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不安
震えている…。
自分でもわかる。
大切な人を守れなかったこと。失ってしまうかもしれないこと。
不安で震えがとまらない。
『雄介…。少し休まないと。紗世ちゃんはきっと大丈夫よ。強い子だってお母さまが言ってた。雄介をおいていくわけないわ。信じて待ちましょう』
真樹がそっとあたたかいコーヒーをさしだす。
『ありがと…。紗世を信じてる。でも不安で。男ってこういう時情けないな…』
新藤からかすかに笑みがこぼれる。
『ナイフは小さなものだったし傷は思ったより深くないそうよ。出血は多かったけど大丈夫。じきにオペも終わるし麻酔が覚めたら話せるようになる。本当のこというとわたしもこわい。でも紗世ちゃんはせっかくつかんだ幸せをおいていったりしない』
真樹が新藤の手を強くにぎりしめる。
時間がとまったようだった。
何もかもとまってしまったようだった。
どれくらいたっただろうか。
オペ室のランプが消え先生がでてきた。
『手術は成功ですよ!奥さんはよく頑張りました。もう大丈夫。しばらくしたらお話もできますよ』
『ありがとうございます』
一気に力が抜け新藤はその場に倒れこんでしまった。