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第拾話 夢見人

「黄泉先生、もう真夜中ですよ。明日も会議ですし、そろそろ休まれては?」


真夜中の協会では黄泉が資料室を使い、病に関する情報収集をしているようだった。

そんな様子を愛は帰宅の準備をしながら見守っていた。


「愛君はそのまま帰ってもらって構わないよ。僕はもう少しだけこの現象について調べておきたいんだ。どうもきな臭くてね。愛君は赤い血を持つ人種についてどう思う?」


「どう思う?って私達の事ですよね?...なんでしょう?植物や他の動物に例えるなら突然変異はあるものの品種改良の成れの果てでしょうか?運び屋には必ず赤い血が含まれている。その割合や能力の強弱は人それぞれ、しかしその根源とも言える存在は未だ謎に包まれている」


「そうだね。そこでキーとなりそうなのが、協会初代会長である朝風暁や老舗の運び屋名家である富士宮家や乙黒家だ。だが協力を得られたのは燕君やそのご家族ぐらいでね。出来れば斑鳩家の当主にもご協力を仰ぎたかったのだが、ご高齢なのか病で床に伏せているようでね。血液サンプルは難しいかな?」


黄泉は大事に冷凍保存された複数の血液サンプルを眺めているようだが、その光景を見た愛は苦笑いを浮かべ、だからマッドサイエンティストと呼ばれるだとツッコミを入れそうになったが自分でさえも見飽きた光景なので諦めてしまったようだ。


「この場合、代を繰り上げれば繰り上げるほど運び屋のルーツに近づく事になりますね。文献ではよく、富士宮家こそ運び屋のルーツであると書かれています。ですが真偽は不明ですし、何より後継者であるはずの咲耶さんが突然いなくなった。身内の中でも混乱状態で「富士宮家はお終いだ」という暗い噂も立っている状態。黄泉先生、これは誰かが仕組んだ事なのでしょうか?」


「さぁ、そこまでは。僕はDr.黄泉であって探偵ではないからね。医学の視点から運び屋達をサポートするのが僕達の役目だ」


そんなおり、黄泉の無線が鳴る。

相手は児玉からのようで彼は首を傾げながらも受け取った。


「なんだい?珍しいな君からかけてくるなんて。万年休みなしの最強の抗体を持つ君達が僕を必要とする訳ないだろう。切るよ」


「どんな偏見だ!黄泉、実はな望海が体調を崩しているみたいで往診をしてもらいたいんだ。今、光莉が彼女を家に送ってる。後で合流してくれないか?」


そう言われ、黄泉は目を丸くする。

彼自身も珍しいなと思っているようだ。

望海は皆に慕われ、自身も体調管理を怠らず毎日立派に運び屋としての任務をこなしている。

そんな彼女が?と疑問を持っているようだが、それ以上に口元が笑っているようでその態度に愛は呆れていた。


「黄泉先生、まさか望海さんの採血でもしようなんて思ってないですよね?」


「まさか。治療に必要そうなら採血させてもらうだけだよ。分かった。直ぐに向かうよ」


そのあと黄泉は望海は勿論、圭太の生家でもある東家の邸宅を訪れた。

光莉に案内され、望海の寝室に行くと熱があるのか?顔を赤くし、咳き込んでいる彼女の姿があった。


「珍しいね。望海君が風邪を引くなんて」


「面目ないです。でも、最近運び屋の中でも体調崩されてる方いますよね。それに最近、中心街である噂を耳にしまして」


どうやら角筈を起源とする病の噂は思っている以上に広がっているようである。

しかし、中心街は人の集まる場所。

それだけに情報が流通していても無理はないと彼は悟った。


「やはり君達の所にも届いていたか。赤い血の人間のみが罹る奇病。僕も事例を何個か見てきたんだが、この僕ですら対処に苦しむ程の難病でね。患者が植物状態なのか寝たまま動かないんだ」


その言葉に望海もそうだが側にいた光莉も背筋を凍らせる。


「それって、明日会議で話す内容だよね。...あのさ、冗談だと思って聞き流してもらって構わないんだけど。最近夢にね望海が出てくるの。それで何故か私達が姉妹みたいに仲良く一緒に暮らしてるんだ」


「!?」


その言葉に驚いたのは何故か黄泉ではなく、望海だった。


「光莉もなんですか?実は私もそうなんです。何故か深夜に運び屋の仕事をしていて。誰かいるんですよ。私の尊敬する人が、私達のリーダーが」


その光景に黄泉は顔を珍しく引き攣らせた。

今の比良坂町は平和何処か、壁に隔てられていた以前よりも混沌とした状態に陥っている。

運び屋達が突然深夜を徘徊し、挙句の果てには夢の中で別の存在として生きている。

この現象を病という括りにして良い物なのかすら疑問に思っているようだ。


「2人で同じ夢を見てるという事か。そう言うのをシンクロニティと言うんだが。偶然か、またまた必然か?」


その言葉に光莉と望海は目を合わせ、顔を真っ青にした。


「...いいえ、違うんです。2人だけじゃないんです。旭さんも同じように出てくるんです。本人は偶然だと訝しいんでいましたけど。私は偶然に思えません」


「怖いよね。なんか、夢の中でもう1人の自分が生きてるんだ。そして、新しい関係を作って暮らしてる。でもさ、望海も分かってくれると思うけど何処か“懐かしい”ようなそんな感じがするんだよね」


「分かります。前世なんて今まで信じた事もなかったですけど、そう思うぐらいアレは“昔の自分”じゃないかって。そう思わせてくれるぐらいには心地良い夢なんです」


「成る程、真相心理の奥底にある“もう1人の自分”か。確かに僕達運び屋は異能力者だ。そのルーツも謎に包まれている。この奇病はそれを突いてくるような存在という事か。だとすればそれは、病というより自分との戦いになるだろう。では解熱剤と咳止めの薬を出しておくよ。お大事にね。僕は協会に戻って調査をしなければ」


そのあと、光莉が玄関まで見送りをするようで黄泉と共にそちらまで向かっている途中にこのような会話をした。


「Dr.黄泉なら分かってると思うけどくれぐれも無理はしないでね。貴方の代わりなんていないんだからさ」


「そんな事はないよ。僕だっていつかは皆と別れる日がくるかもしれないからね。だからこそ、一日一日を大切に君達と過ごして行きたいんだ。悔いのないようにね。僕の母校と言っても比良坂町に総合大学なんて一つしかないけどその医学生達が僕の研究所に通っててね。是非学ばせて欲しいと言って来たんだ。将来は君たちの支えになってくれると思うよ」


「だとしてもだよ。私達はDr.黄泉ともっと一緒にいたい。こんなにも頼もしい存在はいないんだもん。皆んなの担当医がいなくなったら困るでしょう?」


そう言われた黄泉は珍しく悲しげな表情を浮かべながらも、少しホッとしているようだった。


「光莉君は変わり者だね。僕の言えた義理はないけど。僕は世間の荒波に逆らうつもりはないし、自分の運命も受け入れるよ。でも、僕はどんな事があろうとも君たちの側にいる。君達の身体と心の支えになる。僕は医者だからね」


そのあと、黄泉は東宅から立ち去って行った。

《解説》

黄泉と光莉の会話についてですが、2027年をめどにドクターイエローの老朽化に伴い引退するという情報がJR東海の方から発表された為ですね。

ドクターイエローと言えば、長年新幹線を支えてきた存在という事もあり非常に人気という事もあり、引退すると聞いた時は非常にショックでしたね。時代の移り変わりを感じますね。

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