孤独
「さっきたまたま飯塚さんを見かけて。お買い物ですか?このへんに住んでるのかなって思って。急だけどこれからごはんでもどうですか」
「佐田さんひさしぶりだね。今日はこれから夕飯の支度があって。ごめんね。でもまた近くにくる用事があったら誘ってね」
電話から聞こえる紗世の声は穏やかで優しい。そしてちょっと離れたところから見える彼女の顔は幸せそのものでキラキラ輝いている。
「佐田さん?」
涼子はほんの数秒だが紗世に見とれてしまった。
「近くっていまどこなの?スーパーの中にいるのかな?」
キョロキョロとまわりを見渡す紗世を見て涼子はとっさに柱の裏に隠れてしまった。
こんなみじめな自分を見られるのは恥ずかしい…。
そう思った。
自分の隣には昔から常に男がいたけれど誰も本気で愛さなかったし、愛されなかった。
急に不安になり都合の良さそうな男を呼びつけていつものように体を重ねる。
「涼子。ごめん。こういう風に会うの今日で最後にしたいんだ。俺、結婚することになったんだ。そろそろ家庭を持とうかなって。一緒にいると安心できる子なんだ」
「よかったじゃん。あたしは他にもいるし」
「うん!心配はしてない。涼子はもてるしさ」
そう言って別れた。
ガシャン。
自分の家に帰ったと同時にお皿を一枚投げつけた。
「なんなのよ。イライラする。みんなしてあたしをバカにして」
次々に食器を割って我に返った時には人差し指から血が流れていた。
「わたしの血ちゃんと赤いじゃん…」
自分には何もない。そう思った時、紗世に出会った。
生まれた時から全てを持っている彼女に激しく憧れた。そして日に日に憎くなった。
嫌がらせのようなことをしても彼女の表情は変わらない。こんな自分にも優しくしてくれる。そんな彼女だからまわりに人もたくさんいる。
最悪だと思った。
どんなに頑張っても紗世に勝てない。自分の存在を認めさせるために仕事も恋人も奪ってやろうと思った。
彼女が影で泣いているのを知っていた。それで満足したつもりだった…。
でも悲しくてもつらくても前向きに頑張ろうとする紗世がいた。何をしても彼女にかなわない。
わかった気がして余計にむなしくなる。
紗世が悪いわけじゃない。涼子にもわかっている。
どうすればこの孤独から抜け出せるのだろうか。
涼子のもとに紗世から手紙が届いたのはそれから一週間後のことだった。