第1話
黒の森。それは、人ならざるものが住む恐ろしい森の名だ。
その森は、日の光が射さず、木や葉が森全体を覆い、森全体が暗く、陰鬱とした印象を与える。黒い森に近付いてはいけない。
人間が森の中に入れば、生きては帰れない。そう言い伝えられている。
黒い森には異形の化け物が住んでいるといわれ、夜な夜な獣のような鳴き声や叫び声が木霊する。森に入った者で帰ってきた者はおらず、森に入った人間は死を迎えると恐れられた。
やがて、その森には罪人を処罰する為に送り込まれるようになり、重罪を犯した人間は黒い森に置き去りにされ、それから二度と生きて帰ってきた者はいなかった。そして、今日もまた一人、罪人が黒い森に連れていかれることとなった。
ガタガタと罪人を護送する馬車が不規則に揺れ、セラフィーナはぼんやりとした頭でうっすらと目を開けた。両手両足を手枷と鎖で繋がれた手足を見下ろし、これまでの出来事を思い返した。
―どうして、こんな事になったんだろう。私はただ…、国の為に尽くしただけだったのに…。
セラフィーナは侯爵令嬢であり、聖女だった。莫大な魔力と珍しい光属性の持ち主であったことから歴代の聖女と同じ光属性ということで教会はセラフィーナを聖女として認めた。それから、セラフィーナは親元を離れ、ずっと教会で育てられ、能力を開花させ、聖女としての務めを果たした。
セラフィーナは聖女として選ばれたと同時に王太子の婚約者となった。それから、十年セラフィーナはひたすら聖女として、王太子の婚約者としてふさわしい女性になれるように努力した。王妃教育と聖女としての勉強の両立は大変だったが必要とされるのが嬉しかった。
セラフィーナの両親は家族の情が薄く、娘のセラフィーナも家を繁栄させる道具としてしか見てくれなかった。
そのため、セラフィーナは愛のある家庭を築きたいと願った。
婚約者である王太子とよき夫婦になれたらいいと…。王太子は美しいし、剣の腕も立ち、魔力も高く、将来有望な方だ。彼とならきっと穏やかな関係を築けるとそう信じていた。
だが、セラフィーナが十六歳の時に運命の歯車が狂った。突然、教会の儀式の最中に現れた少女の存在によって。
少女は黒髪黒目の神秘的な容姿の娘だった。異世界から来たというその娘は貴族の娘と違い、マナーも礼儀も心得ていなかったがどこか人を惹きつける魅力があった。王宮は異世界の娘を保護し、客人として迎えた。
異世界の知識を披露する彼女に興味を引かれ、王太子だけでなく、王太子の側近達までもが異世界の娘と交流を持つようになった。異世界の少女…、メイという名の少女は王太子や高位貴族の息子を次々と虜にした。
更にメイは強い魔力があった。セラフィーナよりもずっと強い魔力が…。セラフィーナの回復魔法とは比べ物にならない位に強力だった。また、メイは攻撃魔法も扱えた。彼女は次々と魔法を習得していき、その技をモノにしていった。次第にセラフィーナよりもメイこそが聖女なのではという声が上がり、王家と教会はメイを聖女として承認した。
そんなセラフィーナに待っていたのは偽聖女の烙印だった。聖女であるメイを嫉妬から殺そうとしたと身に覚えのない罪状の他にも数々の罪を擦り付けられ、聖女の名を騙った罪でセラフィーナは重罪人として拘束された。誰もセラフィーナを庇ったりしなかった。セラフィーナは所詮、聖女の代用品でしかなかった。用済みになったら、捨てられる。そんなつまらないちっぽけな存在だったのだと思い知らされた。
「セラフィーナ!我々を欺いたばかりか、醜い嫉妬でメイを害そうとするなど恥を知るがいい!そのような性根の腐った女は俺にふさわしくない!貴様との婚約を破棄する!」
セラフィーナには婚約破棄ならびに身分剥奪を命じられ、黒の森へ捨て置かれるという罰が言い渡された。
それは、すなわち死刑と同じだった。セラフィーナは自分はもうすぐ死ぬのだなと思った。不思議と心は落ち着いていた。王太子達に糾弾され、憎悪と敵意の眼差しを受け、実家からも見捨てられ、助けた筈の国民からも罵倒され、セラフィーナはもう…、いいや。と諦めてしまった。
―最初から…、私には何もなかったんだ。何も…。
メイは王太子の隣に寄り添い、怯えたように震えていたが最後にセラフィーナがメイを見た時、一瞬だけ彼女は嗤っていた。
その時の笑みがまるで魔女の様で自分は嵌められたのだと分かったがもうどうでもよかった。
窓を見れば、もう日が暮れている。きっと、この空を見るのも最後になる。そう思い、セラフィーナはその光景を焼き付けておこうと思った。
すると、突然ガタン!と大きな音と衝撃がして馬車が止まった。何…?と顔を上げると、勢いよく扉が開かれた。
「きゃあ!?」
そのまま兵士たちに乱暴に腕を掴まれ、地面に引きずり落とされた。
突然の事に訳が分からずに呆然と兵達を見上げるセラフィーナに兵達はニタニタと下卑た笑いを浮かべ、セラフィーナの肩を掴むと、そのまま地面に押し倒した。
「な、何を…!?きゃあ!?」
ビリッとドレスを切り裂かれ、セラフィーナは悲鳴を上げた。
「嫌あ!やめて…!」
男達に押し倒され、ドレスを破られ、セラフィ―ナは泣き叫んだ。
「うるせえ!」
バシッ!と頬を強く叩かれる。強い痛みと口の中に広がる血の味にセラフィーナは一瞬、くらりとした。
「さすが、貴族のお嬢様は肌が綺麗だな。」
「ヤッ…!」
服を破かれ、あられもない姿にされたセラフィーナは現実に我に返った。
「それに、いい身体をしているじゃねえか。」
「嫌あああ!離して!」
男達に肌をまさぐられ、破かれた服の隙間から胸を掴まれ、セラフィーナは必死に抵抗した。が、男の力には敵わず、びくともしない。
「い、痛ッ!」
胸を鷲掴みにされ、あまりの痛さにセラフィーナは悲鳴を上げた。
「へえ。結構でかいな。」
ほとんど布切れと化した服の生地を取り去り、セラフィーナの胸が露になった。年齢の割に育った豊かな胸に男達が興奮したように目をぎらつかせ、鼻息を荒くする。
「い、嫌ッ…!お願い!やめて!」
婚約者にすら見せたこともない体を晒され、恐怖と屈辱でセラフィーナは涙が止まらず、声も震えた。だが、セラフィーナが懇願しても男達は聞き入れることなく、下卑た笑いを浮かべ、セラフィーナの手足を抑えつけ、無理矢理足を開かせた。
「どっちが先にする?」
「最初に決めただろう。俺が先だ。」
「や、やめて…!誰か!誰か助けて―!」
セラフィーナが助けを求めた。
「ハハハ!馬鹿な女だ!こんな所に人がいる訳ないだろうが!」
男達はセラフィーナの悲鳴にせせら笑った。こんな男達に穢されるなら一思いに死んでしまいたい。
「ッ…、」
どうせ、このまま男達に凌辱され、最後は殺される。セラフィーナは覚悟を決め、舌を噛み切ろうとした。