9話 さぁ、どうしてくれようか
そして私たちは悪魔連中と楽しくお話をした。
まず、他の悪魔が現れない理由は、イーナの魔力が恐ろしいから、だそうだ。
悪魔たちの戦闘能力は魔力に依存しているらしい。
身体強化に魔法にと、全てが魔力を必要としている。
そして、自分より魔力が多い相手に勝つことは不可能なんだとか。
要するに、上位の悪魔の命令に逆らえないってこと。
どんな理不尽な命令を受けても、従う以外の道はない。
逆らったら殺されるから。
まぁこの辺りは悪魔の性格にもよる。
すぐ殺す奴もいれば、割と寛大な奴もいるとか。
で、イーナのさっきの魔力は上級悪魔に匹敵するので、下級、中級の悪魔は基本的に寄ってこない。
目を付けられたくないから。
「さて、じゃあオスカルって中級悪魔を知ってるかい?」
私が質問すると、悪魔たちはイーナを見る。
イーナが頷くと、彼らは話を始める。
私の魔力量は彼らより低い。
だから、従う義理はないのだが、イーナが私を可愛がっているように見えるので、イーナに確認しているというわけ。
悪魔たちの話では、オスカルは領地を持っているそうだ。
下級悪魔が平民、中級悪魔が男爵ってイメージ。
爵位のようなものはなく、魔力量で自動的に領主になる。
つまり、オスカルはこの辺の中級悪魔の中で1番強いってこと。
私らの世界だと、男爵領で1番強いから男爵領の領主になった、って感じかな。
他の中級悪魔、あくまでオスカル領の中級悪魔だけの話だけど、彼らはオスカルの配下である。
そしてどいつもこいつも日々、下剋上を狙っているのだとか。
割と大変なんだね、悪魔社会も。
さて、私は領主の館がどこにあるのか聞き出したので、ローレッタと2人で空に舞い上がった。
そのままローレッタの風に運ばれて空中を移動。
「ところでローレッタ」私が言う。「殴られていたようだけど、まず殴り返すよね?」
「はいお姉様! 噛み付いたのはあくまで拉致したからです! 殴られた分は殴っておかないと!」
それでこそ傭兵!
じゃなかった、素敵な公爵令嬢!
「ところで今更ですがお姉様、どうしてあたしが殴られたことを知っているんでしょう?」
私は遠くが見える水晶のことをローレッタに教える。
「イーナが抱えていたアレですか。ホーリエン王国の物なら、領土とともに分捕ってもいいですね」
「イーナが持って帰るってさ」
ちなみに、イーナは水晶をホーリエン城の謁見の間に置いてきている。
そんなことを話していると、領主の館が眼下に見えた。
割と大きな屋敷だけど、ローズ領のお城ほどじゃない。
見た目も本当に屋敷って感じ。
「庭園が割といい感じですね」
庭園好きのローレッタが感心した風に言った。
私たちはその庭園に降り立つ。
すぐに燕尾服を着た年配の男性悪魔が駆け寄ってきた。
どう見ても執事である。
「ほう。人間の匂いがすると思ったら、本当に人間のようですねぇ」
執事悪魔が私たちを舐めるように見た。
「どうやって魔界に?」と執事悪魔。
「秘密だよ。それよりオスカルを呼んでくれる?」
「それは願いですか?」
執事悪魔が嬉しそうな表情で言った。
あ、そうか、こいつら願いと引き換えに寿命を持っていくんだった。
「いや、違う。私らはオスカルを殺しに来た」
「ほうほう。それはいいですね。是非殺してください。彼が死ねば、次の領主はワタクシですので」
そう言って、執事悪魔がスッと横に移動した。
そうすると、さっきまで執事悪魔の身体で見えなかった向こう側から、オスカルが歩いて来ていた。
「やれやれ、凶暴令嬢姉妹か」
オスカルが私らの前で立ち止まり、小さく首を振った。
「やぁオスカル。久しぶり」
私は公爵令嬢スマイルを浮かべた。
「魔界まで来るとは、よほど僕が好きなようですね」
「はぁ?」ローレッタが顔を歪め、中指を立てた。「ぶっ殺しに来たんですけど?」
ああんっ!
中指立てて汚い言葉を使うローレッタも可愛いっ!
もうローレッタなら何しても可愛いって思ってしまう私がいる!
「はん! 君ら如きが!? この僕を!? 見たところ、君らの魔力量は下の下! 死にに来たようなものですよ!」
オスカルはゲラゲラと笑った。
しばらく笑ったあと、オスカルは何度か深呼吸。
「それより契約を結んだ方がお得でしょう」オスカルが言う。「願いを言えば、僕が叶えてあげましょう」
「嫌だね。場所を変えようオスカル」私が言う。「ズタズタに殺してあげるから、ね?」
私の言葉を聞いたオスカルが、再び笑う。
やれやれ、場所を変えないなら、爆弾系統は使えない。
さすがの私も、普通に暮らしている悪魔諸君を巻き込んだりしない。
あくまで標的はオスカルのみ。
「いいよ、もう。ここで死ね」
私は20式小銃を仮創造。
即座に発砲。
しかしオスカルは弾丸を躱した。
その時に、オスカルが自身の全身に魔力を流したのが分かった。
なるほど、これが悪魔たちの使う身体強化ね。
オスカルは速攻で私の前に移動。
速いなっ!
オスカルは私を蹴ろうとしたのだけど、ローレッタが雷撃。
オスカルは回避して移動。
雷撃が走り抜ける。
「やはりその程度」オスカルがニヤッと笑う。「僕の敵ではないですねぇ」
「お姉様。アレを使ってもいいですか?」
「未完成だよね?」
「はい。ですが……」
「いいよ。中級悪魔に通用するか試したいんだよね?」
「はい! 【瞬雷】!」
ローレッタの全身を稲妻がコーティング。
ローレッタは凄まじい速度でオスカルとの間合いを詰め、そのままオスカルを殴り飛ばした。
殴った時に、【紫電の一撃】と同程度の電撃が発生してオスカルを攻撃している。
「ふぅ……」
ローレッタが魔法を解除。
未完成な上、【瞬雷】は魔力消費も激しい。
まぁ、その分かなり強力だけれど。
稲妻をまとっている間は、目で追いきれないぐらいの速度で動ける上、ほぼ無敵状態でもある。
攻撃すると自動で【紫電の一撃】に匹敵する雷撃が追加で入るし、現時点ではローレッタの最強魔法だ。
「人間風情がぁぁぁぁ!!」
大ダメージを負ったはずのオスカルが立ち上がる。
同時に、私はローレッタの隣へ移動。
オスカルの魔力がオスカルの傷を癒やしているのが目で見えた。
「思ったより厄介だね」
さっきのローレッタの攻撃で生きているだけでもヤバい。
その上、回復しちゃうとか。
「がぁぁぁぁ!!」
オスカルの魔力が赤く染まり、螺旋を描いて衝撃波が起こる。
おや?
これはイーナが使ったのと同じだね。
何かは知らないけど、たぶん身体強化の上位版かな?
「何年も拷問してから殺してやるぞぉぉぉぉ!!」
オスカルは怒りで人相が変わっている。
ちょっとキモいね。
◇
「良い天気だねローレッタ」
「はいお姉様」
野外用のお茶会セットを仮創造した私は、ローレッタとお茶を楽しんでいた。
ローレッタはさっきの【瞬雷】で魔力をかなり消費していたので、まず青ポを飲んで魔力を回復、その後、お茶を飲んでいる。
「おのれぇぇぇ!! 人間がぁぁぁぁ!!」
ガンガンと私の展開した【バリア・フィールド】を叩きながらオスカル。
この魔法は以前、アスラの落とした月を防御したバリアを練り上げたものだ。
透けた桃色のバリアが、私たちの周囲を囲っている。
「なぜだぁぁあ! 僕の方が遙かに魔力量が多いはず! なのになぜ壊せないっ!」
オスカルは魔力を撃ち出したり、拳に乗せたり、色々な手段を試している。
だけど私のバリアを割ることはできない。
頑強さには自信がある。
例えば、『Mk45.62口径5インチ単装砲』を撃ち込んだけどバリアは割れなかった。
5インチ単装砲は最新イージス艦でも採用されている主砲のこと。
これで割れないなら、よっぽどの威力じゃないと割れない。
ちなみに、バリアの内部では私以外どんな存在も魔法が使えない。
よって、転移系統の魔法で中に入るのは不可能。
「どうやってあいつ殺そうかな?」
「あたしはもう殴ったので、お姉様の好きな方法でどうぞ!」
「そうだね。まずは痛めつけようか。圧倒的な戦力差で」




