緑の中で
「緑のにおいがする」
そう言って大きく息を吸う。
「紗世。あんまり走るなよ」
「大丈夫だよ」
満面の笑みで飛び跳ねながら走っていく彼女を追いかける。
「待って」
「やだ!待たない」
くすくす笑いながら走る彼女にすぐ追いついて、捕まえる。
「あーあ。捕まっちゃった」
本気で悔しそうな顔をする紗世は少女のようだ。ふいに彼女がどこかへ行ってしまうような気がして思わず抱きしめた。
「どうしたの?雄介」
「捕まえてないといなくなっちゃう気がしたから」
「わたしのこと好き?」
「好きだよ」
「じゃあ!大丈夫!両思いだもん」
するりと彼の腕の中から抜けてまた走っていく。
随分離れたところから手を振っている彼女を見て、足が早いんだなと感心してしまう。
「これおいしい」
夜は彼女の大好きな海鮮料理だ。お刺身を食べて幸せそうな顔をする紗世を見て新藤も幸せになる。
改めて人を愛することがどういうことかわかった気がした。
温泉に入って日本酒を飲んで夫婦水入らずのゆったりした時間を過ごしている。
化粧をとった紗世もあいかわらずキレイだ。
「あのね…雄介」
「うん?」
「わたし雄介に言ってないことがあるの…」
「なに?」
「実は一週間前くらいに佐田さんから電話があったんだ」
紗世の様子が変だった理由がやっとわかった気がする。
「近くにいるから会いたいって。スーパーで買い物してた時にかかってきたんだけどたぶん同じお店にいたんだと思う。今度会おうって言われて。わたし『嫌です』って手紙を書いちゃった…。ひどいなって思ったんだけど。雄介と一緒にいると幸せなの。だからこの幸せだけは守りたいって思ったの」
「紗世はバカだな。何でもっと早く言ってくれなかったの?俺のこと好き?」
「うん。好き」
「じゃあ!大丈夫!両思いだ。心配いらないよ」
「それわたしのセリフだよ」
ふたりで笑いあう。
「紗世…」
ふいに新藤が真面目な顔をする。
「なに?」
「愛してる」
「なんか恥ずかしいな」
彼女の浴衣にそっと手が触れる。
ピリリリ…。
その時突然電話がなった。