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第弐話 青い羽織

「隼君!起きて!朝だよ!もう6時半過ぎてるから!あぁ!コンロの火消しに行かないと!パパ!代わりに隼君起こしてくれない!?」


松浪家の朝はいつも騒がしい。

隼は自室からドタドタと台所に向かう母親の姿を薄らとみながら目を擦り、起き上がった。


「...相変わらず何やってるんだ?あの人」


そのあと、隼の好きな優しく、穏やかなピアノの音色が聞こえてくる。

この音を奏でるのは音楽家である、父親だ。

フラフラとベットから立ち上がり、生まれた時から友達のように側にいるグランドピアノへと足を進めた。


「おはよう、隼。君を起こすならこれが1番良いと思ってね」


「父さんは俺の事良く分かってる。それに比べて母さんは...」


そう言いながら隼は台所で慌てふためく母親の様子を見ながら溜息を吐いていた。


「まぁ、まぁ。朝からそんな喧嘩せずとも良いじゃないか。お母さんは隼の為にコーンスープを作ろうとしただけだよ。好きだろう?」


「...まぁ。でも、朝食は朝一の依頼を片付けてからにするよ。依頼確認しないと」


「それなら大丈夫だよ。朝一の依頼人は母さんだから。協会で待ち合わせをしてる人がいるみたいだよ。話を聞きたいんだそうだ」


そのあと隼は台所であたふたしている自分の母親の顔を目を見開きながら見つめている。

引退した運び屋である母親に対し、話を聞きたいという人などいるのだろうか?と疑問に思っていた。


「隼君、支度するの早い!ちょっと待って!」


松浪宅は音楽家の父の影響もあり、ガラス張り解放的なリビングに立派なグランドピアノや高級なリクライニングソファもあり同じく玄関も立派な物なのだが、タスクが通るとスペースが狭くなる。

それは彼女が物を探すなどして散らかってしまうからなのだろう。


それ以上に日々努力を重ねているのだろう、鍵や上着の側には忘れないようにと付箋が貼られているようだった。

そんな彼女を隼は見守っていた。


「母さん、その上着。現役の頃から来てるよね」


そう言われた彼女の手には年季の入った青い羽織があった。

その背には、最速の鳥であるハヤブサが描かれている。


「この青い羽織はね、特別なの。隼が持ってる懐中時計と一緒。私達の誇り、誉れそのもの」


いつも子供のような母親が自分と同じく獲物を狙うような鋭い目をしたのをみて、やはり親子だなと隼は思った。

正直言って、親子で入れ替わるように運び屋になった事もあり隼は母親の事を知らない事も多い。


しかし外に出て、近所を歩けば声をかけてくるファンも多い。

彼女が以前、職場として働いていた協会に行けば尚更だ。

母親は自分が思っている以上に周囲から慕われていると隼は驚いていた。


「母さんってそんな根回しが効く人だっけ?父さんに颯先輩を紹介したのも可笑しいと思ってたけど職場では慕われているのか。家の中では変人なのに」


「隼君、酷いじゃない。息子じゃなったら今頃ビンタしてる所だわ。母さんはずっと、パパと貴方の穏やかな夜を守ってきたの。他の運び屋もそう。以前の比良坂町はそれはもう酷かったわ。夜間は人魚もウジャウジャでるし、肆区の環境は劣悪だった。今の子はDr.黄泉の発明品も使えるでしょ、母さん達はそうは行かなかった」


「そうだろうね、だから以前はヒーロー視されてた夜間専門の運び屋もどんどん引退してる。でも、そんな状態でどうやって母さんは生き延びたんだ?貴女みたいな人がどうやって?」


隼のストレートな言葉に彼女は嫌そうな顔をする。

息子の彼からしてみたら母親である彼女は夜に目が覚めたとき夜食で豚骨ラーメンや明太子茶漬けを食べている変人ぐらいにしか見えていないのかもしれない。

それぐらいの親子の距離感という事なのだろう。


「母さんは運び屋の中では天才って呼ばれてたのよ。今の隼君と一緒。ほら、望海ちゃんっているでしょう?彼女よりも広い範囲を担当して沢山の人を運んできた。皮肉な事に息子は私を反面教師にしているみたいだけど。まぁ、いいわ。母さんは銀の鈴の近くで待ち合わせをしているから。次の依頼があるでしょ?行ってらっしゃい、天才の息子さん」


そう言われ、今度は隼が顰めた顔をする。

しかし母親がしていたように鋭い目つきを見せ、まるで訴えかけるように挑戦的な眼差しを見せた。


「俺は貴女がどれだけ偉大な運び屋だったのか知らない。だから俺と貴女は比較対象にはならないしなれない。それに俺は天才の息子じゃない。天才の母親が貴女なだけ。現役が引退した運び屋を越えられないなんてどうかしてる。代を重ねれば優秀なものが生まれるのは自然の節理だ」


そう言われるとタスクは嬉しそうに頷いていた。

隼が自分の元から去った後、彼女はこう呟いた。


「そうね。でも天才を超えられるのは天才以外いないものよ。隼、貴方はまだ考えが若すぎる。良い意味でね」

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