう言われると、向こうは小さく頷き望海から離れるように部屋の角で縮こまってしまう。

ただ、それだけわかれば大きな進歩だろう。


「わかりました。では、話し相手を変えましょう。知人の男性2人に頼んで来ますね。少しお待ち下さい」


そのあと、望海は事情を説明し旭と斑鳩に協力を仰いだ。

2人揃って何故か団地の屋上におり、星空を眺めているようだった。


「独房の中って、大丈夫かよそれ。囚人だったらどうするんだ?」


「だとしても、不自然ではありませんか?それなら看守もいるはずですし、そういう場所は逆に囚人を丁重にもてなす物です。脱走したり自ら命を絶たないように。でも、その人はずっと野晒しにされている状態で食事もまともに採れていない状態です。どう思われますか、斑鳩様?」


「あぁ、少し待っていてね望海ちゃん。やっぱり暗視スコープがないとヘッドショットは難しいかな。散弾銃にした方が...でも、飛距離がな」


どうやら銃のカスタマイズを行っていたようで、何度も試し撃ちをしているようである。

しかし、その肝心な的は望海達には見えず「キィァァァァ!!」というガラスを引っ掻くような音が聞こえるまで何が撃ち落とされているのかは不明であった。


「あの、斑鳩様。命中しているのにヘッドショットをする意味はあります?」


「勿論、相手は正体不明の生物だし羽の部分に装甲を持っているようだから薄い場所に当てないと今度は自分が殺られてしまうからね」


「本当、斑鳩の爺さんって頼もしいよな。当たり前か、現役の時から最強兄弟って言われて兄貴の右腕としてずっと支えてきたんだもんな。周囲が警戒し過ぎて、斑鳩家に婿に出されたんだろ?不満とかはなかったのか?」


「まぁ、乙黒家は兄が継ぐっていうのはもう分かってる事だったからね。でも、最後まで自分が婿入りする事を拒んでいたのも兄だった。それ以上に私を家から追い出す為に兄より先に縁談が来た物だから凄い怒っていたのを今でも覚えてるよ。兄は厳しいけど、その分優しい人だから。弟の将来を誰よりも思ってくれていたと思う」


そんな会話を聞きながらも望海は比良坂町での斑鳩の様子を見ると今の状態とは食い違う部分がある事にも気づいた。


「でも、斑鳩様ってご家族ととても仲が良いですよね?奥様は貴方を信頼しきっていて財産の管理も任されているとか。息子さんは貴方を尊敬していて、運び屋になったりとか」


それを言われて彼は何かを思い出したように口を開いた。


「そうなんだよ、週末は家族や親戚を集めて庭でバーベキューをしようと話してたのに体調を崩して、こんな所に巻き込まれてしまった。妻が作ってくれるサラダが私の好物でね。隠し味にオリーブオイルが入ってるんだ。これはもう、土産に鳥の数羽でも持って行かないと気が済まないね」


斑鳩は静かな闘志を燃やしながら、カスタマイズしたライフルで再度的を撃ち落としているようだ。


「元気だな、斑鳩の爺さんは。やっぱり、斑鳩家の財産も、運び屋としての名誉も、家族の信頼も全て得た奴ってのはやっぱり違うのかね」


「いいえ、そもそも斑鳩様は規格外なんですよ。もうすぐ、70歳になられる方が怪物相手にヘッドショットを決められますか?不可能でしょう?今は気が済むまでやらせてあげるのが1番ですかね。...でも、あの牢屋に何故入れられてたんでしょう?本当に謎ばかりが生まれてくるんですよね」


「それを知る為にも向かわないとな」

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