不安の原因
佐田涼子さま
突然手紙を書いてごめんなさい。
この間は電話ありがとうございました。
あの時わたしはまた今度会おうって言ったけれど本当は今度なんてないと思っています。何を思ってわたしに会いにきてくれたのかわかりません。でもわたしはあなたに会うのがこわいんです。
『幸せになったのだから良いじゃない』と思われてしまうかもしれないけれど過去を思い出すといまでも辛いです。
佐田さんが悪いわけではないことわかっています。あなたに会いにいったのは時田さんだし、そうさせていたのはわたしかもしれません。
それでも時々思い出しては苦しくなります。
わたしはあなたが思っているような純粋な人間ではありません。嫌いな人だっているし、人を憎いと思うこともあります。
自分の幸せしか考えてないと思われるかもしれない。それでもわたしはこの幸せを守りたいと思っています。
もうわたしにも新藤にも会いにこないでください。
ひどいことを言っているのはわかっています。でも正直な気持ちです。
ごめんなさい。
新藤紗世
キレイな字で書かれた手紙から彼女の真面目さと意志の強さが伝わってくる。
頭の良い人だ。涼子の企みに気づいたんだろう。時田の時に学んだのかもしれない。
何をしても適わないのは自分が一番よくわかっている。それでもしつこく彼女を追い詰めようとする…。
新藤さんにメールをしよう。
携帯のメールアドレスは最後まで聞き出せなかった。でも仕事で使っているメールアドレスなら知っている。涼子は急に楽しくなってきた。
車の中ではラジオの音だけが響いていた…。いつもなら紗世が一生懸命話をしてくれるのに。今日は元気がない。
「疲れてるの?」
「ううん。違うの。ちょっと車に酔ったみたい。ごめんね。温泉楽しみだな」
にこっと笑う彼女はキレイだ。ついつい見とれてしまう。
「ついたら散歩しよう。今日は天気も良いし気持ちいいぞー」
「そうだね」
紗世の声が明るくなったのでホッとする 。
数日前から彼女の様子がおかしい。どこか元気がない。眠りも浅いようで時々うなされている。今日こそは彼女が話してくれたらと思う。
彼女を不安にしているものがあるなら取り除きたい。彼女を誰よりも幸せにしたい。
赤信号で車が止まったとき。新藤は紗世の手をぎゅっと握りしめた。