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初日の歓喜!

オレの名は久保田 銀丞ギンジョウ

付き合いの長い友人たちからはジョーと呼ばれている、どこにでもいた高校生だ。


……そう、過去形だ。

なぜか?

それは今、オレの目の前に広がっている光景を見れば納得してもらえるだろう。


こちらを殺意を持ってにらみつけてくるゴブリンどもの群れ!

その奥には、こんな森の深くまで連れ去られてしまった村娘さんたち!

彼女たちはゴブリンどもに服を破られているさなか、突然現れたオレを見て助けを求めているのだ!


「ふふん……ゴブリンどもめ! すぐに消えるなら見逃してやるぞ!?」


そう言い放ったオレに対して、ゴブリンどもが奇声と涎を口からまき散らし、こん棒を振り上げて走ってくる。


「雑魚どもが!」


オレは虚空から一振りの刀を取り出し、黒い刀身を抜き放った。


もうおわかりだろう。

そうなのだ!

ここは異世界!


男子たるもの一度は憧れる三大要素、世界最強、ハーレム、そして異世界。

その一つがここにある! いや、もしかしたら全部あるかもしれない!


お約束と言ってしまうとアレだが、つい先日の事。

オレは赤信号を無視したトラックにはねられ、享年十七年で現代日本からおいとました。


その後、真っ白な部屋で目が覚め、戦女神と名乗る美しい女性と出会った。

戦女神様は開口一番。


「おめでとうございまーす! 通算百人目の勇者という事で、通常プレゼントされるスキルが三つの所、五つとなります! やったね!?」


ややノリが軽いながらも、戦女神様はその言葉通りスキルを授けてくれた。

ただスキル一覧というものは提示されず、こちらがどんなスキルが良いかをたずねられた。

それにそった適切なスキルを付与してくれるという。


オレはノータイムで要望を伝えた。


「不老不死で!」

「あー。それ今は法的にアウトなの! 他のもので!」


法的にダメだった。


「最強の魔法で!」

「最強って個々人によって解釈が違うからねー、もっと具体的に!」


確かに最速の一撃こそ最強という人と、力isパワーが最強という人もいる。

これはオレの要求が曖昧すぎた。


「じゃあ、最強の武器……も好みがありますよね?」

「そうね、得物は最強でも扱う筋力なども必要だし、武器だけでは最強たりえないかなって!」


そう、武器は力となるが、力そのものではない。

いくら素晴らしい武器も操れない者が持てば、壁の飾りと同じだ。

それを振るう者が最強と讃えられるのだ。


「……難しいものですね」

「そうね、みんなだいたい同じ事を言うわ」


過去の勇者もそうだったらしい。


「で、そう言うと決まってこう聞かれるのよ。前の人はどんなスキルを選んだのかって?」

「まさにそれを聞こうと思いました!」


先達に学ぶというのは良策だろう。

オレは戦女神様から『勇者デビューにオススメのスキルパック(技巧派)』を頂戴する事とした。


こちらは三種のスキルの詰め合わせだ。

セットだからといってお得なオマケがあるのではないが、スキルにシナジーがあり、過去の勇者が使っていた組み合わせでもあって確たる実績もある。


内容としては『疾風迅雷』『一撃必殺』『自然治癒』である。

技巧派スキルパックというだけあって『疾風迅雷』の素早い動きで敵の攻撃をかわし、『一撃必殺』で強化された攻撃を叩きこむ組み合わせだ。


『自然治癒』は戦闘で受けたダメージの回復にも使えるが、異世界という日常生活を生き抜く為でもある。

治癒術やポーションの価値が高い異世界ではとても有用なスキルなのだ。

負傷はもちろん、病気や呪いとかそういった状態異常にも効果があるらしい。


ちなみにさきほど剣を虚空から取り出したのは『異界倉庫』。

四つ目にオレが望んだスキルだ。


こういった格納系は戦女神様にとって地味なスキルだったらしく、スキルを決定したら、あとで取り消しや変更はできないけど本当にいい? と何度も確認されたが、むしろアイテムボックス系スキルは鉄板だと思う。


ちなみに剣は戦女神様からの頂いた。昔の勇者のお古らしい。

他にも勇者が残したアイテムなどもどうせ捨てちゃう予定だったからとまるっと引き継いだ。

中身はほとんど確認していないが、ちらっとみた限りもう異世界がイージーになる確信が持てる内容だった。

よくわからないものが大半だが、貴金属の類もそうとうに詰め込まれているのだから。


ここまでで四つのスキルを獲得したが、五つ目のスキルは思いつかなかった。

というより、この四つのスキルで打破できない苦境にあった時、それを突破できるスキルをとりたいと思って未取得のままだ。

困った時に戦女神様を呼べば、あらためてスキルを付与してくれるらしい。ありがたい。


さて、話を戻そう。


そうして戦女神様からスキルをもらい、さっそく試運転よね!? と言われた。

オレは特に深く考えず、そうですね! と、うなずいた。

すると戦女神様がこめかみに指をあて、うーん、うーん、とうなった後。


「見えた、見えました! 深い森! ゴブリン! 村娘! デビュー戦にふさわしいイージーシチュが!」


戦女神様の手が光り「いってらっしゃーい、また会う日までお元気で! あ、ちょっと容姿もイジったから後で確認しておいてね!」という言葉を最後まで聞くやいなや。


次の瞬間にはこにに立っていたのだ。

そう、冒頭のシーンだ。


ゴブリンがいて、その向こうに服に手をかけられた娘さんたちがいて。

何をすべきか、何を言うべきか。

オレは一秒で理解して、次の一秒後には口を開いていた。


「ふふん……ゴブリンどもめ! すぐに消えるなら見逃してやるぞ!?」


キリリっとした表情でカッコよく告げる。

そして虚空から刀を取り出す。黒い刀身がきらめく。

臨戦態勢となったオレに対してゴブリンどもは襲い来る速度を緩める事はなかった。


「雑魚どもめ……ッ!」


オレは羽根のように軽い体を疾駆させて、ゴブリンどもと交差するように駆け抜ける。

無論、刀をそれぞれのゴブリンの首に走らせながら。


オレは駆け抜けたゴブリンの群れに背を向けたまま、その先でしゃかずみこみ震えていた村娘たちの方へと歩み寄る。


「大丈夫。もう大丈夫です」


そして『異界倉庫』から人数分の服を取り出した。

服はどれもこれも高そうなものだが、妙に露出が高いものが多かった。

村娘たちは露出の多い服にとまどったが、破られた服よりはマシだと思ったのか、白い背中をオレに向けて着替え始めた。


「ああ、服は友人の預かりものなんです。そんなものしかなくて申し訳ない」


オレは紳士的に目をそらせつつ、その服の趣味は自分ではないと弁明する。

村娘たちは着替えを終えると、とまどいながらも命の恩人であるオレにお礼を告げてきた。


「当然の事をしたまでです。さ、村までお送りしましょう。なるべくオレから離れないようにしてくださいね」


いまだ怯えている村娘たちがオレに言われて、周りを警戒しながらよりそってきた。

オレも周囲を警戒する。


あらゆるものを見逃すまいと村娘たちにもしっかりと気を配る。

ノースリーブならまだマシ。

下着も見えそうなくらいに短いスカートや、下着をつけていたら逆にエロくなってしまうような細いチューブトップ、背中がガバっとあいたドレス、などなど。


なるほど、以前の勇者の趣味か。これを恋人や仲間に着せていたんだな、うらやましい。


だが今はありがとうとお礼を言いたい。

オレはお礼を言える常識人だ。

ありがとう、以前の勇者よ!


そしてセクシーな装いとなった村娘たちに囲まれ、さきほどのゴブリンの群れ……だった肉塊の山の横を通り過ぎた時、それは起きた。


「……ッ!? うっ……うう……おえぇえぇッ!」


吐いた。

鼻をついた血臭で一気に込み上げ、耐える事すら一瞬もできずに日本で食べた最後の晩餐であるとんこつラーメンを盛大にぶちまけた。


チラっと見ただけなのだが、首をとばされたゴブリンどもというのは実にグロテスクすぎた。

そこに血臭という嗅覚にダイレクトアタックが加わり、現代日本人のメタンルは瞬壊したのだ。


ホラー映画とかは平気なオレだし、なんならネットで見たけっこうキツい実際の映像なども見た事があったが……異世界でも現実となると話が違った。


「おろろろろろ……」


血臭の中、マイ胃液をトッピングした豚骨ラーメンの匂いが混じわり最悪となる。


「うえぇぇええ……」

「あぁ……げほっ……」


さらに悪いことに、被害が伝播し拡大した。

周囲の村娘さんたちが、もらいゲロを始めたのだ。

みながうずくまり、ゲーゲーと声ならぬ合唱を始める。


大惨事だ。


まごうことなき大惨事だ。


これから先、どれほどの時間を過ごすかはわからない異世界だが、今ほどの危機はもう来ないだろうと確信して戦女神様を呼ぶ。


すぐに戦女神様の声が届く。


『ど、どうしたの? もしかしてやられちゃった?』


「いえ……ごほっ、そうじゃなくて、すいません、スキル、追加しますから、そっち戻してくれますか?」


『え? すぐ?』


「はい、すぐに……大惨事になってますから……うげぇ、おろろろおろろろ……」


『ちょっと待てない? 三十分くらい!』


「無理です……三分すら無理です……」


『じゃあ、一分!』


「……なんとかがんばります……」


なぜかちっょと待てと言われたので、吐きながら待つ。

辺りはもうひどいありさまだ。


美しい衣装を身にまとった娘さんたちが、這いずり回りながら嘔吐を続けている。

その臭気がさらに被害を拡大継続させる。


悪い事は重なる者で、ゴブリンの死肉を求めて、なにやら獣まで寄ってきたようだ。

木々の奥から目が三つある野犬の群れが姿を現した


「くそっ……」


刀を握りしめ、立ち上がる。

こちらを得物だといわんばかりに見定めている犬もどきどもにオレは迷う事なく突っ込む。

勝負は一瞬だったが、肉塊がまたダースで増えた。


「……おえぇええええ!」


目にも止まらぬ剣閃は、止まらぬ嘔吐も加速させた。


『お待たせ! 呼ぶからね!?』

「お、お願いします……うっぷ……」


戦女神様からの声が頭に響く。

オレはすぐにでもと返事をした。


時間にして五分ぶりくらいだろうか。

白い部屋に戻ったオレを笑顔で迎えてくれた戦女神様だったが……装いが変わっていた。


神々しいまでの天使のような白い翼は背から消えており、絹のようなきらめいたドレスではなく、アップでまとめていた髪型も変わっていた。


率直に言うと、前髪をデコの上にゴムで束ねあげ、化粧も落としてジャージに着替えてらっしゃった。

既視感があるこの姿はなんだろうと考えて、すぐに思いあたる。


残業から帰宅して、さっそく一杯はじめたOLの姿に酷似していた。

というのもウチのねーちゃんが仕事から帰ってきた後がこんなふうなのだ。


「……私は無口な男性が好きよ。逆に恩を仇で返す男性が大嫌いだかね? 天罰を与えちゃうくらいに」

「オレは口がとっても固いです」

「素直な勇者に祝福を」


ここに契約は成り、オレはさらにスキルを一つ得られる権利を頂戴した。


「それでどうしたの? 戦闘力に不足はなかったと思うけど?」

「ええ。素晴らしいスキルと武器でした。完璧でした。全てはオレの力不足です」


そして詳しい経緯を説明し、これに対処できるスキルをお願いしたのだった。

三話完結です。

短い物ですが、今後も追加のできる連載形式にいたしました。

月(本日)、水、金で完結です。よろしくお願いいたします。

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オーガの坊ちゃん、借金抱えてダンジョン経営! with いつも無愛想なサキュバスメイド!
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