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第3話

「ここは‥?」


気づけば、セラフィーナは清潔なベッドに寝かされていた。そっと起き上がり、辺りを見回す。

知らない場所だ。


頭がぼんやりとするが次第にセラフィーナはこれまでに起きた出来事を鮮明に思い出した。

そうだ。私はあの時、兵士達に犯されそうになって‥、でも突然あの金色の目を持つ男が現れて‥。


今でも目を瞑れば彼らの断末魔の悲鳴が聞こえそうだ。あの光景が目に焼き付いて離れない。

鴉の大群に襲われ、生きながら食われていく彼らの姿が。彼らから飛び散る血を浴び、絶命していく姿までしっかりとこの目で見たのだ。

ガクガクと思わず身体が震える。

が、ふと見下ろせば、セラフィーナの身体はどこも汚れていない。あれだけの血を浴びたのに‥。

もしかして、誰かが血を拭き取り、身綺麗にしてくれたのだろうか。

破かれた服もいつのまにか新しい服に変わっている。ただ、サイズは合っておらずぶかぶかで服の裾も余っている。


これ、男物かな?もしかして、さっきの人が?


服は大きすぎるが着替えさせてもらえたのはとてもありがたい。裸よりは全然マシだった。

さっきはあまりにも衝撃的な光景を見たショックで混乱したがこうして生きていることにホッとする。

もしかして、あの男の人が助けてくれた?

だから、自分はこうして生きているのだろうか。

もしそうだとしたら、どうして私を助けてくれたのだろう。

考えても分からないがとりあえず、今は殺されることはないのかもしれないと思うと、セラフィーナはホッと胸をなでおろした。


ベッドから下りて、室内を見渡す。

全体的に薄暗くて、天井から、垂れ下がった魔法光のランプがこの部屋を照らしている。

窓から見れば黒い森の風景が広がっていた。ここはかなり、森の奥に位置している屋敷のようで小高い場所に建てられているみたいだ。調度品や家具も品が良く、高価な作りをしている。黒の森にこんな立派なお屋敷があるなんて知らなかった。セラフィーナはキョロキョロと辺りを回した。シンプルで飾り気のない部屋だが、室内は手入れが行き届いている。


あの綺麗な男の人の家なのかしら?

あの人はどこに行ったんだろう?


自分を助けてくれて、ここまで連れてきてくれたのはきっとあの人だ。お礼が言いたい。セラフィーナは彼を探しに行くことにした。


セラフィーナは扉を開けた。すると、ぎゃあぎゃあ、と鳴きながら黒い何かが飛び込んできた。黒い羽根がバサバサと目の前を覆った。


「きゃあああ!?」


セラフィーナは悲鳴を上げて、後退る。そのまま後ろに倒れ込みそうになったが…、グイ、と腕を引かれ、転倒を免れた。

見上げれば自分の腕を掴んでたのはあの黒髪の男性だった。


「あ…、ありがとうございます…。」


男は無言で手を離し、そのまま部屋に入る。そして、セラフィーナをじっと見て、口を開いた。


「気分はどうだ?」


「は、はい!大丈夫です!あ、あの…、先程は助けて下さり、ありがとうございました!」


セラフィーナはペコリ、とお辞儀をした。


「そうか。」


無愛想に頷く男にセラフィーナは戸惑いながらも続けて言った。


「た、助けてくれたばかりでなく、その服まで貸してくださって‥、」


セラフィーナを見つめる男と目が合い、ドキリとした。

思わず金色の瞳に見惚れてしまう。

やっぱり、綺麗‥。そう思っていると、


「貴様…、聖女セラフィーナだな。」


男の言葉にセラフィーナは目を見開いた。


「ど、どうしてそれを…?」


「青い髪に青い瞳。それだけの特徴があれば察しはつく。」


「あ、あの‥、私は‥、」


「聖女である貴様が何故、あんな所にいた?」


「っ、私は…。もう…、聖女ではありませんから…。」


俯きながらセラフィーナは絞り出すような声でそう言った。男はそれを聞いても無表情でそうか、と言っただけだった。


「だ、だから…、その…、私を助けて頂いても何のお礼もできないのです。」


セラフィーナは恐る恐るそう言った。彼が何故、自分を助けてくれたのかは分からない。

でも、きっと…、セラフィーナが聖女だと気付いていたから助けてくれたのではないか?

セラフィーナはそう思った。聖女であるセラフィーナを助ければ神殿や王家に恩を売れるし、それで何らかの交渉をするつもりなのかもしれない。黒の森は正体不明で謎に包まれている為、その思惑は分からない。

でも、セラフィーナが聖女だから助けたと考えるのが妥当だろう。だが、セラフィーナは今はもう聖女の資格を剥奪された身。彼に返せる恩をセラフィーナは持ち合わせていない。


「何を勘違いしているか知らないが、俺は貴様が聖女だから助けた訳じゃない。」


「え…?」


「女だから助けた訳でもない。黒の森には本来、人間は立ち入ることを禁じている。」


「えっと…、じゃあ、どうして…?」


「貴様には恩がある。森の掟により、受けた恩は返さないとならない。だから、生かした。それだけだ。」


「恩…?でも、私とあなたは初対面で…、」


「恩があるのはこいつだ。」


不意に男が手を伸ばした。

すると、バサリ、と翼を羽ばたかせて黒い羽根を散らしながら男の腕に一匹の大鴉が止まった。

他の鴉よりも遥かに大きい。

紅い瞳をした真っ黒な羽根をした鳥…。

その首元には赤いリボンが巻かれている。

セラフィーナはふと既視感を抱いた。


「え…?その、リボン…。」


かあ、と大ガラスはバサバサと羽を羽ばたいた。

その鴉からは敵意を感じない。それに、何だか…、見覚えがあるような…。

セラフィーナは大ガラスに近付き、じっと見つめた。


「…!もしかして…、あなた、あの時の怪我していた鴉!?」


かあ、とひと鳴きする鴉にセラフィーナは瞳を輝かせ、鴉に手を伸ばした。


「まあ…!あなた、無事だったのね…!

あの時はあんなに小さかったのにこんなに大きくなって…、気付かなかったわ。私があげたリボン、大切にしてくれていたのね。」


セラフィーナは鴉の羽根に触れ、優しく撫で上げた。

かあ、と鳴き、すりすりと頭を擦りつける鴉は人懐っこくて愛らしい。


セラフィーナは思い出した。神殿に引き取られたばかりの頃、中庭を散歩していた時に神殿に迷い込んだ鴉の子供を見つけたのだ。その鴉は怪我をしていて、弱り切っていた。

鴉は邪悪の象徴として忌み嫌われる動物だった。

神殿の人間に見つかれば殺されてしまう。そう考えたセラフィーナはこっそりと神官達にバレないように治癒魔法を施した。たちまち、怪我が治った鴉は愛らしい鳴き声を上げてセラフィーナに擦り寄った。

可愛いな、と頬を緩ませ、セラフィーナは鴉に自分の髪を結んでいたリボンをあげた。

そして、見つかる前に早く逃げて、と促すとまるで言葉を理解したかのようにかあ、と鳴くと鴉は飛び去って行った。その鴉とはそれっきりだった。あの時の鴉が今、目の前にいる鴉なのだとセラフィーナは確信した。


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