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第1章 ブラッドリーとお嬢様⑥

「じゃ、じゃあ、例えば将来、アンジェリカ達は農業用の人形ドールを大量に作ったら、その全員と迷宮ダンジョンに入るわけ?」


「まったく。大概たいがいになさいな……そのような手間の掛かる事をするはずがありませんでしょう。ですから、人形使い(ドールマスター)迷宮ダンジョン探索に特化した人形ドールを少数連れて、幾つもの迷宮ダンジョンを巡って魔法水晶を過剰に集めるのですわ」


「……頑張れば過剰に集められるもの?」


「ですわ!」


 アンジェリカは自信たっぷりに微笑む。そんなら仕方ない。卒業して本当に孤独になる前に、この小隊パーティで偽ブラッドリーを作れるだけの魔法水晶を集めてみせようじゃないか。幸せな老後の為に! あ、今ちょっとアンジェリカみたいだったかもしれない。それはともかく。


「じゃあ俺、今のうちに頑張るわ」 


「じゃあ、と言うのが気になりますけれど……まぁ努力する姿勢は買うのですわ!」 


「そうだねぇ、みんなで頑張ろうか。じゃあ、さっそくだけど魔物だよ」


 ルーシャがおっとりと遠くを指差した。おっとりし過ぎじゃなかろうか。魔物の使った魔法だろう。ヴヴンっ! と大量の虫の羽音みたいな音を立てて、闇色の弾丸が飛んでくる!


「うわわわわっ!?」


 ブラッドリーは慌てて、ルーシャは慌てず騒がず余裕を持って、アンジェリカは悲鳴を上げて闇色の弾丸をかわす。


「きゃあっ!? ――ラピスラズリ!」


「承知した」


 アンジェリカがラピスラズリに手をかざして魔力を注ぎ込む。


 名家プロウライトの令嬢ならではの魔力で、猫型の人形ドールの身体が一回り大きくなったように見えた。アンジェリカの魔力の支援を受けて、ラピスラズリが地を這うように姿勢を低くして駆ける。


 名家だからこその豊富な魔力とも言えるし、豊富な魔力を持っていたから名家になったとも言える。鶏か卵かというような問題だ。どっちでも良い。ともかくアンジェリカは良い人形使い(ドールマスター)の様だった。


 ラピスラズリは、闇色の弾丸を放って来たらしい小人型の魔物――ゴブリンにあっという間に肉薄する。剣のように伸びた猫の爪が、ゴブリンの喉首をあっさりとき切った。


「ギゥッ!?」


 緑色の肌に、尖った耳を持つ小人のような姿をしていたゴブリンが、断末魔の悲鳴を上げた。かと思うと7色の光に包まれて、小さな水晶になって地面に落ちた。魔法水晶、だ。


「おぉー! ラピスラズリ、凄いな!」


「ほほほ! 当然ですわっ! わたくしのラピスラズリですもの!」


「かたじけない」


 汚れた爪を舐めながら、ラピスラズリ。既に仕事人の風格がある。


 ブラッドリーの人形ドールたるオニキスは、ブラッドリーの頭の上でのんびりしている。ルーシャの人形ドールたるパールも、ルーシャに抱きしめられていたままだった。ブラッドリーが言うのも何だけど、この小隊パーティ、大丈夫だろか。3人で入った意味、あるのか。


 ルーシャは活躍出来なかったことをちっとも気にしていないみたいだった。おっとりとブラッドリーに解説を続ける。


迷宮ダンジョンの中で、魔法水晶は今みたいに魔物の形を取ってるよ――っていう事は、知ってた? ブラッドリーくん」


「知らなかった……」


「まったく、無知ですわねっ!」


 ラピスラズリの喉を撫でながら、アンジェリカ。


「ブラッドリーくんは編入してきたばっかりだから、仕方ないよアンジェリカ。アンジェリカだって知らない事はいっぱいあるんだから、ブラッドリーくんの事ばっかりいじめちゃ駄目だよ」


「むぅ……!」


 アンジェリカはちょっと頬っぺたを膨らませた。ちょっとだけだった。すぐに頬っぺたから空気を抜くと、偉そうに胸を張って告げる。


「ルーシャが言うなら仕方がありませんわね! 分からない事はわたくし達に訊くと良いのですわ!」


 この子、ほんとに単純だな。ブラッドリーは思わず、将来大丈夫かな、とかいらん心配をしてしまう。言いはしないけど。


「ありがとう、ルーシャ、アンジェリカ。じゃ、さっそくで申し訳ないんだけど……」


 ブラッドリーは辺りを見回す。うん。無い。無くなってる。


「入って来た時に使った扉、消えてない?」


「消えますわよ」


 実にあっさりと、アンジェリカ。


「そうだねぇ」


 ルーシャも頷く。いや、帰りどうすんの? とかブラッドリーが尋ねる前に、ルーシャは続けてくれたけど。


「だけど、迷宮ダンジョンの中の何処どこかには、帰り用の扉もあるはずだよ。だから、私達は魔物を倒して、迷宮ダンジョンを小さくして、帰りの扉を探すんだよ。と言うわけだから、はい、ラピスラズリ」


 地面に落ちた魔法水晶を拾って、ルーシャはラピスラズリに差し出す。律儀りちぎな猫型の人形ドールは首を振った。


「あ、そうか」


 ルーシャは気付いたように、アンジェリカに魔法水晶を渡した。


「ラピスラズリはアンジェリカが渡さないと食べてくれないんだったね」


「うふふ、ラピスラズリは頑固がんこなのですわ!」


 口では頑固とけなしながらも、アンジェリカは嬉しそうだ。ブラッドリーの頭の上のオニキスは? 魔法水晶を渡されりゃ、差し出したのが誰でも食べるさ。知ってるし、ブラッドリーとしても文句は無い。誰から渡されても食べ物は食べ物だ。


「なぁオニキス?」


「何やら分からぬが、同意しておこう、我がマスター


 声を掛けると、落ち着き払った声で蜥蜴とかげ型の人形ドールは応じた。オニキスは出来た人形ドールだ。うん。


「オニキスとブラッドリーはとても仲良しですね」


 微笑ましそうにパールがルーシャの腕の中から言う。


 人形ドール自我じがは、はじめはマスターの自我をして形成けいせいされる。そして魔力を与えられるごとに、全知たる人造人間ホムンクルスとしての知識を思い出していく。


 だから、オニキスはブラッドリーに似て怠惰たいだな所が少しあるし、かなりの魔力を注ぎ込まれているラピスラズリはアンジェリカよりもはるかに老成している。そしてパールは?


 糸のように細い目をした羊型の人形ドールは、笑っている様な顔で続けた。


「オニキスは造られたばかりだというのに、とても老成しているように見えます。ブラッドリーの魔力は、とても高いのではありませんか?」


 ルーシャに似て、油断ならない。

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