9話 初めての魔力回復薬
「正気か!?」
ジェイドがすごい剣幕で叫んだ。
ジェイドってさ、ちょいちょい失礼じゃね?
「姉上を囮にするとか、お前、本気か!?」
「だって犯人ぶっ殺すなら出てきてもらわないと」
「いやいやいや! ないないない!」ジェイドが慌てて手を振った。「というか! 本当に狙われているのが姉上なのか!? だとしたらなぜ!?」
「落ち着いてください」
ローレッタがジェイドの股間をキック。
ジェイドが悲鳴を上げながら床を転がった。
あれ?
ローレッタ?
これ、余計にうるさいような?
そして、ジェイドの悲鳴を聞いて近衛兵たちが部屋に雪崩れ込んできた。
「何事ですか!?」
近衛兵の1人が緊迫した表情で言った。
「大丈夫です」とローレッタ。
「いや、しかし、王子の悶絶具合が……」
近衛兵たちはチラチラとジェイドを見た。
「ささささ、下がりぇ!」
ジェイドが半泣きで言った。
ちょっと可愛いんだけど?
ジェイドってちょいちょい可愛いよね。
「しかし王子……」
「大丈夫ですわ」クラリスが溜息混じりに言う。「本当になんでもありませんわ。下がってくさいませ。第一王子のお部屋ですわよ?」
両殿下に下がれと言われ、近衛兵たちは渋々と部屋を出た。
「ローレッタァァアァア……」
ジェイドは床に這いつくばった状態で、恨みがましそうにローレッタを見上げる。
「そのぐらいでダメージを受けるほうが間違っています」
ピシッとローレッタが言い放つ。
「お前にはぁぁぁあ、この痛みはぁぁぁ、分からんだろぉおぉぉ」
「手加減しました」
フイッ、とローレッタが顔を逸らした。
ローレッタってジェイドに当たりキツいよね?
ドーナッツのことならもういいのに。
「ジェイド、それでもハウザクト王国の第一王子ですの?」クラリスが厳しい声を出す。「王子たるもの、そのような醜態を見せてはいけませんわ。耐えなさい」
「姉上ぇぇぇ」
グスン、とジェイド。
まぁ、ジェイドは私の部下ってわけでもないし、弱くても仕方ない。
昨日ちょっと訓練に参加したぐらいでは、人間強くなったりしない。
仕方ないので、私は手を差し伸べた。
ジェイドはピタッと固まって、私を見る。
「早く手を取れ」
「あ、はい……」
私が急かすと、ジェイドは少し頬を染めて私の手を取った。
引き起こしてやると、「あ、ありがとうミア……」と蚊が鳴くような声で言った。
ローレッタがムスッとしている。
いや、分かるよローレッタ?
自分で立てと言いたいんだよね?
私もそう思うけど、ジェイドは部下じゃないし、もちろん兵士でもない。
だからまぁ、いいんじゃない?
いつまでも床に転がっていても意味はないし。
「それで? アタクシが狙われている根拠は?」
「もちろん【全能】の万年筆転がしだよ」
「……じゃあ、なぜ狙われていますの?」
「え? なんでだろう?」
「ちょっと!? ふざけてますの!?」
私が首を傾げると、クラリスが怒ったみたいに言った。
「そういえば、理由は知りませんね」ローレッタが言う。「でも、1人生かしておけば聞けるのでは?」
「おいおい」ジェイドが呆れた風に言う。「さすがに、姉上を狙うなど国家の一大事に等しいんだぞ? 理由ぐらいは突き止めて……今からみんなで、突き止めようか……」
ローレッタが睨むと、ジェイドは私の背中に隠れた。
ローレッタ恐怖症かっ!
好きから恐れの対象に!
まぁそれはそれで面白いからいいけど。
「突き止めると言っても、さっぱり分からないよ?」
突破口も特にないし。
そりゃ、前世の団長ぐらい賢ければ秒で犯人の目的も素性も分かるのかもしれないけれど。
私の知能は凡人のそれだったしなぁ。
今世は賢い設定だけど、それでも団長に遙かに劣る。
もうちょい私の能力高くしてくれても良かったのに。
私はゲーム制作会社に文句を言いたくなった。
あ、でもあまり私を強くすると、クリアできなくなっちゃうね。
「やはり捕まえて聞きましょう!」
ローレッタが言った。
「それが1番だよねぇ」
正直、万年筆転がしだとちょっと面倒。
尋問した方が早い。
大丈夫、尋問には割と自信あるから。
「だが姉上を囮にするのは却下だ!」
「ふむ。では犯人の居場所を見つけて、こっちから突撃しよう」
「どうやって見つけますの?」
「王都の地図ある?」
私が言うと、クラリスが部屋の外の近衛兵に地図を持ってくるよう頼んだ。
「地図でも万年筆転がしが機能するか試してみるよ、って言うか」私が苦笑い。「魔力の問題なんだよね」
「と、言いますと?」とクラリス。
「魔法は複雑になるほど魔力を消費する。つまり、王都の地図上からある一点だけを見つけるのは、結構しんどい可能性が高い」
「範囲を絞れば絞るほど、消費魔力は低くなります」
ローレッタが補足してくれた。
「それなら、魔力回復薬を用意させますわ」
「おぉ!?」私は目を輝かせた。「くれるの!? やったぁ!」
魔力回復薬は割と高価だ。
希少価値が高いから。
この世界には、前世にはなかったファンタジーな薬がいくつか存在する。
まぁどれも高価だから、滅多に目にすることはないけれど。
クラリスが再び部屋の外に出て、近衛兵と話して戻った。
「ふん! うちの城には魔法省の本部があるからな!」
ジェイドがなぜか自慢気に言った。
ちなみに魔力回復薬は自然の物と人工的な物の二種類がある。
自然の物は魔力を帯びた植物をすり潰していて、青汁っぽい感じ。
人工的な方は青い液体で、創造系の魔法使いが作るのだ。
味はどちらもクソという話だけど、私は飲んだことないから分からない。
あ、呼び名は自然の方がナチュラルマナポーション。
通称マナポーション。
人工的な方はブルーポーションで、通称青ポ。
この知識は図書館で調べた知識である。
とりあえず、ずっと立っているのもあれなので、私は靴を脱いでからジェイドのベッドに飛び乗ってそのまま座り込んだ。
ローレッタが真似をする。
「お、お前ら、俺様のベッドだぞ……」
ジェイドが呆れた風に言った。
「今更ですわ……ローズ姉妹ですもの……」
やれやれ、とクラリスが首を振った。
そしてクラリスとジェイドも靴を脱いで、結局みんなでベッドに乗った。
大きなベッドっていいよね。
しばらく待っていると、近衛兵が王都の地図と青ポを2つ持ってきた。
青ポは透明な瓶に入っている。
量はさほど多くない。
「綺麗ですね」とローレッタ。
「だね」と私。
ジェイドがベッドの上に地図を広げた。
さて、それじゃあ、やりますかねぇ。
「あ、万年筆がないや」
私が言うと、ジェイドが苦笑い。
クラリスがサイドテーブルの引き出しから万年筆を出して、私に渡した。
その様子を、ジェイドが複雑な表情で見ていた。
ここ、ジェイドの部屋だもんね。
「じゃあ、目的は連続強盗事件の犯人の現在の居場所」
しかし魔法が発動しない。
「あ、そっか、犯人3人もいるから、バラバラだと万年筆では指せない」
私は犯人の中で、リーダーだと思われる40代男の居場所に変更した。
私が再度魔法を使うと、地図の上に魔法陣が浮かぶ。
そして万年筆を転がすと同時に、ゴッソリと魔力が削られた。
ああ、クソ、やっぱこの広範囲から絞るのはキツい。
万年筆が指したのは、王都の外れの一軒家。
「ミア、大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「空になった……、魔力」
凄まじい消費だった。
まぁでも、捜索に関しては私の魔力で王都全域をカバーできるのが分かった。
地図なら、って話。
「よぉし! 早速! 青ポ飲んでみるね!」
私は瓶の栓を抜いて、まずは青ポの匂いを嗅ぐ。
特に刺激臭はしない。
いや、まぁ知ってたけど念のためね。
そしてまず一口。
ああ、これ不味いわ。
クソ不味いわ。
ゲロ吐きそう。
「ミア? さっきより顔色が悪いぞ?」
だけど大丈夫!
私は元自衛隊員!
耐えることに関しちゃ、世界でもトップクラス!
私は青ポを一気に飲み干した。
そして平気な顔で「まぁまぁだね」と笑ったのだった。
ゲロ吐きそう。
公爵令嬢はゲロなんて吐きません、ってセシリアに言われそう。
いや、さすがにないか。
とりあえず。
犯人ども、マジでどんな酷い目に遭わせてやろう?




