花嫁の母
「時田さん。お姉ちゃん化粧室にはいなかったです。どこに行ったんだろう…」
妹の紗英が戻ってきた。
「紗英ちゃんありがとう!本当どこに行ったのかねぇ。もう少しさがして見つからなかったらホテルの人たちにも協力してもらうしかないかなぁ」
時田が少し困った顔をして笑う。
「もうあの娘ったら…。どこに行ったのかしらね。普段は良い子なんだけど時々こういうことをして困らせるのよね。時田さんごめんなさいね。でもすぐに見つかると思うわ」
母親の美香子が心配そうに言う。
紗世は過去に2度ほど同じようなことをしたことがある。
小学6年生の時と高校3年生の時。
小学生の時は友達の家に遊びに行ったっきり夕方になっても帰らなかったのだ。事件にでもまきこまれたんだろうか?!と心配したがそうこうしているうちに帰ってきたので特に騒ぎにはならなかった…。
「どこにいたの?」と聞くと「ペットショップと公園」と答えた。どうやら子犬を見にいって、そのあとは公園にいたらしい。色々考えていたら暗くなっていたので急いで帰ってきたとのこと。
その次は大学受験の日。本命の大学1本に絞って頑張っていた娘にお疲れさまの意味を込めてごちそうを作って待っていたのだがなかなか帰ってこなかった。
連絡もなしに遅く帰ってきたことがなかったので心配したがもう高校生だし友達と遊びにでも行ったのかなと思っていた…。
ところが夜11時をまわっても帰ってこない。さすがに心配になってきた頃にひょっこり帰ってきた。
「友達とカラオケにでも行っていたの?」と聞く母に「雑誌で見てほしいなって思ってたコートを見にいってきたんだ。でも結局買わなかったよ。そのかわりにこれを買った」と小さなテディベアを見せた。
いつもは学校のことや友達のことをわりと隠さずに家族に話す娘だったがその時は特に何も言わなかったし、美香子も何も聞かなかった。
年頃の女の子だ。悩みはあるのだろう。そう思ったから。
結局いまだに理由はわからない。
でも今回も少し時間がたった頃に戻ってくるだろうと確信があった。
「時田さん大丈夫よ!きっと式までには戻ってくるから」
紗世によく似た笑顔で美香子が笑った。