6話 氷の女帝
翌朝、私たちはさっさと先に進んだ。
私たちというのは、私、レックス、クラリス、キング、そしてルーナ。
まぁ昨日のメンバーだね。
キャンプしてた冒険者たちは、みんな今日帰るみたいね。
彼らと話して分かったのだけど、この迷宮、少人数で潜るのは危険だから大勢で冒険してるんだって。
そうなると、単独行動のキングってどれだけ強いんだよって話。
今は私らと一緒だけど、私らいなかったら1人で潜ったわけでしょ?
あ、あとルーナもか。
リリちゃんも奥にいるらしいけど、まぁ1人じゃないよね、きっと。
ルーナはパーティって言ってたし、5人ぐらい仲間がいるのかな?
そういや聞いてないなぁ、なんて考えていたら縦穴に到着。
すごく大きな穴で、底は見えるけど結構高い。
「わぁ」とレックスが穴を覗き込む。
押したら落ちるね。
もちろん押したりしないよ!?
危ないって意味。
同じことを思ったのか、クラリスがレックスのバックパックを引っ張った。
「先に行くぞ」
キングは何の躊躇いもなくピョンと縦穴に飛び込んだ。
「私も行くね? 君たちは高いところから飛ぶの、得意なんだよね?」
ルーナが悪戯っぽく笑ってから、縦穴にジャンプ。
2人ともさすがだね。
絶対に大丈夫、安心安全だと分かってる飛び方だった。
「ちょっとアタクシ、普通に飛ぶのは無理そうですわ」
「俺も」
「だろうね。パラ使おうか」
私が言うと、2人はバックパックを前向きに装備し直した。
私も同じようにする。
そして私は指をパチンと弾き、それぞれの背中にパラシュートを仮創造。
「降下! 降下!」
私がアナウンスのように言うと、まずクラリスが飛んだ。
クラリスがパラを開いたのを見て、レックスが飛ぶ。
レックスがパラを開いたら最後に私が飛んだ。
パラを開いて、あとはゆっくりのんびり落ちていくだけ。
クラリス、レックス、私が順番に下に着地。
本当ならパラを畳むんだけど、今日はもうそのまま消した。
なぜかと言うと、キングとルーナが敵と戦っていたから。
相変わらずの、氷で作られた魔法生命体。
何種類かいるけど、今までに比べて見た目が遙かに強そう。
そして実際かなり強いと思われる。
何匹かはA級かな?
氷の迷宮の下層は、上層より天井が高い。
だから背の高い敵もいる。
ルーナとキングが敵を撃破しつつ、こっちをチラ見。
そして一匹だけ残した状態で距離を取った。
残ったのはミノタウロス風の敵で、武器は斧。
「クラリス、レックス」
私が声をかけると、2人がバックパックを下ろし、剣を抜いて駆け出す。
氷ミノタウロスの斧を躱しながら、2人が氷ミノタウロスを斬りつける。
面倒だから以降は氷ミノと呼称。
レックスは火の魔法を織り交ぜている。
うーん、2人とも本当に強くなったねぇ。
昨日の実戦を経て、更に動きがよくなったと思う。
やっぱり実戦経験って大事だよね。
「やるぅ!」ルーナが楽しそうに言う。「でもそいつA級だから気を付けてね!」
と、氷ミノの蹴りでレックスが吹っ飛ばされ、壁にぶつかって落ちた。
ありゃ、戦闘不能か。
私はレックスに駆けよって【全能】で全回復させた。
1人になったクラリスは善戦していたけど、氷ミノの斧を宝剣でガードし、そのまま弾き飛ばされて地面に落ちた。
さすがにまだ2人一緒でないとA級の相手は厳しいか。
私はクラリスにも回復魔法を使用。
そして私は『ジャベリンR』を仮創造。
これはアメリカ軍の対戦車ミサイル。
Rはローズ公国のRね。
いやぁ、【全能】って他国の武器も使い放題だから最高だよね!
「はっはー! ぶっ飛べぇぇ!」
私はノリノリで撃った。
ジャベリンは誰が撃っても9割ぐらい命中するんだよね。
高性能な自律誘導式だから。
ちなみに私が仮創造したRタイプは命中率10割!
撃ち落とされたり、シールドを展開されなければ、ね!
まぁそんなわけで、発射された弾頭は当たり前のように氷ミノに命中し爆発。
氷ミノの破片が散らばる。
キングがグングニルをクルクルと回して破片をガード。
ルーナが私を睨む。
「ミアちゃん、敵を爆散させないでね、って言ったよね私」
言ったっけ?
昨日、私が調子に乗って迷宮ごと破壊しかけた時に言ったか。
「えへへ……ごめんね……?」
私はジャベリンRを消して、頭を掻きながら言った。
「氷の破片は普通に危ない」
キングは溜息混じりで言った。
ごめんって。
「さすが元ローズ領の爆発娘ですわ……」
クラリスが言って、レックスがうんうんと頷いた。
私、爆発だーい好きっ!
「迷宮ごと壊しそうな魔法はダメ。次はお尻叩くからね?」
ルーナが真面目な感じで言ったので、私はもう一度謝った。
お尻叩きは勘弁して。
私これでも中身は成人してるから。
しかも割と……げふげふ、年齢の話はよそう。
私は花の10歳!
「分かったならよろしい」
ルーナが教師みたいな雰囲気で言った。
「進もう」
キングが歩き始め、私らが続く。
いつも通りの光景。
いつもと違うのは、敵が割とすぐに出現したってこと。
あと敵が強いので、私も普通に戦闘に参加。
もちろん、もう爆発物は使わない。
特に問題もなくずんずん進む私たち。
そこに。
「引き返せ」
酷く冷たい声が響いた。
同時に、私たちの目の前に氷の女性が出現。
胸がばいんばいんの女性。
まぁ氷だからきっと固いけども。
背が高くナイスバディで、たぶん顔も綺麗。
氷だから本当に綺麗かちょっと自信ないけど。
全裸だけど氷だからあんまりいやらしい感じはしない。
「くっ、氷の女帝だとっ!」
キングがグングニルを構えて向かって行く。
氷の女性は噂の氷の女帝だったみたい。
女帝はキングの攻撃を躱し、反撃でキングの腹部に拳を叩き込む。
キングが吹っ飛ばされるが、綺麗に着地。
ただし鎧にヒビが入っている。
え?
女帝めっちゃ強くない?
これがS級の魔物ってことかぁ。
まぁ、魔物って言うか魔法生命体だけども。
「引き返せ。さもなくば死ね」
女帝の威圧感が半端ない。
レックスは足が震えているようで、立っているのがやっとの状態。
クラリスも全身が震えている。
今までの敵とは格が違う。
「ぐはっ……」
キングが血を吐いた。
兜からゴボッ、って出てくる血はホラーだ。
「ひっ……」とクラリスが小さな悲鳴を上げた。
一撃でキングが瀕死なんですけど?
これ私しかまともに戦えないんじゃ……。
「なんでこんな早く出てきたの?」
ルーナは恐怖心が麻痺しているのか、気軽にそう言った。
「貴様の魔力を感じたからじゃ」
女帝がルーナを睨む。
なんかアレかな?
2人の間には想像もつかない深い亀裂が入ってるのかな?
「えぇ? 私のストーカーなの!? リリちゃんも混ぜてエッチする!?」
「そうはならんやろっ!」
私は激しく突っ込んだ。
本当は心の中だけで突っ込みたかったけど、声に出ちゃったよ。
「ふざけ……」
「ルーナの匂いがするぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
奥から走って来た人物が女帝を撥ねた。
正しくは、光る拳でぶん殴ったのだ。
女帝は壁に叩きつけられた。
「リリちゃぁぁぁん!」
ルーナが両手を広げると、女帝を殴った赤毛の女の人がルーナに飛び付いた。
獲物に飛びかかった肉食獣的な感じで。
普通にケダモノみたいだった。
え?
リリちゃんってヤバくない?
色々な意味で。
でも見た目はかなり可愛い。
赤毛のショートで、ちょっと悪そうな顔立ち。
年齢はルーナと同じく20歳前後。
服装はルーナとお揃いの冒険者服。
「お、おのれぇ……」
氷の女帝が何か魔法を使おうとした。
しかし。
「再会を邪魔しないで」
ルーナが先に魔法を使用。
正確には、あとから魔法を使ったのに先に発動した。
それは異常な速さだった。
氷の女帝の周囲に黒い刃がいくつも出現し、順番に氷の女帝を貫いた。
氷の女帝が粉々になるまで。
えぇ?
ルーナも化け物じゃね?
S級の魔物とは……。
「さ、さすがはルーナリアン……」
キングがボソッと言った。
んんんんん!?
今、ルーナリアンって言った!?