自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道がみえてくる。
とある国の王都にて。
「それでは、宜しいですね?」
真面目が服を着ているような男の口からでた確認の言葉に、女はゆっくりと頷いた。
今まさに一世一代の契約が結ばれた瞬間である。
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王様は困っていました。
上層部からは早く後宮に妃をいれろとせっついてくるが、まだまだ政敵も多く市井もまた代替わりしたばかりの王の一挙一動を密やかに憂いている状況です。
そんな中で適当な妃を選ぶことは出来ません。
なんせ妃の候補になる女といったら上流階級でプライドの高さはそんじょそこらの山なんて目じゃないほどの高さですから。
そんな女たちが妃に選ばれたならば国庫を脅かしかねません。
しかしながら、いつまでも後宮を開けておくのはそれはそれで問題です。あらぬ噂を流され手強い狸爺どもに自分の手札として娘や孫を難癖つけて押し付けてきそうです。それをいちいち波風立たぬようあしらうのもそれはそれで面倒です。
ですから、王様とその側近は考えました。
国庫を脅かすこともなく、然れども後宮に妃が存在し、誰にも文句を言わせぬ方法を。
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雪が解け暖かくなり始める春。
ジルは綺麗に整えられた庭園をそっと歩き、私を見なさいと言わんばかりに咲き乱れた花達を我が子のように愛でる。
「…お嬢様」
「今行きます」
申し訳無さげにこちらに声をかける執事のガートンに返事をして、屋敷の中に戻った。
「馬車の用意は?」
「手配済みでございます。」
「ドレスに可笑しなところはないかな?」
「いつも通り、お綺麗です。」
「ありがとう。じゃあ、いきましょう。」
王宮に。
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その書状が届いたのはつい先程。
郵便配達の坊やがやってきたと思ったらどうやらその子は王の使いであったらしい。
証拠となる王家の印が押された書状と、王宮への許可証を残してその坊やは跡形もなく消えてしまった。
残ったそれに慌てたのは執事のガートンとメイド長のリズだ。
旧家で由緒正しき家柄であるはずなのにこの屋敷にいる人間は異様に少ない。
二人が騒いだとしても飛んでくるのはよくうちに遊びに来る小鳥くらいなものである。
そんな状態の我が家に王が何のようがあるというのだろう。
これは賊の罠かもしれません、と震え声のガートンにクスリと笑った。
賊がなんのためにこんな面倒なことをするのか、それならば人手の少ない屋敷に直接侵入すれば金品は得られるし、私のような小娘が目当てならばこんな屋敷でのうのうと暮らしている貴族の娘よりももっと人にみられずに小娘を拐得る場所はいくつもあるだろう。
身代金目的の誘拐ならばもっと金を持っている貴族を狙うに違いない。なにより、身代金なんぞ払ってくれる人なんていないのだから。
本当はそれが本物だとわかっている癖に、現実を受け入れられなくてオロオロしているのだ。
「その印は確かに王からのものだから、これは行くしかないわね」
さて、支度をするから、手伝ってくれる?
そういえば優秀な彼らはすぐに動き出してくれた。