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第弐拾話 天体観測

「それにしても、この世界に来てから不気味な事ばかり起きる。この星空だけが変わらないのが幸いだな」


雨上がりの夜空の下、忍岡付近で調査をしていた武曲がぼそりと呟くと側にいた五曜は鼻で笑っているようだった。


「あははっ、何よそれ!貴方も逢磨会長と対して変わらないわね。ロマンテストなのはいいけれど、ちゃんと調査なさいよ?殿の御命が掛かっているんだから」


「分かってるよ!しつこく言うな!」


しかしそのあとの事だった、急に街中が明るくなり何か鳥の鳴き声がする。

周囲の人達はこれを拝むように見ているようだった。

それは次第に此方へと急降下してくるのを見て、ある人物が自分達に連絡を寄越して来たと気づいたようだ。


「あれは、富士宮の不死鳥じゃないか!相変わらず、派手な事をするな」


「富士宮家は昔からの名門で、不死宮家なんて言われてる永遠の存在だもの。業火の能力も合わさってより美しいわ。やっぱり、相方から発想を得たのかしら?」


雨上がりと言う事もあり、水に濡れた不死鳥の炎はだんだんと萎んでいく。

良く目をこらし、その形を見れば、その正体はハヤブサであり相方を思い作り上げた事が容易に分かるだろう。

そんな鳥の足には手紙がくくりつけてあった。


武曲が手紙を取り、開くのと同時に不死鳥は主人の元へと飛んで行った。

そのあと、彼は手紙の文字を追っているようだが一緒に見ていた五曜と共に驚いているようだ。


「...これ、私知ってるわ。隼の文字じゃない。楽譜に書き込んでいるのを見た事ある。嘘でしょう?もしかして富士宮さんと一緒にいるの?あぁ...でも、別に可笑しな話ではないか」


「親子そろって仲が良いな。...成る程、隼は此方の時の流れがどうなっているのか知りたいようだ。星の動きを見て、俺達が分かる事を教えて欲しい。確かにそれである程度、場所や月日が割り出せそうだな。どうだ、五曜?出来そうか?」


星を読む力、天文学の知識は夜間を担当する運び屋にとって必要不可欠だ。

それにより、方向を定め夜道でも安全に業務を行えるよう日々勤めている。

その中でも五曜はそう言った能力が得意なようだ。


「随分と上から目線ね?こう言う時は「お願いします、五曜様でしょう?」まぁ、いいわ。やってあげる。そこをどいて頂戴。術が使えないわ」


武曲は嫌々ながらも素直に彼女から離れる。

するとどうだろうか?ドレスのスカート部分が大きく広がり半円状になる。

その銀色のドレスは夜空を反映し、星の動きを観測しているようだ。


「何よこれ、星の配置がめちゃくちゃじゃない!なんで夏と冬の星座が一緒にあるのよ!ちょっと武曲!何が変わらないよ!全然違うじゃないの!」


「だから五曜に頼んだんだろ!星なんて北極星と周辺の星座が分かれば十分だろう。それで?後は何が違うんだ?」


「...ちょっとまって。みなみのうお座、フォーマルハウト。そして、おうし座のアルデバラン。これが従来の距離より近すぎる。元々、見つけやすい星ではあるけど。目立って大きいのはその2つね。隼が言っていた南半球説は無理がある。一応、この二つは北半球の星座だもの」


五曜は術を解き、いつもの銀色のドレスに戻る。

武曲はその調査結果からこう続けた。


「此処では従来の常識が通じない。そんな事は分かりきっているが、だとしてもめちゃくちゃだな。とりあえず、この結果を報告しよう。使いを出さないとな」


武曲が上着の帯を解くとその内側には雪景色が見え周囲で吹雪が舞い踊る。

その雪はつもりに積もり、何かを形成していく。

その正体は牡鹿であった。

そのツノに手紙をくくりつけ、届けるよう指示を出す。


「まぁ、愛らしいわね。隼の熊に喰われそう」


「五曜、言って良い事と悪い事があるぞ。これは食用とは別なんだ。...鹿肉か。最近口にしてないな」


その言葉に鹿は驚き、隼達の元へと去ってしまった。

毎度、武曲とこの鹿は捕食されるか?されないか?

緊張感の伴う間柄らしい。


そのあと、お互い連絡を取り合い城付近で合流する事が出来た。

そんな時であった、富士宮が2人に対し小声で何かを話し始めた。


「済まない、私は今まで彼が速飛の息子というのを知らなくてな。2人はどうなのか?と気になって」


そう言われると2人は同じように目を丸くする、そして富士宮と側にいる隼を交互に見た。


「えっ!?だって、山岸が散々自慢して広めてたぞ!彼女の息子をウチで受け入れる事になったって!これは凄い事になるぞって!」


「それに親子で似てるじゃない。母親も背が高くてスラっとしてたし。癖毛な所とか、瞳の色とか。まぁ、彼女の方が髪色は明るいでしょうけど。別にわざわざ紹介されなくても分かるわよ。あの、運び屋としての才能と狙った獲物は逃がさないあの目を見たら」


「そ、そうなのか。私にはそう言う噂話も届かなくてな。家柄もあって皆から浮いていたというものあるだろうが。速飛も話してくれたことは一度もなかったし。彼を保護して話しているうちにそう言われたんだ。凄いショックを受けてな、驚くだろあんなにデカい息子がいたら」


2人は苦笑いをし、落ち込んでいる富士宮を五曜が励ます傍ら武曲は隼から現在の状況を教えられた。


「と言う訳で、すみません。今の俺では比良坂町のように貴方がたの力になるのは無理そうだ。今は咲耶さんに力を仰ぎながら他に巻き込まれたメンバーの救出をしたいと思います。富士宮家の人達にもお世話になってるし、恩は返さないと」


「あぁ、大丈夫だ。俺たちの方でなんとかしてみせる。母親が彼女と一緒に仕事をしていたんだ。これも何かの縁なのかもしれない。それで隼、ツバメになった気持ちはどうだ?案外、嫌そうにしてないな。居心地良いのか」


「はぁ?ツバメ?強いて言うならハヤブサでしょう?何かの言葉遊びですか?」


会話が聞こえた五曜はまるで怒鳴るように武曲へと言葉を投げかける。


「ちょっと、武曲!若い子に変な事教えないでよ!山岸さんから苦情が来るわよ!いいの!?」


「山岸は警戒し過ぎなんだよ。こう言うのも教養の一つだろう。無知な方が危ない場面だって沢山あるんだから。節子にだって「先生、これはどう言う意味なのかしら?」と言われれば教えるだろう?それと一緒だよ」


「だからよ!何でもかんでも教えてたら大事な場面で失言する可能性があるんだから。大事な敷島家の令嬢に変な事教えられないでしょう!?」


2人は相変わらず教育方針の話題で喧嘩をしており富士宮と隼は取り残されてしまった。


「あの、咲耶さん。ツバメって分かります?俺、結構本は読んできたつもりなんですけど。何も引っ掛からなくて」


「若い燕の事だな。隼、気をつけなさい。この世には若い青年を(たぶら)かす年上の女性がいると言う事だよ。私と隼の関係がまさにそうだと武曲は言いたいんだ。まぁ、悪女を演じる事も時には必要だ。実際に君の力が必要なのだから、君を利用する他にない」


そのあと隼は何かを考えた後、富士宮の顔を見てこう言った。


「自分を悪女という人に悪女はいないと思います。仮にそれで俺が転がされたとして、それで何か得られる物があるならそれで良いと思いですし、気づかない自分にも責はあるので」


「...隼、口元が笑ってるぞ。本当は楽しんでるだろ。もしかして既に私は君ら親子に誑かされていたと言う事か。離れるのも無理そうだな」


「そうですよ、諦めて下さい。俺も母さんも狙った獲物は絶対に逃がさない。夜も悪くないですね、普段は目を引く貴女も姿を隠して独り占め出来るから。母さんが俺を差し置いて貴女に夢中になるのも分かる。特に俺達親子は変わってるので夜の貴女が好きなようだ」


「あぁ、本当に変わってるよ君達は。それに付き合う私もどうかしてる。どうやら私は鈍感らしい。夜襲に遭う事すら気づかない程にな。大らかと言えば聞こえはいいが、このままでは姿形も変わりかねない。警戒しなければ」


咲耶は真剣な表情で言うが、隼は変わりなく無邪気にクスクスと笑っているようだ。

その異変に気づき、喧嘩をしていた2人もそれを止める程であった。


「もう、遅いですよ咲耶さん。別にいいでしょ。何処から見たって、姿が変わったって貴女は美しいんだから。堂々とそこに立っていてください」


「ねぇ、武曲。何かしらあれは?私達が目を離した隙にとんでもない事になっているのだけど。保護者を連れて来た方がいいんじゃない?颯とか小町とか」


「山岸がこれを聴いたら自分用に録音するか発狂するかのどちらかだな。いいじゃないか、姉さん女房。案外、羨ましがられるかもしれないぞ」


「そういう問題!?前向きなのもいい加減にしなさいよね。でも、好感は持てるわ。アンタみたいに節子ちゃんにデレデレしてるロリコンよりずっとね!」


「はぁ!?まだ言うか!節子は俺達の期待に応えてくれて立派な淑女になってくれた。それを自慢に思わない訳がないだろう?山岸にとっての隼と一緒だよ。何処が違うんだ」


この帝国の夜が開けるのは一体いつになるだろうか?

騒がしい夜は今はまだ終わりそうにない。

注意:隼は富士宮を口説いてる訳じゃありません。

なんか鳥のハヤブサと富士山を意識するような発言を言わせたら結果的に口説いてるみたいになっただけです…多分。


そのあと、ニュースで「はやぶさ」「こまち」が運転中に連結部分が外れてしまったと報道されていて作者はビビり散らかしてました。


あと、武曲が「若い燕」と発言していますが連想ゲームなんですが北海道を舞台にした8月中、親戚の家に預けられたボクくんが夏休みを体験するというゲームがありまして。

その中で自身の叔父や将来の主人公が酪農家に婿入りして「ツバメ」とそれぞれ言われるというエピソードがあって急に思い出して突っ込んだらこんな風になってしまいました。

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