11話 女帝を警備員にしよう
「そんなわけで、私たちは無事にお宝をゲットしたってわけ」
私はドヤ顔で説明を終え、小さな胸を反らした。
ここはローズ公国、大公城の宝物庫。
元々、多くの金貨や宝石が置いてあったが、今は入り口の付近までドッサリ金銀財宝で埋まっている。
「いや、素晴らしいですな大公閣下」宰相のスヴェンが嬉しそうに言う。「我が国は今後10年は安泰でしょうよ、これほどの財宝があれば」
「……あたしも一緒に、行きたかったっ!」
ローレッタが少し悔しそうに言った。
私はローレッタの頭をナデナデ。
ローレッタが気持ちよさそうに目を細める。
「これだけの量でも、1割程度なのでしょう?」スヴェンが言う。「氷の大陸にあった帝国はどれほどの規模だったのか想像もできませんな」
そう、私が持って帰ったお宝は全体の1割にも満たない量だった。
みんなで分けたからね。
私、クラリス、レックスはそれぞれ1割程度を貰った。
私たちはあくまで訓練が目的だったし、1割でも多すぎるぐらいだよ。
レックスなんて目が点になってたもんね。
「……本当に俺が、こんなに貰っていいのか?」とか言いながら声も身体も震えていた。
すごく可愛かったね!
お姫様で高価な品を見慣れているクラリスですら、「こ、これは一年の国家予算を超えますわよ!?」と狼狽していた。
「大丈夫ですスヴェン!」ローレッタがグッと拳を握る。「我がローズ公国は! いずれは世界大帝国となるのですから! 過去の帝国如き! すぐに追い抜いて見せます!」
相変わらずローレッタは世界征服を目指しているようだ。
私は最強の領地を目指してはいるけど、特に世界征服は目指してない。
が、ローレッタが覇道を進むならお手伝いする所存である。
「ふむ、それはそうですな」
スヴェンは優しい瞳でローレッタを見ている。
孫を見るお爺ちゃんみたいな感じだね。
「さてそれじゃあ本題なんだけど」と私。
ローレッタとスヴェンが「え?」って顔で私を見る。
冒険譚も財宝も、まぁ本題っちゃ本題なんだけどね。
「氷の女帝持って帰っちゃった」
言いながら、私は【亜空間倉庫】から光り輝く球体を取り出した。
そう、かの帝国の宝物庫を守っていた防衛装置の本体である。
ジャベリンRで粉々にしたけど、形だけでも元に戻しておいたのだ。
ちなみに、【亜空間倉庫】というのは、大量の財宝を持ち運ぶために作った【全能】の魔法である。
漫画とかでよく見るたくさん仕舞える魔法の鞄を、倉庫でイメージしたもの。
実に便利な倉庫を、私は手に入れてしまったのだ。
「き、危険では!?」
スヴェンが一歩後退。
「お姉様が壊したのでは? 直したのですか?」
ローレッタが冷静に言った。
「形だけね。女帝が出てくる機能はこれから直そうと思うんだよね。」
「「!?」」
ローレッタとスヴェンがビックリして目を丸くした。
「お、お姉様!? そんなに美人だったのですか!? それとも豊満な肉体だったからですか!?」
「閣下は美しければ性別も年齢も、そして人かどうかも問わないというの存じていますが……」
あっれー?
この2人、私のこと何だと思ってるの!?
「違うよ!? そういう感じじゃないよ!? 私にだって節操はあるからね!?」
氷の女帝は別に観賞用に持って帰ったわけじゃない。
いや、本当に。
ローレッタとスヴェンがシラーっとした目で私を見ている。
本当に違うのにっ!
私は慌てて目的を話し始める。
「私の城を防衛させようと思っただけだよ! 本当だよ! それに氷の女帝が出す氷細工の方の女帝はSランクの強さだから、みんなの訓練に使えると思ってさ!」
「なるほど」ローレッタが納得した風に頷く。「訓練用でしたか」
スヴェンも納得した風に頷く。
私の訓練好きは周知の事実だからね。
「早速、あたしもSランクの敵と戦ってみたいです!」
ローレッタがワクワクした様子で言った。
「よぉし! お姉ちゃん張り切って直しちゃうぞ!」
私は全能の魔法で光っている球体の機能を修復する。
その上で、新たに色々と魔法をかけておく。
私に従う魔法と、大公城を守るようにインプットする魔法と、ここでも問題なく動作できる魔法などなど。
それらが終わり、私は球体を起動させる。
ちなみに起動方法は知らないので、全能で無理やり起動させた。
「はっ!? ここはどこじゃ!? 我が帝国の宝物庫は!? あ、貴様は我と闘いながらお茶会をしていたガキ!」
氷の女帝・人間バージョンが出現し、慌てた様子で言った。
「おかしいなぁ。データは全部入れたはずだよ?」
私が言うと、氷の女帝は「うっ」と頭を押さえた。
そして。
「ローズ公国……我が新たに守るのは……この城……そして時々、氷細工を出して……訓練に参加? なんだこれは!?」
氷の女帝が私に掴みかかろうとして、ローレッタが女帝を蹴っ飛ばした。
しかも雷を纏った足で、だ。
ローレッタの必殺魔法【瞬雷】の部分的使用。
さすがローレッタ、すでに【瞬雷】はマスターしたと言っても過言じゃないね。
壁に叩きつけられた女帝が、ローレッタを睨む。
「こっちはSSランクなのですよね?」
ローレッタの質問に、私が頷く。
「倒せそうな気がしますね」
ふん、とローレッタ。
「不意打ちが成功したぐらいで」女帝が言う。「調子に乗るでない」
やれやれ、と女帝は肩を竦め、それから私を見た。
今のローレッタではSSランクの敵には勝てないと思う。
でも、女帝が私を見たのは、そういうことじゃないよね。
「宝物庫のお宝なら、みんなで分けたからもう残ってないよ」
「……で、あろうな」女帝が息を吐く。「まぁ仕方あるまい。守れなかった我が悪い」
女帝は遠くを見るように視線を上げた。
釣られて私も視線を上げたけれど、そこには特に何もなかった。
当たり前だけどさ。
「我は今、貴様に洗脳されている状態で……」
「洗脳!?」私はビックリした。「確かにそうかもだけど!」
否定できないのが辛いところ。
「本意ではないが、仕方ないから今後はこの城を防衛しよう」
「ありがとう女帝。いつか君がここに愛着を持ってくれるといいのだけど」
私は笑顔を浮かべた。
私は確かに、女帝に色々な魔法をかけたけれど、彼女の人格には触っていない。
「では早速ですが」ずっと黙っていたスヴェンが口を開いた。「防衛計画を詰めましょうか。本城には警備員もいますからな。色々と連携して頂きます」
「よかろう」
女帝が頷き、スヴェンが女帝を案内して歩き始めた。
執務室に行くのだろう。
「あ、行く前に氷細工の方の女帝を出して行って」私が言う。「ローレッタが戦いたいみたいだから」
女帝は立ち止まり、小さく溜息を吐いてから、氷細工の女帝を創造した。
「ありがとう」
私が感謝を述べると、女帝はスヴェンと一緒に再び歩き始めた。
「さぁローレッタ、広っぱに行こうか」
「はいお姉様!」
私は【瞬間移動】を使って私、ローレッタ、氷の女帝(氷細工)をよく使う広っぱに移動させた。
◇
ローレッタは氷細工の女帝に勝ったが、満身創痍だった。
いや、年齢一桁でSランク倒せるとかどんだけ強いの!?
育成したの私だけどさ!
はぁ、はぁ、と肩で息をしていたローレッタが、その場にゴロンと寝転がった。
私はローレッタの隣に座り込む。
ちなみに、氷細工の女帝は粉々に砕けて、そして消えてしまった。
「ルーナリアンは一撃で倒したんですよね?」
「まぁね」私は肩を竦める。「でも彼女らは大人だし、それに唯一のレベル8冒険者だからねぇ。私ですら、あの2人とやり合ったらたぶん負けるよ」
「それほどですか……」
「そう、それほどだったよ」
あの2人は格が違う。
「世界は……広いですね……」
ローレッタが空に手を伸ばした。
何かを掴みたいのだと思って、私はローレッタの手をギュッと握った。
ローレッタは一瞬、驚いたような表情をしたけれど、すぐに微笑んだ。
「でも、だからこそ」私が言う。「楽しいこともたくさんある」
今回の冒険訓練も、楽しかった。
私は本当に、いい世界に転生したなぁ、って思った。
これで7章は終わりです!
次はEXを更新します!
投稿は月曜18時のままです。