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第拾伍話 因縁

皆が次の目的地に向け退出する中、黄泉は節子に声をかけた。


「あぁ、そうだ節子君。君に少し協力してもらいたい事があるんだ。いいかな?」


「えぇ、構わないけど。何か必要な資料があるのかしら?」


そのあと黄泉は何故か嬉しそうに注射器を出し、それを愛が慌てて制した。


「黄泉先生!!貴方、吸血鬼にでもなるつもりですか!?しかもこの緊急事態に!!」


「まぁまぁ、愛くん落ち着きたまえ。昨日、望海君の往診に行っただろう?その時に採血をさせてもらったんだ。その彼女のDNAを調べた結果。他の血液サンプルとは当てはまらない型だという事が分かってね。少し螺旋配置が特殊なようなんだ。もしかしたら節子君達のような朝風会長の子孫の可能性が出て来てね」


「まぁ、望海さんが私の親戚って事!?なら凄いロマンを感じるわね!でも、家系図の中にはお母様に関する情報はなかったと思うけど。お父様は歌舞伎の家系。お母様は偉大な運び屋家系に繋がっている可能性があるという事ね。誰なのかしら?」


節子は黄泉に案内され、素直に血液検査に協力するようだ。

その途中、廊下で話し合いをするタスクと実梨の姿を見つけ珍しい組み合わせだと彼女は首を傾げた。


「まぁ、タスクさんも協会にいらしてたのね。でも変ね、隼さんのお見舞いなら貴女がこのタイミングでいるのは可笑しいし」


「私はこの子とそのお兄さんに呼び出されたの。協力して欲しい事があるからって。でも、お兄さんが出て行っちゃってこれからどうしようか?って2人で話をしてて」


その言葉に同意するように実梨も頷いているようだ。


「阿闍梨君か。確かに彼もこの病に対して別の方向で調査を進めていたからね。そうだ、2人にも血液検査をお願いしたいんだ。特にタスク君は息子の隼君と関連出来るからね。親子と言うのは効率がいいんだ。代が繰り上がる事になるしね」


「そうか、私はお兄ちゃんと粗方類似してると思うし。親子とか兄弟関係なら何とか掻き集められそうじゃない?私も協力させて下さい!」


そのあと、黄泉は手際よく採血と血液検査を行ったが想像とは違う。予想外の事が起こった。


「落ち着いて聞いて欲しい。まず節子君、君と望海君の類似点は見つからなかった。君の言う通り、彼女と君は親戚ではないようだ」


「まぁ、残念だわ。私、望海さんと結構仲良くさせて頂いているのよ?タスクさんもご存知でしょう?貴女の後継人として手紙を届けて下さってたって。今は電子機器も充実しているし、そんな事はしなくなってしまったけど。でもね、少し疑問に思っていた事があったの。何故、貴女は光莉さんや児玉さんでもない。望海さんを後継人に選んだの?」


確かに同じ範囲を担当するメンバーは望海だけでない。

光莉や児玉もいるはずだ。しかし、タスクは何かを思い出すようにこう口を開いた。


「私の後継人だもの。私にとって頼りになる相手と言えば勿論、咲耶以外にいない。何処となく、望海ちゃんと咲耶に面影を重ねていて。この子しかいないと思って彼女に任せた。でも、実際に正解だったわ。彼女はちゃんとその役目を果たしてくれた。本当に感謝している」


黄泉は検査結果を見ながら何か考え混んでいるようだった。


「...成る程ね。どうやら富士宮家と朝風家には血の因縁があるようだ。節子君、もしタスク君が“君の親族だ”と言われたらどうする?」


黄泉の言葉に節子は勿論、タスクも目を見開いた。

何故なら、タスクと共通の子孫を持つという事はその息子である隼も同じく親戚になると言う事である。

松浪親子は朝風家の子孫。そう言われ、節子は口を震わせた。


「...えっ?嘘でしょう?では、御三家と言うのは何なの?朝風会長の血を引くからそう言われているのではないの?全部嘘だったって事?」


動揺する節子に対し、黄泉は落ち着いた様子で首を横に降った。

御三家が朝風暁の血族である事は紛れも無い事実。

それだけは確証出来るのだが、どうやら事態は思っている以上に複雑化しているようだ。


「そうとは言っていない。タスク君は現役時、天才肌と言われ直ぐにその能力を自分の物にした。だが、これは朝風暁という人物がバックにいてこそになる。血統はその存在を良くも悪くも証明してしまう。ごく僅かに彼の血が入っていれば覚醒遺伝でも能力を手に入れる事が出来る」


そう言われ、隠れた子孫と言われたタスクは自分を思い詰めたように顔を青ざめながら俯いている状態だ。

しかし、自身の羽織についてこう証言した。


「これは実家の蔵に保管されているのを偶然私が見つけたの。その時まで私は一般人で、隼を孕って里帰り出産をする為に戻って来た時に不思議と吸い寄せられるように身につけていて。息子が生まれた後、運び屋の中に同じ人がいるって事を知ってこの世界に飛び込んだの。だから、皆から急に出て来た天才って言われて。なんの取り柄もない自分でもこんなに頼りにされるんだって嬉しくなって。...仕事に夢中になって家族の問題を放置してしまった。これはもう、私に定められた運命なのかもしれないわね。隼が運び屋になったのもそう」


「ちょっと待って下さい。Dr.黄泉。もし、タスクさんのように自身も気づかないまま朝風会長の血を引いているんだとしたら運び屋達だって遺伝による近親婚、血統の飽和(ほうわ)が起きてしまいます。赤い血の割合が多くなって...いや、待ってください。もしかして、凝縮しているからこそ望海さんやお兄ちゃんみたいな優秀な運び屋が生まれてるって事?比良坂町ってもしかして異質なの?」


比良坂町が外からどのように評価を受けているのか不明な点も多いが、これだけ閉鎖的な場所であれば必然的に近親婚になる可能性が高いだろう。

勿論、本人にその自覚がなくてもだ。

自分の知らない間に親戚が増えている可能性も捨てきれない。


そんな中で黄泉は側にあったホワイトボードに大元となりそうな三つの家を並べる。

もしかしたら、これこそ真の御三家とも言えるかもしれない。


「血脈としては大雑把に朝風家と富士宮家、そして同じく名門の乙黒家に別れるだろう。その中で富士宮家は代々、純血を良しとして来た家系だ。それ故に男子は虚弱体質で早逝(そうせい)しやすく、女性も精神的に不安定でヒステリックを起こしやすい。そんな中でも咲耶君は最高傑作として存在している。そもそも、もう限界だったんだよ。比良坂町という場所は。運び屋と言う存在もね。人魚を駆逐して来た僕達でさえも血統が飽和していた。それが僕達の真実だ」


節子は驚愕の表情をし、大きく広げた口を自身の手で覆うように隠していた。

目は薄らながら涙を流しており、しかし黄泉の言葉を噛み締めるように頷いていた。

そのあとホワイトボードを見つめ、ある発想を持ったようだ。


「そうよね。そうじゃないと可笑しいわ。もしかしてなのだけど、朝風の家系と富士宮の家系って一度も交わった事がないの?生物学でも良く言うわよね?動物は自分の持っていない遺伝子を持つ物に惹かれるって。近親婚を避ける為に」


「意図的に富士宮家側がそれを拒否していた可能性もある。そうでないと直様、血が飽和に向かうからね。最後の保険として用意していた。それに富士宮家は代々、会長補佐として、歴代会長の側にいたと言う事も関係していると僕は思ってる。二つの家が親戚同士になれば、他の運び屋から身内で固めていると反感を買いやすくなるからね。現に、富士宮家の女子は皆、運び屋ではない違う家系に嫁いでいるパターンが多い。運び屋以外の人脈作りと血を外に出す為にね。ただ、例外として乙黒家の当主がいるだろう?あの方は僕の考察が正しければ乙黒家と富士宮家の組み合わせだ。それ故に兄弟で運び屋として無数の活躍をこれまでに生み出し。乙黒家は勿論、斑鳩家を繁栄へと導いた。それほどまでに名門同士の組み合わせと言うのは絶大なんだ」


黄泉は相関図に書き加えるように富士宮家と乙黒家、両者を包むように大きな円を書く。

他にも分家筋である、御三家や斑鳩家を記入していく。


「咲耶も言っていたわ。同じく肆区の名門として交流もあるし、仲良くさせてもらっているって。ただね、此処だけの話。乙黒家と七星家って仲が悪いのよ。ほら朝風系列の家系でしょう?乙黒家は元々、肆区ではなくてそれ以外の区を担当する運び屋達の集団だった。でも、会長の座を朝風系列の運び屋に取られてから一気に立場が悪くなって肆区へ追いやられてしまった。だからね、凄く面白いなと思ったの。今はほら、七星家と乙黒家が曲がりなりにも協力してるでしょう?その時、肆区で何かが変わったと思ったの」


名門が集まる肆区は思っている以上に過酷な環境で家同士が協力関係は勿論。敵対関係を築いているようだ。

そんな中で協力するようになったのはある少女のおかげと言っても過言ではないだろう。


過去に七星家に使える瑞穂と咲羅が乙黒家の者達に奇襲を受けた時、2人を救い仲間に加わった燕の存在だ。


「燕君は文字通り天才少女だからね。彼女が御当主を説得してくれた事には感謝をしないと。これは革命に値する事だからね。勿論、瑞穂君や咲羅君の力もあると思うが良い方向に進んだ事で比良坂町の謎を解いた。ある意味僕たちは歴史の壁を撃ち抜いたと言ってもいいのかもしれない」


「そうよね!きっとそうよ!それに今の比良坂町は開放的になっているし、今後血統の飽和というのは起こらないと思うわ。でも、今の現状に危機感を持った方が良いのは確かよね。これを機に、きちんと運び屋のルーツについて調べるべきだわ。申し訳ないけど、私は皆さんとは別行動をさせてもらうわね。お母様や爺やと協力して日誌の解読をしようと思うの。何か手がかりになる事が載っているかもしれないし」


そのあと、節子は慌ててその場から立ち去る事にした。

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