信頼
昨日まで言いたいことや聞きたいことがあんなにたくさんあったはずなのに…。
いざひさびさに会えるとなると嬉しさが勝ってしまい、不安や怒りはとんでどこかへいってしまったようだ。
それで何も聞かずに帰ったらまた翌日には同じことで悩むだろう。
わかっている!わかっているのだ!!
「お待たせ。待った?」
待ち合わせの時間から15分過ぎた頃に時田がやってきた。
「大丈夫だよ」
ほっとするような笑顔で紗世が答える。
こうやって一緒に並んで歩くのもひさしぶりだ。隣に彼がいる!それだけでなんだか嬉しい。
「とりあえず腹へったな」
時田の問いかけにだまって頷く。
「紗世の好きなもの食べにいこっか。高台の上の寿司屋いこう」
わたしの不満や不安に気づいているのかひさびさのデートだから喜ばせようとしてるのか。
わからない。
その日食べたものは全ておいしかった。普通の水でさえも特別な
「魔法の水」に思える。
好きな人と一緒にごはんを食べる。なんて幸せなことだろう。
これからもこの幸せが続きますように。そう願うなら今の自分の正直な気持ちを伝えなければならない。
何度も口を開こうとしたがなかなかうまく言葉がでてこない。勇気をだしてやっとのことででた言葉。
「わたし時田さんを信じていいですか?」
紗世は真っすぐ時田の目を見ていう。それに応えるかのように時田も目をそらすことなく真っすぐ紗世を見てこたえた。
「信じていいよ」
好きな人を信じたい。
この日、紗世は時田を信じることに決めた。