日本らしさを出すにはシーソー式
時をさかのぼる事数年。
陸軍技官が持ち出した国民車という話題を聞いて塩飽造船で考え出したのは、軽トラだった。
「なぜまた軽トラ?」
という疑問に対しての答えは単純明快だった。
現状無免許で乗れる三輪車を代替する車両と言えば軽トラではないのかと。
三輪車は意外にも悪路走破性があったりするが、とはいっても三輪なので転倒の危険がある。それに、声を掛けてきた人物を考えれば軍での利用を考えているのだろうという事で、四駆の貨物車と言う事で軽トラを提案した。
「なるほど。確かに、くろがね製の車は貨物車としては使えない事を考えれば」
と、彼も納得している。
そして、エンジンとして用いるのは2スト3気筒エンジン。くろがねの四駆車が4サイクルV型2気筒1200ccで30馬力そこらなのに対し、こちらは700ccほどでそれを叩き出すことに成功している。
「軽トラにしては排気量がある様に思うけれど、たしかに、現状、軽四規格がない事を考えれば、十分でしょうね」
エンジンの改良さえ進めれば実際には50馬力程度が可能だとは思うが、今のところはこんなモノだろう。
そして、同じ提案を受けた二宮が提案したのは、完全にくろがねを意識したクロカン車だった。
「いや、それ、ジムニー」
そう、技官と声を合わせて言ってしまうほどにジムニーである。
「え?現在の道路事情を考えれば、乗用車ではなくクロカン車なのでは?ピックアップトラック型も出来ますよ?」
と言うので、まあ、それはそうだ。
しかも、うちのパワートレーンをそのまま利用しているのでどちらも性能的に違いはない。敢えて言うなら、ボンネット長や最低地上高が違うだけ。
「塩飽の車両は貨物車としての使い勝手から荷台が低く、二宮の車両は牽引に対応している。それが違いかな?」
と、技官も頷いている。
そして、話しは実際に販売してはどうかとなって、会社を立ち上げることになった。
塩飽造船と二宮飛行器が出資する自動車会社として二宮、香西の頭文字から、ニコ自動車と言う名称になった。
一般的な三輪車はオートバイ由来の単気筒や二気筒エンジンなので、この2スト三気筒がパラパラうるさいと言ってもあまり問題にならない。アッチも振動も音もかなりあるのだから。こちらの振動の少なさは売りかもしれない。
そして、販売からすぐに陸軍から発注が来た。
くろがねに遠慮してか貨物型を中心としたようだが、多少は乗用型も購入してくれた。
さらに、民間でも貨物型はそれなりの人気となっているのだが、やはり日本では国民車と言うには早すぎたらしい。
売れる先は運送業者や軍がほとんどで、未だ一般に普及するには程遠い状況だった。
しかし、そんな状況でも輸送手段が増えたから良いと考えるべきだろう。
新たな自動車会社を立ち上げ、軍への納入が始まる頃に戦争がはじまるというのは良かったのか悪かったのか。
そして、開戦から半年もたつとやはりという状況になって来た。
海軍はさらに3隻の空母を求めてきたが、その理由は分かっているのですでに建造準備は終えている。
二宮飛行器は雷電の戦力化に忙しかったが、そこである問題に気付いた。
燃料の仕様をどうしようか?
と言っても、燃料はテストで使用したものが現状は一番適しているのでそれをそのまま利用するという事で海軍も了承している。レシプロ用より入手しやすいんだろう。
さらに雷電の採用に合わせて、液冷エンジンで開発している彗星もターボプロップ化を言い出しているらしい。
そして、十六試艦戦として主翼を新たに設計し直した機体も順調に試験が行われている。エンジンと機体はほぼ雷電と同じなので問題ない。
ただ、艦戦と言う事で燃料搭載量を増やすために機体も一部は専用化しているので、何が不具合になるか不安はあったが、何とかなっている。
さて、販売したエンジンについてみていくと、九七大艇は好評らしいし、深山も採用が決まっている。機体が複雑でまだまだ解決すべき部分はあるが、3500馬力のエンジンを装備した事で性能は問題ない。
川西はさらに新型の5000馬力エンジンを使った新型飛行艇の開発を行っている。
中島ではさらに四発の陸攻開発なんて話も出いるらしいが、戦争中なんだからちゃんと量産性も考えて話をして欲しいものだ。
そして、陸軍に目を向けると陸用ガスタービンを用いた戦車を開発している。
車体が20トンほどで、短砲身型で26トン。海軍砲を転用した長砲身型では30トンになるらしい。
どうも、やろうと思えばトーションバー式も可能になっているらしいが、敢えてシーソー式でいくんだとか。
「この戦車をトーションバーで作ってしまうと、T44にしか見えないと思わないか?いかにも日本らしさを出すにはシーソー式だよ」
などと訳の分からないことを言っているが、まあ、それで良いんじゃないの?
そして、陸軍は深山を見て四発爆撃機の開発に乗り出すらしい。もちろん、うちのターボプロップを使うので600kmを超える高速爆撃機になる。
そこで気付いたらしい。
爆撃機がこんな高速で飛べるとなると、更なる高速戦闘機が必要だと。
もちろん、その要望に応えようと思う。