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人形と舞踏を。  作者: 桜木彩花。


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第2章 ブラッドリーと人形③

「はぁぁたぁぁらぁぁきぃぃたぁぁくぅぅなぁぁぁい」


 午後もアンジェリカとルーシャにしごかれた後、自室に戻って来たブラッドリーが呻いたのはいつもの台詞だった。働きたくない。ブラッドリーの頭の上で、オニキスが身じろぎする。


「我がマスターよ」


 ブラッドリーが望んだわけでは無い豊富な魔力によって、どこか老成したような雰囲気のある蜥蜴とかげはブラッドリーを慰める様に言った。


「気持ちは分からなくもないが、あのお嬢様の前で言うのは失敗だった」


「……まぁなぁ」


 ブラッドリーの発言で機嫌を損ねたアンジェリカは、午前の当社比3倍くらい厳しかった。特訓ですわ! って100回くらい聞いた気がする。


「プロウライト家は、人形使い(ドールマスター)の中でも戦争に特化した一族だ。怠惰たいだが自身の命の安全に関わるような一族であるため、特訓に力が入るのだと思われる」


 漆黒の蜥蜴が当然のように新情報を投げつけて来る。ブラッドリーはまだこの人形ドールが、知識をどこから仕入れて来るのが不思議で堪らない。何時だってブラッドリーの頭の上に乗っかってるだけの筈なのに、こうしてブラッドリーが知らないことを告げて来る。


 ブラッドリーは目をつむって首筋を押さえた。


「戦争屋か」


「我がマスターよ、それは我がマスターがキモーと罵られるのと同じように、侮蔑ぶべつの言葉だ」


「うん、知ってて言った」


 アンジェリカは善良だ。1日一緒に過ごしただけでも、分かる。だけど。


「あの子も戦争屋になるのか……」


 このアストリー王国の王都にある、レインウォーター学園で過ごしている限りは実感できない。でも、この世の中では、いつの時代でも世界の何処かでは戦争が起こっている。アストリー王国も例外ではない。国境線付近では十数年近く隣国との小競り合いが繰り返されている。


 そして現代の戦争で主に戦うのは誰か? ――人形ドールだ。そして、人形使い(ドールマスター)だ。


 人道的な観点から考えて、当然の流れだった。人は死んだらそこで何もかもが終わってしまう。人形ドールは何度だって作り直せる。魔法水晶さえあれば、という但し書きがつくのはさておき。ならば、人では無く人形ドールに戦わせれば良い。


 もう少し現実的な観点から言うと、マスターの命令に絶対に従い、疲れも恐怖も感じることも無く戦い続ける事の出来る人形ドールは非常に優秀な兵士だった。手足が千切れようが、平然と進軍してくる相手と戦えるのは何か。やはり同じ人形ドールだけだ。


 戦争屋――正しく言うなら戦術級人形師。


 アンジェリカが向いているとは、とても思えない。


 戦術級人形師は、人形ドールを操って人形ドールを倒せば良い――わけでは無い。


 相手国の人形使い(ドールマスター)を倒すのだ。殺すのだ。人形使い(ドールマスター)を殺さなくては、人形ドールは止まらない。だけど、あの努力家で善良そうな女の子が、ラピスラズリを操って人を殺す? とても信じられない。ブラッドリーが知っている戦争屋と、あまりにも違い過ぎる。


 戦争屋って言うのは、血も涙もない魔女の集まりだ。そうでなくてはならない。アンジェリカみたいな女の子が、その集まりに加わって良いはずが無い。


 オニキスを頭の上から下ろして、ベットに寝転がる。朝から外に干しておいた布団からはお日様の匂いがした。窓の外からは夕日が柔らかく差し込んで来る。こういう場所だ。静かで、柔らかくて、温かい。こういう場所がアンジェリカには相応しい。


「我がマスターよ」


 プニプニと柔らかい爪で、オニキスがブラッドリーの頭を引っ掻いて来る。


「何だよ……俺はもう寝る……」


「客人だ」


 オニキスが言い終えるのが早いか、扉が2回叩かれた。ブラッドリーは息を潜めて、居留守を決め込む。誰かがブラッドリーの居室に訪れる予定はない。予定外の訪問が、良い知らせを運んでくることは少ない。よってブラッドリーは無視をする。


 んだけど、しつこく扉は叩かれる。知らない女の人の声で、「ブラッドリー、いるのは分かっています」とかまで聞こえて来る。逃げられなさそうだ。


 むっくり起き上って、オニキスを頭に乗せる。


「諦めるのは得意か、我がマスターよ」


 からかう様に蜥蜴が笑う。


「得意だよ」


 ブラッドリーはむっつりと小さく答えて、扉を開いた。


「何の御用でしょうか?」


 ブラッドリーは言いながら、扉の外にいた人物を観察する。レインウォーター学園の制服を着ている。けど、知らない人だ。首元のリボンの色は黒。最高学年を示していた。知らない先輩だ。


 だけど何となく、誰か検討は付いた。絹のような長い黒髪に、宝石みたいにきらきらしている青くて大きな瞳に、果物みたいに艶めいた唇の、ちっ……さい顔した先輩だ。


「わたくしはアンジェリア・プロウライトと申します」


 プロウライト。やっぱりアンジェリカのお姉さんだった。って言うか、娘の名前付けるのに、両親手を抜き過ぎだろう、とか突っ込みたくなる。妹はアンジェリーナです、とか言うなよ。


「はじめまして、ブラッドリーです」


 突っ込みは堪えて、先輩に敬意を払おうと軽く頭を下げる。オニキスが落ちそうになって、慌てて押さえた。


 ただでさえ冷え切ったアンジェリアの視線が、さらに鋭くなる。こわっ。顔立ちだけは似てるけど、アンジェリカと全然似てない。まぁ、戦争屋の長女と言われれば、納得できなくもないけど。


「わたくしの愚妹ぐまいの件でお話があります。お時間をいただけますか」

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