夜明けのドライブ
「時田さんの容体は?」
「わかんない。でももうすぐ目が覚めると思います。紗世の顔見てたらそんな気がした…」
「そっか…。それなら良かった」
「うん…」
新藤と理子がポツリポツリゆっくり話をしていると時田の病室に先生やら看護士やらが入っていくのがみえた。慌ただしい雰囲気からしてどうやら彼が目を覚ましたらしい。
「よかった…。本当に良かったぁ」
緊張がほぐれたせいか理子の体の力が一気に抜ける。
「じゃあ、帰ろうか!」
新藤が腰をあげた。
「そうですね…。一旦帰りましょうか。ちょっと待っててください。紗世に挨拶してくるから」
パタパタと足音をたてて病室へ消えていった理子を眺めて新藤は大きなため息をついた。
ほどなくして彼女が戻ってきて病院をあとにした。
「飯塚の様子は?」
「落ち着いてた。着替えとか持ってこようか?って聞いたんだけど…大丈夫だって。時田さんのご両親が着いたら家に帰るからって。新藤さんに悪いことをしたってすごく気にしてたみたい…」
「人の気持ちばっかりは仕方ないよ。いくらお金があっても気持ちだけは買えないから。飯塚が弱ってるとこにつけこんだ俺にも責任があるんだよ。だからおあいこ…」
「新藤さんは優しいですね。紗世も新藤さんみたいな人好きになれば幸せだったのに。あの子は笑顔が一番似合うから。はじめて紗世に会った時、綺麗でかわいい子だなって。きっとそれで今までも得してきたんだろうなってちょっと嫌みなこと思ったの。でも仲良くなるうちに紗世自身の性格とか中身にどんどん惹かれていってどんどん好きになっていった。紗世が持つ意志の強さとか。誰よりも努力家なところとかもの同じ女としてすごく憧れる。だから紗世には絶対に幸せになってほしいって思ってます。さっき病室でね…紗世の真っ直ぐな瞳を見たの。わたしあの瞳が好きなの。ああいう瞳をする紗世は心が決まった時」
「失恋決定か…。今まで生きてきて失恋って経験したことなかったからある意味素晴らしい人生経験ができたかもしれないな」
「それって自慢?」
「自慢っていうか…強がり?飯塚のこと本気で好きだったからこうみえてけっこう傷ついてる。でも俺も理子ちゃんと一緒で彼女の笑顔が好きだから。彼女がずっと笑っていられるならそれでいいかなって。かなりイイ男だろ?」
「確かにイイ男(笑)他の女だったら彼氏を捨ててでも新藤さんの胸に飛び込んでくると思う」
「ありがとう。理子ちゃんも紗世に負けないくらいイイ女だと思うけどね」
「えー!なんかバカにされてる感じ?」
「本当だよ。小さくてかわいいし。素直で真っ直ぐだし。なんと言っても友達思いだし」
「ありがとうございます」
「俺の幼なじみは君にメロメロみたいだね」
新藤が意味ありげに笑う。
とっさに理子の顔が赤くなる。
理子を家まで送り自分のマンションへ帰る。部屋に入ると緊張がほぐれたのか服も脱がずにベッドに倒れ込む。
彼は鉛のように眠り続けた。