彼女の行方
「本当どこにいったんだろう…」
紗英と時田が心あたりを手分けしてさがしていたが紗世の姿はない。
「もしかしたら理子さんのところに行ったのかな」
紗英の言葉を聞いて時田が深呼吸した。
「そうかもしれないね!学生時代の友達も来てくれているし誰かに会いに行ったのかな。ロビーの方をグルっと見てくるよ」
「じゃあ、わたしはもう一度この辺をさがしてみますね」
時田は紗英に了解と合図するように手をあげ、さっと階段を降りていった。
もしかしたら見逃しているのかもしれない。とりあえずもう一度化粧室へ行ってみよう。そう思って紗英も歩きだす。
「あ!紗英ちゃん!また会ったね。まだ式場に行かなくていいの?」
新藤がさわやかな笑顔で話かけてきた。
「新藤さん…」
「ここの奥に従業員の控え室があって!親戚の女の子がこのホテルで働いているから顔をだしてきたんだよ。ひさびさに会ったからついつい長くなってしまって…。危なく飯塚の結婚式に遅れそうになったよ」
紗英が一瞬言葉に詰まる。言って良いものか迷いためらうが…続けた。
「まだ式は始まらないから大丈夫です」
「あっ!そっか。まだ30分以上あるもんね!」
「そうじゃなくて…お姉ちゃんいなくなっちゃったから…」
「いなくなった?!」
「はい。時田さんが部屋を離れたほんの数分の間に姿を消してしまって…」
「化粧室とかはさがしたの?」
「さがしました。でも見つからなくて。母はすぐに戻るから心配いらないって言ってるんですが…」
「どこ行ったのかな…。俺も少しさがしてみるよ。ここのホテルには何度もきたことがあるし。詳しいから!心配いらないと思うけど一応。見つけたらすぐ戻るように言うから」
「あ…あの…」
紗英の最後の言葉も聞かずに新藤は走りだしていた。
彼の後ろ姿を見て「きっと今も姉のことが好きなんだろうな」なんとなくそんな気がした。新藤さんならお姉ちゃんを見つけてくれる。そう思ったからいなくなったことを打ち明けた気がする…。
「わたしもさがさなくちゃ」
着物で少々動きにくいが紗英も新藤とは別の方向へ歩きだした。