4話 恋の話は濃い話
氷の地下迷宮は、その名の通りかなり入り組んでいた。
でも、すでに攻略された場所しかまだ通っていないので、迷うこともなかったけどね。
とはいえ、キングの先導がなければ、普通に私ら迷子だね。
私の【全能】を使わないのなら、だけど。
まぁ、普通に進んだら迷子になる程度には迷宮だね、ってこと。
ちなみに迷宮は斜めに下っている部分が多く、体感だと地下3階分ぐらいは潜った気がする。
「急に敵が強くなりましたわ!」
「くっ、確かにっ」
クラリスとレックスが相手にしているのは、相変わらず氷の魔法生物。
氷の魔法生物たちは実にバラエティに富んでいた。
今現在、2人が戦っているのは氷のオーガ。
角が生えていて、大きくて強そう。
救いとしては、一匹しかいないってことかな。
「中ボスだね」とルーナが言った。
キングも頷く。
中ボスとかいるの!?
「ここを通ると必ず出るんだよねー」
ルーナがグルッと周囲を見回した。
私も釣られて見回す。
ここは通路的な場所ではなく、少し広くなっている。
実にゲーム的だなぁ。
そんなことを思いながら、クラリスたちの戦闘に目をやる。
実力的には平気そうだね。
2人の剣が、オーガを削っている。
あ、レックスがジャンプ斬りでオーガの角を落とした。
角を斬る意味があるのか分からないけど、印象的ではある。
更にクラリスが何度も斬りつけ、オーガをガンガン削る。
さすがに武器が宝剣だけあって、クラリスの攻撃力は高い。
しかしレックスも負けてはいない。
剣を左手で持ち、右の掌をオーガに向ける。
お?
「燃えろ!!」
レックスの右掌から炎が迸り、オーガを焼く。
魔法生命体のくせに、無駄に苦しむ動作をするオーガ。
その隙に、クラリスがオーガの首を落とした。
「あれ? 魔法使えるんだね?」
ルーナが驚いた風に言った。
「あ、はいです」
レックスはちょっと照れた風に頬を染める。
実は『魔法使い製造実験』は少し進んでるんだよね。
魔法について、《月花》のサルメに色々教えてもらったから、実際に誰でも魔法を覚えられるのかレックスで試してるんだよね。
ちょっとずつね。
私が忙しくて、あんまりガッツリは進んでないけどさ。
てゆーか、私が「あとで○○しよう」とか「○○について調べよう」とか思ったこと、ほとんどできてない。
くっ、もっと時間が欲しい……。
「進もう」
キングが淡々と歩き始めたので、私らも続く。
道中、オーガより少し弱いぐらいの敵が湧いたけど、全部クラリスとレックスが倒した。
私はちょっとソワソワし始めた。
私が明らかにキョドっているので、ルーナが「どうしたの?」と話しかけてきた。
「よ、欲求不満が爆発しそう!!」
私は無駄にその場でジャンプして言った。
私の声が大きかったので、みんなが立ち止まる。
私さぁ、今回の冒険、全然活躍してなくね!?
むしろ何もしてなくね!?
いや、監督者としてはこれでいいよ!?
2人の訓練教官としてなら、問題ないよ!?
でもでも!
こんなに大人しくしていたら、フラストレーションが溜まるぅぅぅ!
私はたまには人とか魔物とか撃ちたい病なんだよぉぉ!
定期的に引き金を絞らないと死んじゃうのぉぉ!
訓練しないとウズウズしちゃうのぉぉ!
「あらら」ルーナが楽しそうに言う。「じゃあ、私とエッチなことする?」
なんですと!?
驚きのあまり、私はルーナを見詰めた。
「あ、リリちゃんも混ぜて3人でする?」
是非!
って、違うって!
そういう意味じゃないっ!
「ミアちゃんはおませさんだなぁ」
ルーナが楽しそうに言って、地面に膝立ちの姿勢に。
「とりあえず、エッチはあとでリリちゃん混ぜてするとして、今はとりあえず私の胸でも揉んで落ち着いて」
ルーナは普通に胸を突き出した。
え?
揉んでいいなら、じゃあちょっと……。
私はドキドキしながら、右手をゆっくりと伸ばす。
ミア・ローズ、大人の階段を一歩だけ上ります。
ローレッタにバレたら抓られるだけじゃ済まないけど、ここにローレッタはいない!
「いけませんわ! 何を普通に揉もうとしてますの!?」
クラリスが凄い勢いで私の頭を叩いた。
私はガクッってなった。
そのぐらいの威力で叩かれた。
痛い。
「ミア、さすがに流されすぎだぞ」
レックスが引きつった表情で言った。
ああんっ、そんな汚物を見るような目で見ないでぇぇ!
イケメンにそんな目をされたら、ちょっと気持ちい……げふんげふん!
てゆーか、流されてもだって仕方ないじゃん!?
ルーナが揉んでもいいって、そう言ったんだもん!
ルーナを見ると、お腹を抱えて笑っていた。
え?
えぇぇぇ!?
冗談だったの!?
小悪魔か何かなの!?
「まったくミアは油断も隙もありませんわね」
クラリスは両手を腰に当てて、怒った風に言った。
「ルーナさん」レックスが言う。「ミアの言った欲求不満は、あれだ……です。えっと、暴れたいとか、爆破したいとか、そういうのだす……」
だす。
ちょっと面白かったけど、レックスは私を何だと思ってるのかな?
これでもハウザクト王国では公爵令嬢、自分の国では大公なんだけど?
そんな破壊神みたいなねぇ。
てゆーかレックスって前から私のこと破壊神みたいに思ってる節あるよね?
「それじゃあ次はミアちゃんが戦ったら?」
ルーナはニコニコと言いながら、立ち上がる。
「そ、そうするよ……」
私はちょっと恥ずかしいので、視線をキョロキョロさせた。
「胸は本当に揉んでも良かったのに」
「ルーナ先輩!?」クラリスが言う。「そ、そんなのダメですわよ!?」
「クーちゃんも揉みたい?」
「ち、違いますわよ!? そういうことでは、なくって……」
クラリスは照れてしまったようだ。
さすが王族。
貞操観念は割とシッカリしている。
「ふふ、女の子2人はおませさんだね」
ルーナは本当に楽しそうに言った。
てゆーかルーナはずっと楽しそうだ。
人生そのものが楽しいんだろうなぁって思った。
「進んでもいいか?」
キングが淡々と言った。
さっきのやり取りで顔色1つ変えないとは。
って、兜のせいで顔色とか分からなかったね。
兜の下ではデレデレしてたりして!
「いいよぉ」
ルーナが言って、キングが歩き始めた。
「ところでルーナさん」私が言う。「リリちゃんさんとは、パーティを組んでる同郷の幼なじみってだけじゃ、ないの?」
「うーん? どう思う?」
大人の関係だと思います!
なんかそんな気がします!
でもそうは言わない。
また、おませさんって言われちゃうからね!
「わ、分からないから、聞いたんだよ?」
私はちょっとドキドキしていて、それを隠せなかった。
いや、もちろん本気だったら隠せたよ?
ここが戦場で、生死を分けるような場面なら、私は顔色1つ変えない自信あるよ?
でも今は違うもんね!
「いやらしい関係、だよ?」
ルーナがいやらしい声で言った。
レックスとクラリスが揃ってビクッとなった。
仲良しかっ!
そしてキングが小さく溜息を吐いた。
「ふふふ、私とリリちゃんはパートナー。普通に結婚してるから、妻って言ってもいいし、でも気分的にはずっと恋人だね」
ルーナは右手の人差し指を立てて言った。
とっても幸せそうに見えた。
「リリちゃんは女性ですわよね?」とクラリス。
「そうだよ? どうして?」
ルーナはキョトンとして聞いた。
「どうしてって……その……婚姻は、その、女性と男性で……と教わりましたわ」
「そうなの? うちはそういうの、どっちでも良かったよ?」
ほほう。
この時代にずいぶんと多様性を大事にした国があるもんだね。
「なるほど。そういうのも……あり……ですの?」
呟き、クラリスが私を見た。
えっと?
私がクラリスを見返すと、クラリスはさっと前を向いてしまった。
え?
何だったの今の?
私の頭の中にはハテナマークが飛び交うのだった。




