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初日の悲劇!

「よし! 新スキル会得! 戦女神様、ありがとうございました!」

「いいのよ。本当はスキル付与後はあんまり関わっちゃダメなんだけど、困った時は呼べば助けてあげる……その代わり」

「オレは何も見てません。ただただお優しい戦女神様の御力にすがる哀れな子羊です」

「今回の勇者は素晴らしいわね!」


双方に利益のある事を確認して、オレは再びあの惨劇の森へと戻った。


いまだゲロゲーロとやっている村娘のみんなに近づくものの、さきほどとは違いオレの精神と胃袋に動揺は見られない。

というのも『精神防御』というスキルを戦女神様に頂いたのだ。


コレの効能は精神に負荷がかかりそうなものに対して、事前にガードしてくれる。

現状であれば、血臭と汚物臭という嗅覚をカットしてくれている。

なんなら森林にでもいるかのうような、透き通った空気の香りすら感じる。


次にグロい死体の山に視線を向けると……なんとモザイクがかかっているではないか。

この『精神防御』はオレが過度のショックを受ける要素に対して、それぞれ的確なガードをしてくれるのだ!

なんて便利なスキルだろうか!


さきほどとはうってかわって、キリリっとしたオレを、いまだうずくまって見上げる村娘さん達。


「失礼。みっともない姿を見せてしまって。どうもさきほどのゴブリンの攻撃をかすらせてしまって、そこに毒が塗ってあったみたいだ」


ウソである。

ゴブリンの攻撃なんてかすりもしていない。

だがそういっておけば、グロい光景に吐くわけがないでしょう? と当然の顔をする命の恩人の言葉を肯定せざるをえない、そういう空気になってしまうのである。


「そ、そうでしたか……私たちこそ、大変お見苦しく……」

「勇者様、勇者様ですよね?」


平静を取り戻したオレに、村娘さん達が再び寄ってくる。

どことなくフローラルな香りがする。本来であれば酸っぱい臭いで充満しているはずなのだが、これもスキルの効果だろう。


「では村までお送りしましょう。道はわかりますか?」


村娘たちはうなずき、オレは彼女たちを村へと送り届けた。


村に着くなり連れ去られたはずの娘たちの姿を認めた家族たちが、手にしていた武器を放り投げて走り寄ってきた。


どうやらゴブリンに連れ去られた彼女たちを、今にも取り戻しにいかんとするところだったようだ。

彼女たちの説明でオレがカッコよくゴブリンたちから救い出した事を知った村人たちは、すぐに歓迎と感謝の宴を開いてくれた。


まだ太陽も高い時間だというのに、豪華な料理とともに酒がふるまわれた。

真面目な高校生だったオレは初めての酒にクラクラとしながらも、オレが渡したきわどい衣装を来たままの村娘さんたちの途切れぬ酌を受け、さらに酔いを加速させたのだった。


いつの間にか意識も朦朧とし始めて、気づけば深い眠りに落ちていた。




***




「んん……?」


痛む頭をおさえつつ、体を起こす。


辺りを見回すと、見知らぬ部屋の中だった。

オレは粗末ながらもベッドの上で眠っていたらしい。


「ここは?」


そんな呟きに応えるようにドアが開く。


「……お目覚めですか? おはようございます、というのもおかしいでしょうか。もう夜半ですし」


助けた娘さんの一人だった。と思う。

外はすでに真夜中で、室内にも灯りはない。


だがわずかに差し込む月明かりが照らしているのワンピースは、とても露出が多いものなので、オレが渡した物に間違いないだろう。


「ずいぶんとお酒をお召しになっていましたから覚えてらっしゃらないかと思いますが……宿屋などない小さな村ですから、今晩は私の家にお泊りになるという話は?」


「いえ。まったく覚えていません……すいません、お世話になったみたいで」


村娘さんはクスクスと笑い。


「お世話になったのは私どもの方です。そのお礼はこれから……とはいえ、ほかの者は恋人や伴侶がおりますので、僭越ながら私がこたびのお礼を……」


そう言って、娘さんが服の肩ひもに手をかけて……そのままストンとセクシーワンピースが床に落ちた。


畜生、暗くてなんにも見えない……が!


村娘さんさは、そのまま暗い室内に小さな足音を立てながら、オレがいるベッドへとゆっくり歩いている。


アレか。


コレはアレか!


カッコよく助けたヒーローが、アレな感じでお礼をされるアレか!


オレは口から飛び出るくらいに鼓動を激しくしている心臓をなだめつつ、しかし視線だけは釘付けで村娘さんをベッドに迎え入れるべく、手を差し出す。


その手をそっと握った村娘。

いくら部屋が暗くても、これだけ近づけば色々と見える……見えるはず……なんだが、これは……。


「ちょっと女神さまァ!!」

「きゃ!?」


モザイクがかかっていた。

村娘さんのあっちこっちに、ゴブリンの死体の時と同じモザイクがかかっていたのだ。


どうやらオレの心臓の高ぶりからして『精神防御』の対象と判断されたらしく、右に左に上から下から、と村娘さんの聖域をのぞきこんでもすべてモザイク処理されてしまった。 


「女神さま! 聞いてますか! 聞こえてますか!? 今すぐお返事プリーズ!」


オレは少しでも声が届けといわんばかりに、部屋の窓をあけて星空へと叫んだ。


『……うう、なに……今何時だと……思って……』


それが功を奏したのか、戦女神様からのテレパシーっぽい声が届く。


「緊急事態です! スキルに不具合が起きて大ピンチです!」


簡潔に用件を伝えるが、戦女神様の声は寝ぼけたままだ。


『ええ……うわ、こんな時間になにしてるのよ!?』

「ナニができないんですよ!」

『何の事?』

「なんでもいいからそっちに呼んでください!」


はやくはやくはやく! 

せっかくの人生初のチャンスが!


「……イヤ」

「なんでぇ!?」


オレが魂の悲鳴と共に理由を尋ねると。


「今、裸なの。私は寝る時は何もつけない主義なの』

「……オレ……ボクはかまいません!」

『私がかまうのよ! 明日のお昼になったら呼んであげるから、今夜はもう寝なさい!』

「そ、そんな!」


しかし戦女神様は以降、どれほど呼び掛けても答えてくれず。

あっけにとられていた村娘さんは「勇者様、今日はお疲れなのね」と言って、部屋から出ていってしまった。


「……ああ……あ゛あ゛あ゛……」


部屋に残ったオレは一人、泣いた。






翌日。


昨晩、部屋に来た村娘さんに作ってもらった朝食をいただきつつ、昨晩の事をなんとかうまく説明して、今夜もう一度どうですか? という流れにもっていこうと試みるものの。


「昨夜は失礼いたしました。勇者様は戦女神様に全てを捧げられていらっしゃるのね。とても敬虔で素晴らしい事だと思います」


などと、なんか尊敬されているような眼差しを向けられてしまい、オレはとっさに「いやぁ、ははは、そうですか? それほどでもないんですけどね!」などと、その場しのぎのカッコつけをしてしまった為、結局、昨夜の続きがどうこうというイベントに関してはうやむやになってしまった。


だが。


「旅の途中でいらっしゃるようですが……もし勇者様に急ぎのご予定がないのであれば、しばらく我が家に逗留されてはいかがですか? 時に身も心も休む事が必要かと」


と、なんともありがたいお言葉にオレは一秒でうなずいた。

チャンスはつながったのだ!


そうして今夜はどう動くべきか? などと考えていると、お昼時にさしかかり唐突に「呼ぶよー!」という、能天気な声が頭に響く。


次の瞬間には、部屋着姿の戦女神様の待つ、例の白い部屋に移動していた。

オレはすぐさま戦女神様に近寄る。


「女神様!」

「近い近い近いっていうか怖い怖い怖い!」


オレがダシッシュで近寄ると、戦女神様がバックダッシュで距離をとる。


「そんなに避けられるとちょっと傷つくんですが」

「いや、そんなふうに迫られたら。それで昨晩はどうしたの?」

「はっ! そうでした! かくかくしかじかでして……!」


オレの説明を聞き、戦女神様は。


「あー。つまり勇者クンにとって、女性の裸っていうのは、吐くほどグロいものを見るのと同じくらい精神的に負荷がかかってるのね。やっぱり、ど(ピー)て(ピー)?」

「え? 今なんて?」


なんか戦女神様の声が途切れ途切れになってしまった。


「だから、(ピー)うて(ピー)……あれ、もしかしてうまく言葉が届いてない?」

「ええ。なんかピーピー言ってますね」


やっぱり放送禁止用語みたいなカンジで戦女神様の言葉がブツ切りになってしまう。


「……あー。視覚、嗅覚だけじゃなくて、聴覚にも『精神防御』が仕事してるのね。キミが聞きたくない言葉も届かなくなってるわ。ずこいわね『精神防御』。融通が利かない分、ガッチガチだわ」

「今、なんて言ったんですか?」

「ど(ピー)(ピー)い」

「……」

「……」

「ともかく、なんとかしてください!」


オレが懇願すると戦女神様が困った顔で聞き返してくる。


「いや、キミはどうしたいの?」

「『精神防御』を無効にしたいです!」

「いやー、それは無理だって。『異界倉庫』取得の時にも言ったでしょ? スキル取得後の変更や取り消しはできないって」

「う」


確かに聞いた。

しかしこのままではせっかくの異世界ライフが! チートももらったのに!


「じゃ、じゃあ、何か追加のスキルで上手い事できませんか?」

「いやいやさすがにそれは。もともと三つの所を記念で特別に五つにしてあげてるし。武器やアイテムもサービスしてあげたから、これ以上の優遇措置をとると私が怒られちゃうのよね」

「そ、そうですか」


誰に怒られるのかとかそういう疑問がないでもないが、確かに普通より良くしてくれているという話だったし、これ以上を望むというのは友好的な戦女神様の機嫌を損なってしまうかもしれない。


それは今後の異世界生活にもとって、とてもよろしくない流れだ。

うう、しかし、うううう! あきらめたくない、あきらめきれない!


しかし、さすがは戦女神様である。

こんな案を提示してくださった。


「けれど、キミが勇者として活躍してくれれば六個目のスキル付与もしてあげられるかもしれないわ」

「マジですか!?」

「ええ。けど、それなりの活躍が求められるわよ?」

「具体的には?」


あまりハードな内容だと困ってしまう。

モザイクから無修正にできるのならば、命くらいは賭ける覚悟はあるものの、絶対無理ゲーというレベルならモザイクでも我慢する程度の判断力はかろうじて保っている。


「そうね……やっぱり人の為になる事をしてもらうのが一番ね。具体的には魔物や魔獣や魔人を倒して、人に感謝されるって事かな?」

「なるほど、わかりやすいです!」

「誰かに感謝されるって所が大事よ? その際は、戦女神様の加護があってこそ、とか言ってくれると最高ね」

「おおせのままに!」

「あとは戦女神を祀っている神殿とかにも協力してくれるとありがたいわね。やっぱりなんだかんだでお金とか人手は必要になるし」

「喜んで!」

「ふふ、素直な勇者は私、大好きよ?」


その後も色々とアドバイスをいただいた。

戦女神様いわく、やっぱり最初は大きな街の冒険者組合に入る事。

そこでコツコツとランクを上げつつ、仲間を増やし、名を売り、事あるごとに戦女神に感謝を捧げておけば間違いないそうだ。


「キミがそうやって活躍して……いえ、そうね、わかりやすいようにしてあげる」


戦女神様がオレの手を握る。うっわ、やわらかっ! と、すぐに離れてしまうが、その右手の甲の部分には奇妙なアザができていた。いや、形ある印だった


「私の紋章よ。今は真っ白だけど、ポイントがたまると少しずつ蒼くなっていくわ。それがすべて染まった時、また会いましょう」

「その時は……」


つまり……?


「ええ、第六のスキルを付与してあげるわ! もしくは『精神防御』の解除でもいいわよ?」

「がんばります!」

「いいお返事ね、じゃあ送り返すわよ?」

「はい、よろしくお願いします!」


そうしてオレはまた異世界へと戻っていった。

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オーガの坊ちゃん、借金抱えてダンジョン経営! with いつも無愛想なサキュバスメイド!
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