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プロローグ
僕は、自分という存在が分からない。
どこで生まれ、どこからやって来たかさえも分からない。気付いたら雨が降りしきる中、傘もささず冷たいブロック塀にもたれかかっていた。それが大体5年前の出来事だ。だから僕の記憶も、そこから5年間しかない。
あのとき、あの人が声をかけてくれなければ僕は違う未来を歩んでいたかもしれない。下手をすれば野垂れ死んでいたかもしれない。あの人と出会って本当に良かった。あの人のもとで暮らせてとても幸せだった。
だけど、そんな生活もたった3年で終わってしまった。
今でもはっきりと覚えている。激しく燃え上る炎、息をすることさえままならないほどの熱風、そしてガラガラと燃え落ちるあの人の工場。僕のもとに残ったのは、一生懸命働いて買った赤のGR86だけだった。
そして今、僕は――
《《人を殺して血を啜っていた》》。