最後のわがまま
事故から一週間がたった頃だろうか。新藤の携帯に連絡が入った。
「飯塚です。おひさしぶりです。連絡が遅くなってしまって本当にごめんなさい…。新藤さんの時間がとれる時でいいんです。一度会ってもらえませんか?」
「元気そうでちょっとホッとした。時田さんはどう?」
「だいぶ落ち着いています。足やらろっ骨やらが折れてるからまたベッドの中だけど本人は元気みたい」
「そっか。それなら良かった。今日は仕事がたて込んでいて無理そうなんだ。明日以降でも大丈夫かな?」
「わたしはいつでも大丈夫です。なんか…ごめんなさい」
「なんで謝るの?じゃあ、明日。8時に うちの会社の近くの寿司屋で。場所わかるかな?」
「わかります。じゃあ、明日…」
電話を切った新藤はひとりつぶやく。
「明日とうとうお別れを言われるのか…」
せつなそうに笑う。
約束の時間の30分も前に彼女はお店に到着していた。お店に入るとすでに新藤がきていて店主と話をしていた。
「新藤さん…。早いですね」
「あぁ。仕事が早く終わったんだよ。だから早めにきておしゃべりしてた」
「いらっしゃいませ」
性格の良さそうな店主が紗世に笑いかける。
「今日は素敵なお嬢さんがくるっていうんでうちで一番豪華な座敷を用意してますよ。個室になってるんでふたりでゆっくり食事を楽しんでくださいね」
「ありがとうございます」
店主が新藤に「ずいぶん綺麗な子だな」と耳打ちする。
席について早々に紗世が口を開く。
「あの新藤さん…」
「待って!ここの寿司さ!すごいうまいんだよ。せっかくだから食べよう。話は食事が済んでから」
「ごめんなさい…焦ってしまって。じゃあ、お寿司いただきますか」
にっこりと笑う紗世を見てやはり新藤はこの笑顔が好きだと思う。
一通り寿司やらお刺身を堪能したあとにアイスクリームがでてきた。
「アイスだぁ」
目をキラキラ輝かせる彼女を見て思わず吹き出す。
「え?!何?」
「アイスでそこまで感動できるなんて飯塚らしいなって思って」
「だって…アイス好きだし」
顔を真っ赤にして下を向く彼女が愛おしい。
「あの新藤さん…。この間はありがとうございました。わたし取り乱してしまって。事故のこと聞いて頭が真っ白になってしまって…。新藤さんがいなかったらちゃんと病院までたどり着けなかったかもしれない。それから…」
しばしの沈黙。
「それから?」
「それからごめんなさい。わたし新藤さんの優しさを利用してた。苦しい時あんなにそばにいてくれたのに。またあなたを傷つけてしまった…。新藤さんに惹かれていたのは本当です。これからずっと一緒にいられたらいいなって。でも事故があって…結局時田さんをまだ忘れられていない自分がいたんです。彼を失いたくないって思った。自分さえ良ければ人を傷つけていいのかって悩みました。新藤さんごめんなさい…。今まで本当にありがとうございました」
「病院で君を見て自分に気持ちはないなってわかってたよ。やっと両思いになれたって思ったけどこればっかりは仕方ないよ。俺はさ…飯塚が幸せならそれでいいと思っている。その代わり最後にひとつだけわがまま聞いてくれる?」
「わがまま?それであなたが許してくれるなら…」
「よかった…食べ終わったら店でよう」
会計やら挨拶やらを済ませ新藤の車に乗り込む。
「新藤さんどこにいくの?」
紗世は気になって問いかける。
「ま、それも含めて俺のわがままだと思ってよ」
車が走りだす。