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第5話

セラフィーナはヴァルスが用意してくれた食事を前にして、手をつけずにいた。


「どうした?食べれそうな物はなかったのか?」


「あ、いいえ!そんな事は…、」


セラフィーナは慌てて頂きます、と言い、食事に手を伸ばした。


「美味しいです。」


セラフィーナは果物を食べ、その瑞々しくも甘い味に笑顔でそう言った。


「これはここで採れたものなんですか?」


「ああ。光は射さないが何故か作物は育つ。そういう森だ。」


森にかけられた呪い。一体、どうして、そんな呪いがかけられたのだろう。セラフィーナは気になりながらも踏み込んではいけない気がした。


「ヴァルス様は食べないのですか?」


「俺達は食べなくても生きていけるからな。」


「そうなんですか。」


人間と妖精は別の生き物だから、そういう所も違うのかな。そうセラフィーナは思った。


「セラフィーナ。」


「え、は、はい!?」


「?どうした?何をそんなに驚いている?」


「あ、えっと…、な、名前で呼ばれたのでびっくりしてしまって…、」


「名前で呼ぶのは不快だったか?」


「い、いえ!そんな事は…、ただびっくりしただけです。ヴァルス様の好きなように呼んでください。」


「分かった。なら、俺の事もヴァルスで構わない。俺に敬称をつける必要はない。」


「あ、はい。じゃあ‥、ヴァルス。」


セラフィーナは照れながらも名を呼んだ。何だか、胸がドキドキした。異性の名を呼ぶだけでこんなに緊張するなんて…。そう思っていると…、


「これを渡しておく。」


そう言われ、ヴァルスに差し出されたのは…、一枚の羽根だった。それは、ヴァルスの翼と同じ羽根だった。


「これって…、」


「それには、俺の魔力が込められている。この森は危険が多いからな。それを身に着けていれば安全だ。」


そう言って、ヴァルスは器用に羽根を首飾りにしてみせると、指で振って見せた。すると、いつの間にかセラフィーナの首元にその羽根の首飾りがかかっていた。


「俺がいない時に一人で森を出歩いてもいいがその時はそれを身に着けておけ。それなら、自由にどこへ行っても構わない。」


「あ、ありがとうございます…。」


婚約者以外から初めてプレゼントを貰ってしまった。セラフィーナはじーんと感動した。


「次は屋敷内を案内しよう。」


そう言って、ヴァルスはセラフィーナに屋敷の中を案内してくれた。


「ここが図書室だ。」


「わあ…!こんなにたくさん…!」


セラフィーナは図書室の広さに驚いた。そして、保管している本の量の多さにも。


「わ…!これって、古典語の原文…?あ…、失われた歴史書まで…!」


どれも古くて、残されていないといわれている貴重な本ばかりだ。セラフィーナは思わず目を輝かせた。


「気に入ったのなら、好きなだけ読むといい。」


「え、いいのですか!?ありがとうございます!」


セラフィーナは嬉しそうに弾んだ声を上げる。


「凄いです!私、こんなに歴史的価値の高い本が集められた図書室何て初めてで…、」


セラフィーナがそう言っていると、不意にヴァルスが窓の外に顔を向けた。


「…また、あいつか。」


「え?」


チッと舌打ちしながら、そう呟くヴァルスにセラフィーナが首を傾げたその時、パリン!と窓ガラスが割る音がした。思わず、そちらに顔を向けると…、


「ヴァルスー!私の未来の旦那様!」


そこには、蝙蝠の羽根を持った褐色の美女が立っていた。かなり、際どい格好をしていて、胸元や背中が開いた服を着て、むっちりとした太腿を露にしている。色は紫と黒を組み合わせていて、かなりセクシーな服だった。

スタイルが良くないと着れないデザインの服だがその美女にはよく似合っている。が、セラフィーナは目のやり場に困ってしまう。


「また、お前か。モナ。」


「ヴァルスー!今日もあなたはとても素敵!今日こそ、あたしと愛の口づけを…!ヘブッ!?」


そんな美女を前にしても、ヴァルスは顔色を変えずに煩わしそうに眉根を寄せる。

そんなヴァルスに褐色の美女は両手を広げて抱き着こうとするが彼が手を翳すと、見えない壁にぶつかるようにして阻まれ、美女はそのまま床に倒れ込んでしまう。セラフィーナは慌てて駆け寄ろうとするが…、


「フフッ…、ウフフ…、」


女はムクリ、と起き上がり、奇妙な笑い声を上げた。そして、恍惚とした表情を浮かべると、


「ああ…!素敵…!やっぱり、あなたって最高よ…!ヴァルス!それでこそ、落とし甲斐があるというもの…。」


そして、ゆっくりと立ち上がると、美女は言った。


「ヴァルス…!やっぱり、あたしにはあなたしかいないわ!あたしと結婚して!」


「断る。」


美女の熱烈なプロポーズを間髪入れずに断るヴァルス。だが、そんな冷たい態度にも美女はめげない。


「もう!相変わらず、冷たいんだから…。でも、そんな所もまた…、」


ふと褐色の美女と目が合った。すると、美女は眦を吊り上げ、


「な…、だ、誰よ!?この女!」


ビシッと指を突き付けられ、セラフィーナはビクッとした。


「客人だ。」


「客人!?っていうか、この匂い…。人間じゃないの!」


「そうだが?」


「何で人間の小娘がここにいる訳!?」


「事情があってこの森で暮らすことになった。」


「何ですって!?」


ヴァルスの言葉にモナは怒り狂ったようにセラフィーナを睨みつけた。その鋭い眼差しに思わずセラフィーナはまたしても、びくりとする。


「人間の小娘が…、このあたしの獲物に手を出すなんて…、いい度胸じゃないの…。」


「え、ええ!?あ、あの…、ちょっと待って下さい!私とヴァルスはそんなんじゃなくて…、」


「身の程を知るがいい!」


女がカッと目を見開き、手を振り上げた。すると、黒い針が無数に飛んできた。

セラフィーナは慌てて結界魔法を発動させた。が、セラフィーナが結界で弾き返す前にその攻撃は全て無効化された。見れば、ヴァルスが手を翳した状態で立っていた。


「勝手な真似をするな。」


「ヴァルス!?な、何でこんな人間の小娘なんかを庇うの!?」


「それは、俺の所有物だ。俺の物に勝手に手を出すな。」


助けてくれた…。セラフィーナはその事実に胸がトクン、と高鳴った。


「な、何ですってえ!この女!このあたしでも落とせてないのに一体、どんな卑怯な手を使ったのよ!

この、泥棒猫!」


「あ、あの…、ヴァルスはただ私を助けてくれただけで…、そんな深い意味は…、」


「人間の分際で森の守護者であるヴァルスを呼び捨てするなんて図々しい!身の程を知りなさいよ!」


噛みつかんばかりにセラフィーナに詰め寄るモナにヴァルスがスッとその間に立ち塞がる。


「よせ。モナ。俺がそう呼べと言ったんだ。」


「はあ!?嘘でしょ!?」


くわっと目を見開くモナにヴァルスは本当だ、と言い、


「俺はこいつを保護すると決めた。」


「な、正気!?こいつは、人間なのよ!」


「…そんな事は分かっている。だが、もう決めたことだ。」


「冗談じゃないわ!私達が人間に何をされたのか忘れたの!?人間は私達の敵!そもそも!この森だって元は人間のせいで…!」


セラフィーナは目を見開いた。どういう意味?しかし、それ以上の言葉をモナは発することができなかった。

ヴァルスがそれ以上の反論は許さないとばかりに室内の空気が凍ったからだ。セラフィーナからは彼の背中しか見えないが凄まじい威圧を感じる。真正面から視線を受けたモナは固まり、口を閉じた。


「…モナ。それ以上の発言は控えろ。」


「あ…、う…。」


モナは後ずさり、本棚にぶつかると、そのまま崩れ落ちた。ヴァルスの威圧感に耐えきれなくなったのだ。


「…出て行け。今すぐに。」


「っ、か、勝手にすれば!?ヴァルスなんて、もう知らない!」


そう叫んでモナは窓から飛び去った。セラフィーナはモナの姿を見送るしかできなかった。ふと、床に本が何冊か落ちている。さっきので落ちてしまったのだろう。セラフィーナはそれを拾い上げる。ヴァルスは指を振ると、残りの本を魔法で元の場所に戻した。


「あの…、ヴァルス。今、あの人が言ってたことって…、」


「…昔の話だ。お前が気にする必要はない。」


「でも…、」


セラフィーナはモナの表情を思い出した。敵意と憎悪を隠そうとしない視線。あれは、私をというよりも人間に向けられた感情のような気がした。


「私達が…、人間が何かしたのですか?」


確信を持ったようにセラフィーナは問いかける。ヴァルスはピクッと一瞬反応をする。が、すぐにフイッと視線を逸らした。


「お前には関係のない話だ。」


そのまま背を向けて立ち去ろうとするヴァルスにセラフィーナは手を伸ばし、思わず服の裾を掴んだ。


「ヴァルス!待って!お願い。教えてください!この森の真実を…、私達人間が一体、何をしたのかを…!」


ヴァルスは無言でセラフィーナを見つめる。その目から、逸らさずにセラフィーナは言った。


「私は知りたい。本当の事を…。」


「知った所でどうする。」


「分かりません。でも、知らないよりは全然いい。何も知らずにこのまま目を逸らし続けるよりも私は真実を知った上で見極めていきたいんです!」


ヴァルスは数秒黙り込んだが、やがて、はあ、と諦めたように溜息を吐いた。


「…分かった。そこまで、知りたいなら話してやる。」


ヴァルスはそう言い、セラフィーナに向き直った。


「…言葉で話すより、こちらの方が話が早い。セラフィーナ。手を出せ。」


「?」


セラフィーナは首を傾げながらも言われた通りに手を差し出した。すると、ヴァルスが手を握った。繊細で綺麗だけど大きな手…。そんな風に思っていると、不意にセラフィーナの頭の中に映像が流れた。

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