魔法の10分
「こんなところで何してるの?」
安心したように微笑みドアの横に立っているのは新藤だった!
「新藤さん…。どうしてここに?」
「どうしてって言われてもなぁ。紗英ちゃんが飯塚のこと探してて…。俺も探さなきゃって思った!特に何かがあったわけじゃないけどなんとなくここにいるんじゃないかなって。このホテルには何度か来たことあったし」
「そっか!見つかっちゃったか」
弱々しく微笑む紗世に新藤が優しく手を差し出す。
「みんな心配してるよ。戻ろう」
紗世がすぅっと深呼吸をした。
その瞬間ここの部屋だけ時が止まったような錯覚をおこしそうになる…。
「あと10分だけここにいさせてくれませんか?10分したらちゃんと戻ります。みんな心配してるのはわかってる!でもお願いします」
上目使いで新藤を見つめる彼女。この状況で断れる男なんているんだろうか…。
「わかったよ!じゃあ、10分したら戻ろう」
「ありがとう」
彼女の顔がパッと明るくなった。
「わたしね…小学生の時好きな男の子がいたんです。まだ子どもだったし付き合いたいとか両思いになりたいとかそんなの全然なくて。ただ学校で会えたり話したりするのが楽しくて。今思うと初恋だったのかな。スポーツマンでかっこよくてモテモテの男の子だったの」
昔を思い出すかのように紗世がふふっと笑う。
「6年生の時近所のお祭りでその好きな子とたまたまふたりきりになったんだけど突然『俺飯塚のこと好きかも』って言われたんです。恥ずかしくて何もこたえられなかったけどわたしも彼が好きだったからやっぱり嬉しくて。でもその直後に仲良くしてた友達からその子が好きだから協力してほしいって頼まれて。今だったらわたしも好きだって言うと思うけどその時はそんな裏切りみたいなことできないって思った。ひとりでひたすら悩んで協力しようって決めたの。それからは何となくその好きだった男の子のこと避けるようになっちゃったけど。あとで聞いたら友達は彼がわたしのこと好きだったって気づいてたみたいなんです。でも取られたくないから先手をうって相談したんだって。今は笑って話せるけど当時は本当に真剣に悩んでたなぁ。公園にいたんだけど気づいたら真っ暗になってて。慌てて帰ったらお母さんもお父さんも妹もみんな心配してた。今もきっと心配してる…」
「そうだね。飯塚!他に言っておきたいこととか不満とか不安ない?あるなら今ここで全部吐き出してしまった方がいいよ。俺が全部聞くから。10分で吐き出して戻ろう。みんなはちゃんとわかってくれるよ」
今までみた中で一番優しい笑顔で新藤が頷く。彼の言葉で少しずつ紗世の中の不安が消えていくのがわかった。