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冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~  作者: KUMANOMORI
第三部

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ずっとこうしたかった

 ノインの溶岩がどこまでも流れていき、ミステアの作った鉄の壁をも溶かしていった。

「暑い、暑いよ~!」

 アインが声を上げる脇で、ゼクスは何者かに手を引っ張られる感覚がある。見れば隣にフィアがいた。

「フィア?」

と声をかけ、エメラルドグリーンの瞳と目が合ったその瞬間に、どこかの寝室にいる。騎士団の寮だと即座に分かった。


 窓の外には夜の帳が降りていて、月の光が部屋を照らし出している。窓の外を眺めてると、

「何を見ているの?」

と言って、スリップドレス姿のフィアが近づいてくる。胸から腰のラインが強調されるその姿を見て、なるほど、そういう趣向か、とゼクスは思った。

 フィアの艶やかな肌や、輝く髪は美しい。こちらを見すえる少しうるんだ瞳には、万人を引き込んでいくような力がある。かつて麗しの第二師団長様と呼ばれ、騎士団の話題をさらっていた理由も分かる。

 ただ、これが幻か、願望夢であるならば、もう少し自分の意向を反映させてもらえないだろうか、と思うのだ。


「フィア。衣服をもっと纏っておいてくれないか?脱がせにくい、剛健なものであればあるだけいい。堅牢な鎖や鉄板、手甲をつけるのもいいな。ドレスであれば留め具やドレープの多いものがいい」

 ゼクスの言葉に、目の前のフィアは顔に戸惑いの色を浮かべ始める。

「何を、言っているの。これから二人で甘く濃厚な時間を過ごすというのに、そんな衣服必要ないでしょ?」

 そう言って、やや強引に身体を密着させてくるので、ゼクスは目を見開き、そして吹き出した。そんなフィアは、記憶のどこにもいない。


「どうしたの?」

「甘い時間か。ならば、今日から九日間休まずにお相手いただこう」

「こ、九日間?」

「まずは前菜が必要だ。コース料理と同じ、時間をかけてメインディッシュにたどり着きたい。時間がかかるんだよ」

「分かったわ、それでいい」

 そう言って、フィアは抱き着くようにして身体を寄せてくる。体温が感じられて、少しばかり感情は揺れた。しかし、難攻不落のフィアがこんなに都合よく、聞き分けよく、手放しに身体を許すわけがない。


「好きよ。ずっと、こうしたかった」

 とフィアは言う。

「ずっと?」

「ええ、ずっと。夢にまで見ていたわ」

「夢にまで、か」

 フィアの髪をかき上げて、その口元に指を触れる。とろけるような顔をするフィアを見て、かつて泣いていた彼女を思い出していた。


 なぜ泣くんだ?と聞けば、うれしいの、と言う。

 手のひらで顔を覆い、その頬から光る涙が流れるのを見た。白金の髪に流れ落ち、そして寝台の布に落ちる。

 あれは、夢かもしれないし、都合のいい記憶だったかもしれない、とゼクスは思う。


 ただ、正体を隠して、本音を隠している彼女の、本当の言葉のように聞こえた。

 今では、確かめようもないが。


「では。存分に、味わわせていただくよ」

「ええ」


 目の前のフィアが背中に手を回してくるのが分かり、ゼクスは、急に興が削がれていった。


――――メインディッシュには、まだ早いな。


「ではその前に、剣を抜け、フィア」

 ゼクスは腰の剣を抜き、フィアの前に構えて見せる。その場しのぎの快楽が欲しいわけじゃない。

フィアの化けの皮を全部剥ぎ取った後、そのすべてが欲しいだけだ。

「前菜には、まず剣戟が必要だ」

 そして、軽く剣を薙ぐ。

 フィアの髪がはらりと落ちた。フィアは目を見開き、口元をわなわなと震わせる。そして、

「何をするの、無礼者!」

 と声を上げたのは、フィアではなかった。同じようなシルバーブロンドの髪を持つ、貴婦人だ。


「失礼いたしました。麗しのご婦人、ご退場願います」

 ゼクスは手に魔法を込めて、剣の上に電撃を這わせた。女性に向かって稲妻が駆ける。小さな悲鳴を上げて、女性は倒れた。


 ずっと、こうしたかった?


 記憶のないフィアを知っている身からすれば、悪趣味な趣向だ、とゼクスは思う。 


 女性が倒れた瞬間、ゼクスは元の場所にたたずんでいた。

隣では、暑い暑いとアインが騒がしい。けれど、実際にかなりの暑さだ。ノインの放った魔法により、岩までも溶かされた結果、城内は劫火に焼かれている状態になっていた。


 上階からフィアとノインが降りてきて、

「青銅の門が見当たらない」

 と言うのだ。


 髪に灰や煤を被り、溶岩の欠片を手にするフィアの姿を見て、ゼクスはホッと一息をついた。自分の感覚が間違っていなかったと感じたのだ。

「なに?」

 熱心な視線に、フィアは首をかしげる。ゼクスはフィアの髪の煤を払った。

 ゼクスはフィアを寝屋に閉じ込めたいわけではない。フィアの媚態だけではなく、気取らぬ全ての表情を見たい、と思う

「煤がついていた」

「ありがとう」と言い、ぼんやりと、訳も分からずにこちらを見つめる顔も、また、その一つだ。

「お姉様の幻覚にはあっていない?」とフィアが聞いてくるので、あの魔法がフィアの姉のものであったと知る。


「あれは幻覚だったのか。随分と、いい趣向だったな」とゼクスが言えば、フィアは探る目で見てくるのだった。

「いい趣向……。殿方は、ネモお姉様の幻覚に弱いと聞いているわ。その、感情を煽るような幻覚が得意だと」

 とフィアは言う。

「たしかに、登場人物はよかった」

 とゼクスが言えば、フィアは少しだけ口元を歪めた。自分が誰とのどんな幻覚を見ているのかを、嫉妬する程度には関心があるのか、とゼクスは思う。

「だが、本物の方がいい」

「え?」

「早く、門を探そう」

「ええ」

 ゼクスが言えば、フィアは戸惑いの表情のまま、答える。


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