11話 ぶっぱぶっぱぶっぱぁぁぁ!
主砲を何発か撃ち込むと、民家は跡形もなく粉々に瓦解した。
「はっはー! これが『91式105mm多目的対戦車榴弾』の威力だよ!!」
私はいい気分で笑った。
ちなみに、私は車長ハッチから顔を出している。
クラリスも私と同じハッチから顔を出していて、目をパチパチさせていた。
「な、なんなんだこの威力は……」
ジェイドの声が少し震えていた。
ジェイドは私の左隣、装填手用ハッチから顔を出している。
「さすがお姉様!」
ローレッタは一段低い操縦手ハッチから顔を出しているはずだが、私の位置からは見えない。
「よぉし、もう一発いっとこうか!」
ふふっ。
私がかつて所属していた水陸機動団には、16式機動戦闘車は配備されていなかった。
でもカッコいいから扱ってみたかったんだよね!
「ちょ、ちょっとお待ちなさい」クラリスが慌てて言う。「もう十分ですわ! これ、死体も残ってませんわよ!?」
「ふふっ、そりゃそうさ。そうだろうとも。連中は何が起こったのか分からないまま、ただ死んだのさ」私はきっと薄暗く笑っているのだろう。「私の国で犯罪に手を染めたのが悪い。私の姫を暗殺しようと目論んだのが悪い。命が惜しければ、兵士になんかなっちゃいけない。任務になんて参加しちゃいけない。ふふっ」
それらしいことを言ったけれど、本心はこうだ。
たまには誰かを撃ちたい。
以上。
私ってば転生してもクソッタレの傭兵なんだよね。
「まったくその通りですね!」ローレッタが私を肯定する。「死体も残らないような死に方も、当然、覚悟の上でしょう!」
「む、むちゃくちゃだ……」
ジェイドは複雑な声音で言った。
「よし、とりあえずみんな下車したまえ。さすがにこのサイズの物を仮創造すると、維持の魔力がヤバい。まだ使い慣れてもいないし」
「使い慣れると、何か違いますの?」
言いながら、クラリスはハッチから外に出た。
「魔法は慣れれば慣れるほど、消費魔力が減るんだよ。私が最初に拳銃を仮創造した時は魔力を50消費したけど、今だと10ぐらいで済む。維持する魔力も、1分で1消費したけど、今は5分で1ぐらい。弾丸も1発につき魔力1だったのが、今は5発で魔力1と、かなり減ってる」
私も外に出て、装甲を滑るようにサッと華麗に地面に降り立つ。
そこで両手を広げると、クラリスが飛び込んできた。
私は上手にクラリスをキャッチして、クルクルとその場で回転。
続いてローレッタも私の方に飛んで来たので、キャッチ。
更にはジェイドまで私の方に飛んで来たので、キャッチしようとしたらローレッタが私を押した。
よって、私はジェイドをキャッチできなかった。
しかしローレッタが代わりにジェイドを抱き留める。
あれ?
ローレッタもしかして、ジェイドのこと、嫌いなんじゃなくて狙ってるの?
そういうムーブだよね?
自分が抱き締めたかった的な?
「なんですか?」
ローレッタが首を傾げた。
「いや、なんでも」
私は曖昧に微笑んでから、キドセンを消した。
キドセンは16式機動戦闘車の愛称だ。
「それにしても……」クラリスが民家の残骸を見ながら言う。「……クレイジーミアと呼ばれるだけのことは、ありますわね……」
「ああ。これがローズ領の爆発娘か……。お、俺様とは仲良くしような?」
ジェイドが右手を差し出したので、私は握ろうとしたのだけれど。
ローレッタがジェイドの手をパンッと叩いた。
「……ローレッタ、俺様に当たりがキツくないか?」
ジェイドの頬がヒクヒクと動いている。
たぶん怒っているのだ。
「さて、買い出し要員が戻るのを待とう」
言って、私は少し前まで民家だった残骸の方へと歩いた。
みんなが私に続く。
私は瓦礫に腰掛けて、背伸びをした。
ああ、いい天気だねぇ。
主砲ぶっぱ日和だよまったく。
「ローズ領がある限り」唐突にクラリスが言う。「我が国は安泰ですわね、きっと」
「お姉様が女王になれば、更に安泰ですよきっと」
うんうん、とローレッタ。
ええっと、それって私に王子のどっちかと結婚しろってこと?
それとも中央を盗れってこと?
後者だよね、たぶん。
まぁ私もハウザクト王国をローズ帝国にするのは、やぶさかではないのだけれども。
私が支配するとバッドエンドがね、ちょっと気になるんだよね。
「つまり、お、俺様と結婚……」
「ちがいます」
ローレッタがジェイドに肘打ち。
ジェイドが呻く。
クラリスが苦笑いしながら、私の隣の瓦礫に腰を下ろす。
その様子をローレッタが不満そうに見ていた。
私がクラリスの逆隣を手で何度か叩く。
ローレッタはパッと笑って私の隣に座った。
可愛い!
はい可愛い!
もう、お姉ちゃんっ子なんだからぁ!
ふふふふふふ。
「武力という意味では、ミアが女王になるのも悪くないかもしれませんわね」
「マジで!?」
いきなりクラリスに認められたので、私は驚いた。
ゲームでは主人公のことを最後の方まで認めてくれないのに。
「では現王に進言してください。速やかに退位して、お姉様に王位を譲れ、と」
「「え?」」
ジェイドとクラリスが目を丸くした。
「はっはー! ローレッタはせっかちさんだなぁ!」
私はローレッタの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら言った。
ローレッタは気持ちよさそうに目を細める。
「ふ、不穏なことを言うなローレッタ……ビビるじゃないか」
「そ、そうですわ。それにアタクシ、武力的には悪くないと言っただけですわ。ミアにはまだ、女王としての振る舞いは無理だと思いますわね」
まぁ無理だろうね。
ローレッタもそう思っているのか、特に反論はしなかった。
しばらく世間話をしながら待っていると、遠くに人影が見えた。
その人影は紙袋を抱えていたのだが、立ち止まって紙袋を落とした。
そしてダッシュで私たちの方へと移動。
「おいガキども!! 何があったんだ!! この家にいた奴は!?」
そう叫んだのは20代の男。
普通の村人のような格好をしている。
けれど、動き方や体つきで兵士だとすぐに分かった。
「まぁ落ち着きたまえよ」私がクラリスを手で示す。「誰か分かるかい?」
男がクラリスに視線を移動させ、そして硬直した。
「バカな……クラリス姫……? 計画がバレたのか……そんなバカな……どうして……」
男は混乱した風に周囲を確認した。
きっと、特務隊か何かが隠れていると思ったのだろう。
でも残念、いるのは私たちだけさ。
「ローレッタ」
「はいお姉様」ピョンとローレッタが立ち上がる。「【紫電の一撃・弱】」
男の頭から3メートルぐらい上に魔法陣が浮かぶ。
男はハッと我に返って、魔法陣から逃げるように駆け出す。
でも意味はない。
ローレッタの放った稲妻は彼を追うように走り、そして難なく命中。
私のローレッタを舐めてもらっちゃ困る。
落雷に打たれた男が悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。
大丈夫、死んではいない。
ローレッタの【紫電の一撃・弱】はわざわざ威力を落としている。
死なせてはいけない任務に対応するための魔法だ。
「さて楽しい尋問タイムだ」
クククッ、と私が笑う。
クラリスとジェイドがビクッと身を竦めた。
両殿下には見せない方がいいね。
私は立ち上がり、両殿下に離れるよう指示。
念のため、ローレッタを2人の護衛に付ける。
「さぁて、兵士君、洗いざらい、吐いてもらうよ。私はかつての団長に比べたら遙かに優しいけれど、それでも尋問のやり方は心得ている。ふふっ、大丈夫、君は証拠としてあとで治安維持隊に突き出すから、殺しはしないよ、殺しはね」
私は這いつくばっている男のすぐ前に立って、彼を見下ろす。
男は怯えるような目で私を見ている。
「貴様は……何者だ……」
「ミア・ローズ。ローズ領のミア・ローズ。さぁ、次は君の番だよ。まずは所属と名前を明らかにしてもらおう。どうせ最後には全部吐くんだから、変に黙らない方がいい」
私は尋問に使う道具を仮創造して、そしてなるべく凶悪に見えるように笑った。